「宝島」(真藤 真丈) 沖縄の土の匂いのする、熱量と疾走感を感じる力作 | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

宝島

 

英雄を失った島に、新たな魂が立ち上がる。固い絆で結ばれた三人の幼馴染み、グスク、レイ、ヤマコ。生きるとは走ること、抗うこと、そして想い続けることだった。少年少女は警官になり、教師になり、テロリストになり―同じ夢に向かった。

超弩級の才能が放つ、青春と革命の一大叙事詩!!(「BOOK」データベースより)

 

第160回直木賞、昨年の山田風太郎賞をW受賞した話題作!特に直木賞は新進作家の登竜門と言いながら、このところ、島本理央、門井慶喜、佐藤正午、荻原浩、恩田陸と、大物・ベテラン作家さんの受賞が続いていたので、久々にフレッシュな方が、しかも初候補で初受賞ということで、大いに期待して本を手に取った。

 

第153回の直木賞を受賞した東山彰良さんの「流」という小説があったが、その沖縄版のような、熱量の高い、疾走感のある、ミステリーあり、冒険ありの小説で、500頁を超える長編だが、後半はページを繰る手が止まらず、夜中までかかって一気読み。

 

時は1952年、米軍占領下の沖縄で、米軍基地から物資を盗んで貧しい人々に分け与える、「戦果アギヤー」と呼ばれる義賊がいた。その戦果アギヤー中でも英雄だったオンちゃんが、嘉手納基地でのアギヤーの際に失踪してしまう。この小説を一言で言ってしまえば、その弟のレイ、恋人のヤマコ、友人のグスクの3人が、三様にオンちゃんを慕い、夫々のやり方でオンちゃんのような英雄になろうとする成長物語。

沖縄方言まじりのユーモアあふれる地の文章、語り部が誰なのか正体不明だが、沖縄の地の神さま、精霊たちみたいなものなのかな。作者は沖縄出身でも何でもないそうだが、この語りのおかげで、沖縄の土の匂いのする小説に仕上がっている。

 

個人的に沖縄は大好きで、万座ビーチやNAHAマラソンやで、都合10回以上は行っているが、沖縄の苦難の歴史を何も分かっていなかった。小説に出てくる宮森小学校への米軍機墜落事件、米兵による暴行殺人、毒ガス漏洩事件、コザ暴動、これらはすべて史実で、そしてそれが今も続く沖縄の基地問題につながっている。

 

実に盛りだくさんの小説を読んでしまった。W受賞も納得の渾身の一作。