「砕かれたハリルホジッチ・プラン」(五百藏容) 世界的名将は日本の組織の常識に対応できなかった? | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

砕かれたハリルホジッチ

 

2018年4月9日、ヴァイッド・ハリルホジッチ日本代表監督解任。たえず強い批判と誤解に晒されながら、見事ロシアW杯への切符を獲得してみせた世界屈指の戦術家の挑戦は、志半ばで砕かれることになった。だからこそ本書では、世界の潮流に立ち遅れた日本サッカーを変革しようとしたこの名将の戦略・戦術を徹底的に分析し、招聘の立役者・霜田正浩氏(元日本サッカー協会技術委員長)の貴重な証言とともに、次代へと引き継ぐことを目指す。

同時に、本大会目前に下されたこの決断に正当性はあったのか、日本サッカーが失ってしまったものは何か、日本サッカーの向かう先はどこか、を強く問いたいと思う。(「BOOK」データベースより)

 

ワールドカップ直前のハリルホジッチ監督電撃解任も、本戦での日本の予選突破と、決勝トーナメントでの強豪国ベルギー相手の善戦で、なんとなく結果オーライとなった。

でも、コロンビア戦は開始直後に相手がPKを献上、退場者を出すというとてつもないラッキーにもかかわらず、前半は一人少ない相手に守勢に回り一度は同点に追いつかれた。引き分けたセネガル戦はナイスゲームだったけど、ポーランド戦は攻め手なく、予選突破のために負けているのにボールを回さざるを得なかった。そしてベルギー戦、後半早々に立て続けにカウンターが決まり2-0とリードしたにもかかわらず、バイタルエリアでの空中戦を仕掛けられ対応策なく同点に、最後はそれまでにも何度かピンチになっていたGKの早いフィードからのカウンターに対処できなかった。

冷静に考えてみれば、1勝2敗1分け、得点6に対し失点7、いかに格上相手とはいえ、日本のサッカーの未来は明るいとまで言えるほどの結果ではない。

 

あの熱狂がもう遠い過去のように思える今、新生森保ジャパンはアジアカップのためにUAEの地にある。92年からの7大会で優勝4回、大本命の日本が、ワールドカップ出場など夢のまた夢の格下トルクメニスタン相手に3-2、オマーン戦はラッキーな笛に助けられ1-0、早々に勝ち点6を獲得し決勝トーナメント進出を決めたものの、その試合内容に「大丈夫か」の感は否めない。

守備的布陣でゴール前を固められたわけでもない、きっちり分析されていたという感じ。特にオマーンのオランダ人監督はなにかしかけをしてきたように見えた。苦戦の原因はよく言われる決定力不足だけではない。前半こそ何度かGKのファインセーブに得点を阻まれたが、後半はほとんどシュートを打てなかった。長友、酒井の両SBが駆け上がって仕事をするチャンスが少なく、中盤もボールの出所を潰され、日本のストロングポイントが消されているような感じを受けた。アジアの下位チームも普通にこういう戦術を使ってくる、それが今の世界のサッカーの潮流なのだろう。今日対戦するウズベキスタンは予選リーグの中では最強、さてどうなることやら。。。

 

日本のサッカーの伝統的戦術といえば、個の勝負では劣勢になることを前提にした、敏捷性を生かし局地的に数的優位をつくるアタックと、体を張った献身的な守備。それは、ピッチ全体を見ればどこかに数的劣勢を出現させるものであり、臨機応変のハードワークを選手たちに強いるものでもある。

対してハリルホジッチが強調したことはデュエルとタクティクス。全体のバランスを取りながら、相手の弱点をつくもので、論理的で反復可能なものであるが、メンタル・フィジカル両面で世界の一流に負けないことがその前提になる。

 

この本が主張するところはハリルホジッチを名監督として評価し、それを解任したJFAの不明を非難するものである。こういう本を読んでしまうと、ハリル率いるジャパンをワールドカップで見てみたかったなと思ってしまう。

 

解任の理由はコミュニケーション不足だといわれている。いかに全権を任されているとはいえ、上に対しては報告を怠らず、下に対しては相手が腹落ちするまで十分な説明を行う。世界レベルの監督は、日本の組織に対する的確な対応力を欠いていたということなのだろうか。