最強の殺し屋は―恐妻家。「兜」は超一流の殺し屋だが、家では妻に頭が上がらない。一人息子の克巳もあきれるほどだ。兜がこの仕事を辞めたい、と考えはじめたのは、克巳が生まれた頃だった。引退に必要な金を稼ぐため、仕方なく仕事を続けていたある日、爆弾職人を軽々と始末した兜は、意外な人物から襲撃を受ける。こんな物騒な仕事をしていることは、家族はもちろん、知らない。
『グラスホッパー』『マリアビートル』に連なる殺し屋シリーズ最新作!(「BOOK」データベースより)
伊坂幸太郎さんの「殺し屋」シリーズ第3弾は、軽妙な短編連作、槿(あさがお)や蜜柑・檸檬兄弟、スズメバチ等「グラスホッパー」「マリアビートル」に登場したおなじみの殺し屋の名前は出てくるものの、基本的には恐妻家の殺し屋「兜」を主人公にした新作だ。
「死ぬのは怖くない。だが、死んだら妻が怒るかな、と考えた時だけ、少し怖くなった」、 彼の場合は、妻が悪妻なゆえの恐妻家ではない。しいて言えば、愛ゆえの、自主的、積極的な恐妻家であろうか?家族想いで足を洗いたいのに洗えない、凄腕なのに変に善良で罪の意識から逃れられないヒーロー「兜」の人柄に可笑しみを感じる。
妻は、悪妻ではないが、夫に対し実に鈍感ではある。一方、息子の克己は「兜」の心のヒダみたいなものを以心伝心で理解していて、男同士って感じがこれまた実に良い。
「マリアビートル」に比べるとページ数も半分くらいで、楽しく、すっと読めて、それでいてほっこりさせられる作品である。
さて、これで今年の本屋大賞ノミネート10作品を読了した。今年も残すところ3か月足らず、年内に読み終えられてよかった。
書店員さんが進める作品は、大御所の作家さんたちが選ぶ高名な賞よりもしっくりくるものが多い。個人的には大賞を取った「かがみの孤城」がピカイチ、ミステリでは3位の「屍人荘の殺人」が高評価、本作の5位も十分納得。
少し気が早いが、来年の本屋大賞ノミネートがどの作品になるか、楽しみにしている。