人に不用意に近づきすぎないことを信条にしていた大学一年の春、僕は秋好寿乃に出会った。空気の読めない発言を連発し、周囲から浮いていて、けれど誰よりも純粋だった彼女。秋好の理想と情熱に感化され、僕たちは二人で「モアイ」という秘密結社を結成した。それから3年。あのとき将来の夢を語り合った秋好はもういない。僕の心には、彼女がついた嘘が棘のように刺さっていた。([BOOK」データベースより)
住野さんは割と好きな作家さんで、今も話題の「君の膵臓がたべたい」をはじめ、「また、同じ夢を見ていた」「夜のばけもの」「か「」く「」し「」ご「」と「」と呼んでこれで5冊目だが、うっ、これはっ、住野さんらしくない作品というか、浅井リョウさんっぽいといか、新境地なのだろうか。
主人公はぼっち体質の田畑楓くん。そんな彼が、周囲の反応も気にせずむやみに人に近づく秋好寿乃に出会い、理想を目指す秘密結社モアイを結成するところから話は始まる。
楓くんの信条は不用意に人とかかわりすぎないこと、といってホントの意味で孤独と確り向き合えているわけでもない。単なるコミュ力不足の引っ込み思案を正当化しているだけ、変化やそれに対応する能動的な努力を嫌い、信条を楯に待ちの姿勢を貫く。理解者で盟友の秋好さんと二人で活動している分には問題なかったが、蜜月は長くは続かない。より大きな理想の実現を目指して仲間を増やし、組織を拡大していく秋好さんに駄々をこね、彼女の変化を嘘と決めつけ、自らモアイを離れていく。そうすれば彼女は自分を選び、また昔に戻れるのではないか、そんな打算もあったのであろう。だけど彼女は彼を追わなかった。かくして楓くんの中で秋好さんはもういない人となった、
そして3年の歳月が流れ、大学四年生となった楓くんは、巨大組織となり、当初の理想を忘れて就職活動サークルとなったモアイの悪評を聞きつけ、初めて自ら戦うことを決意する。堕落したモアイを自らの手で葬るための戦い、ただし手段は陰湿で、中心メンバーのあら捜しをしてネット上で炎上させようとする。自らが正しいと信じて疑わない自分大好き人間、安全な場所に身を置き、正義のためなら何をしても許されると考える彼の発想は、独りよがりでちょっと気持ち悪い。
たくらみは思わぬ大成功を収め、断末魔のモアイを勝ち誇って見に行った楓くんは、思わぬ形でかつての盟友と遭遇し、思いっきりの面罵を受けて大きく傷つき、そして気づく。人と距離を置くことを信条としてきた楓くん、でも何事もぶつかってみなければ分からないこともある。そして居場所は自分で見つけるもの。
著者らしくない作品だったけど、まあこれはこれでどうしてなかなか。中盤からは一気読みでした。
蛇足だけど、楓という名前、どうしてもスラムダンクの流川楓を想像してしまう。似ても似つかない田端楓は、他の名前にしてほしかった。