「斜陽」(太宰 治) おかしな悲劇と悲しい喜劇のレクイエム | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

斜陽

 

(あらすじ)

破滅への衝動を持ちながらも“恋と革命のため"生きようとするかず子、麻薬中毒で破滅してゆく直治、最後の貴婦人である母、戦後に生きる己れ自身を戯画化した流行作家上原。没落貴族の家庭を舞台に、真の革命のためにはもっと美しい滅亡が必要なのだという悲壮な心情を、四人四様の滅びの姿のうちに描く。

昭和22年に発表され、“斜陽族"という言葉を生んだ太宰文学の代表作。

 

 

多分4回目くらいの再読なのですが、読む都度に感銘を受けます。昭和22年、太平洋戦争の敗戦直後、それまでの歴史がリセットされ、華族は特権を失い、資産は暴落し、秩序は混乱し、価値観は大転換する。

歴史の波に飲み込まれ、なすすべなく没落する旧体制側の人々、お母様、娘のかず子、息子の直治、そして小説家の上原。

 

マナーを守らずにスープを飲んでも、庭でおしっこをしちゃっても、その姿が様になる本物の貴婦人であるお母様は、新しい時代に対応できず、でも自分の価値観を少しもぶらすことなく、凛として時代に殉じます。一方でみじめなのは直治、新しい価値観に迎合しようとするもプライドが邪魔してできない、中途半端なまま自死をしていく。上原のモデルは太宰治自身でしょうね、「ギロチン、ギロチン、シュルシュルシュ」、一気飲みの掛け声ってこの頃からあったのか?酒と女で、破滅に向かってまっしぐら、でもこういう自堕落な男は実に女性にモテます。

そしてこの小説の語り部、ヒロインのかず子は、結局彼女なりの恋を成就させ、生きることを選択します。この後の彼女の人生がどうなるのか。他者の援助無くしては生きられないのは間違いのないところですが、結構したたかに人生を送ることになるような気もします。

 

おかしな悲劇と悲しい喜劇が交差する(みたいな歌詞の郷ひろみの歌があったような)、涙と笑いのレクイエム。。。