「崩れる脳を抱きしめて」(知念実希人)前半は普通に恋愛小説、後半はミステリー仕立て、最後は、、、 | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

崩れる脳を抱きしめて

 

知念さんというと、「天久鷹央」とか「神酒クリニック」とか、ラノベタッチのものしか書けないのではと思っいたが、認識が変った。

 

第一章「ダイヤの鳥籠から羽ばたいて」はワケありの研修医と不治の病の女性の不器用ながらも切ない恋愛物語。

広島から神奈川県・葉山の終末医療の高級ホスピスに来た研修医の碓氷は、重度の脳腫瘍を患う女性・弓狩環(ユカリ)と出会う。多額の遺産を相続したため命を狙われ、外に出ることを怯えるユカリと、父に捨てられた過去と借金に苛まれる碓氷。心に傷をもつふたりは次第に心を通わせていくが、あと数か月しか生きられないユカリは碓氷の愛を受け入れず、碓氷は失意のまま広島に帰る。

 

第二章「彼女の幻影を追いかけて」は、いきなりのユカリの訃報から始まる。碓氷の下に箕輪と名乗る弁護士が現れ、ユカリは碓氷にも遺産を残す遺言を残したという。不自然な遺言書の内容に再び研修先のホスピスを訪ねるもなぜか心身症扱いされてしまった碓氷。院内ではなく横浜・山手で倒れて亡くなったというユカリの足跡を追い、碓氷は横浜の街を彷徨う。

 

第一章の薄幸のラブロマンスから、第二章は一転サスペンス・ミステリー展開。そして最後に用意されたどんでん返し。読みやすくも盛りだくさんの内容を十分楽しめた、今年の本屋大賞6位も納得の一冊。

 

余談だが、碓氷の故郷、福山市の鞆の浦は、ちょうど先月行ってきたところ。江戸時代の名残を色濃く残す田舎の港町、同じ海辺でもホスピスのある葉山とは別世界。