「盤上の向日葵」(柚月 裕子) 長じた少年が犯罪にかかわっていないことを祈りながら読んだ | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

盤上の向日葵

 

平成六年、さいたま市天木山山中で発見された身元不明の白骨死体に唯一残された手がかりは、死体に添えられていた時価600万円の初代菊水月作の名駒。傲慢・剛腕の叩き上げ刑事・石破と、かつて奨励会でプロ棋士を志した若手刑事・佐野のコンビが事件の真相を探るべく、菊水月の駒を追う。

 

昭和四十六年、元教師の唐沢は、将棋好きの新聞配達少年、桂介が父親から虐待を受けていることを知り、彼を逆境から救い出すべく、自宅に招き、将棋を教える。

 

平成と昭和、20数年の時空を超えて、二つの物語が進行する。序章から、昭和の桂介少年は、東大卒、実業界を引退して転身した異色の棋士・上条佳介その人と分かる。しかしこの二つの話は、同時並行で進むばかりで、なかなかに繋がらない。

薄幸の佳介少年の健気さ、応援せずにはいられない。やがてはその逆境を跳ね返し、プロ棋士として成功するであろうこの少年は、山中で発見された白骨死体の遺棄事件に絡んでいることも想像される。じりじりと進む捜査に、佳介少年がこの白骨死体の遺棄や殺人に係っていないことを願いながら読み進んだ。

 

私は、将棋は、インターネット・ゲームで相手を初心者に設定しても必ず負けるくらいに弱いので、棋譜を並べられても、どんな将棋なのか実感としては分からない。でも、ピリピリとした真剣勝負の緊迫感は十分に伝わってきた。
18年の本屋大賞ノミネート、17年の山田風太郎賞候補作、17年の「このミステリーがすごい」9位、文春ミステリーが2位、話題作である。将棋をテーマにした迫真のミステリーだが、ミステリーとしてではなく、普通に小説として読んでも面白い。