今年の「このミス」7位にランクインしていたので、昨年の「半席」同様の時代もの倒叙ミステリーと思っていたが、全然違った。
時は19世紀初頭、徳川の世になって2世紀、太平が続き職業軍人としての武士はその存在価値を失い、米本位制で余剰人員を抱えた封建領主は貨幣経済の浸透、商業の発達と町人の台頭で困窮にあえぐ、そんな時代の短編集。
直木賞受賞作の「妻をめとらば」とも同時代の話ではあるが、あちらは同じテーマの短編連作、これは同時代の短編小説を3編集めたのもの。
『機織る武家』は、老女と入り婿とその後妻、血の繋がらない武家一家が減俸で二十俵二人扶持に、これでは三人は食べていけない。親戚の援助を断った老女は入り婿の後妻に内職の機織りを命じる。後妻は新興商人に一目置かれる技術を身につけて一家の生活を支え、女婿は老女が介護を必要とするようになったのを機に武士を辞める。貧乏育ちの女性の逞しさ、それだけに最後のオチというかエピソードは必要なのかなと思う。
『沼尻新田』は、無理筋の新田開発を隠居の父から持ちかけられ当惑する若き当主が、実地検分に訪れた現地のクロマツ林で、美しい女に出会う。新田開発は成功し、父や一族から感謝される当主は、新田開発を決意した意外な理由をだれにも告げるつもりはない。純情男の秘めた想いがなかなかに良い。
『遠縁の女』は、浮世離れした剣の修行に出た武家の若者と遠縁の女。父の急逝で五年ぶりに帰国した彼は、親友を婿に迎えた遠縁の女の一家の悲惨な結末を知る。叔父の話と女の話、どちらが真実なのかは分からないけど、結局は魔性の女に絡めとられる若者の純愛に少しおかしみを感じた。これも、帰国してからの急展開に、剣の修行の話をそこまで克明に盛る必要があったのかなと思う。
それと、余談だが、表紙が小説の内容とあまりかかわりなくエロくて、人目に付く場所で読みにくい。