「ぼくの記憶は80分しかもたない」、博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた──記憶力を失った博士にとって、私は常に“新しい"家政婦。博士は“初対面"の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。
(「BOOK」データベースより)
もうすぐ18年の本屋大賞のノミネート作品が発表になる。今年で第15回になる本屋大賞の、これが第一回受賞作。
本を読むより先に映画を見た。劇場ではなく、DVDを借りたか、TVで見たのかまでは記憶にないが、素直に「いい話だな」と思った。
深津絵里さん演じるシングルマザーが寺尾聡演じる記憶が80分しか持たない数学者の家政婦となる。日がな専門誌の数学の問題に取り組んで過ごす彼。何やら訳ありっぽい庇護者の義理の姉からは、言われたことだけをやって暗に深くかかわらないよう釘を刺される。
直近の出来事は頭からこぼれてしまう。それ以外に話題を持てない博士との会話は、素数、完全数、友愛数、全て数字に係わっていくのだが、その話が中々に興味深い。
ところが、数字のことしか興味を示さないと思われた博士は、家政婦に10歳の男の子がいると知るや、その子もここに連れてくるようにと言う。母子家庭の母子と数学者の孤独な者同士のふれあい、博士は子供の平らな頭を見て√(ルート)くんと名付ける。数学と子供、博士の過去のものに対する思い入れと直近80分間のものに対する優しさが調和して、心温まるお話になっている。
映画の冒頭シーンは長じて教師となり算数を教える√くん。あの子が算数の先生になったというのが、また何ともうれしい。
時々読み返してみたくなる作品。

