金髪、碧眼の幼い少女という外見とは裏腹に、『死神』『悪魔』と忌避される、帝国軍の誇る魔導大隊指揮官、ターニャ・デグレチャフ魔導少佐。戦場の霧が漂い、摩擦に悩まされる帝国軍にあって自己保身の意思とは裏腹に陸、海、空でターニャの部隊は快進撃を続ける。
時を同じくして帝国軍は諸列強の手を跳ね除け、ついに望んだ勝利の栄冠を戴く。勝利の美酒で栄光と誉れに酔いしれる帝国軍将兵らの中にあって、ターニャだけはしかし、恐怖に立ち止まる。
(「BOOK」データベースより)
一言で言えば、性格の悪いエリートサラリーマンが、魔導が通常兵器として使用されている第二次世界大戦時の欧州という並行世界に幼女として転生、歴史知識と仕事で培った戦略・戦術論に基づくメタ視点と、卓越した魔導技術で、ドイツっぽい国の魔導大佐として活躍する話。
第二次世界大戦時の欧州の並行世界の話なので、かなり歴史に忠実な展開となっている。史実でいえばナチス・ドイツが西部戦線を制し、パリを陥落させるまでのお話。
帝国参謀考案の回転ドア作戦、偽りの撤退で共和国を自国内におびき寄せ、敵の兵站が伸び切ったところで後方の司令部を急襲、混乱に乗じ兵站を分断して前線の敵主力部隊を根こそぎ刈り取ってしまおうという作戦。ターニャ・デグレチャフ少佐率いる第203航空魔導大隊は見事に後方の奇襲を実行し、作戦を大成功に導く。
勢いに乗じた帝国軍は進撃をつづけ、フランスっぽい共和国のパリっぽい首都を制圧する。これでもはや大陸内に敵はいない。これで戦争は終わったと戦勝気分に湧く帝国。
だが、帝国陸軍内においても、ターニャは戦闘継続を主張する。敵残存兵力を英国っぽい国に撤退させてはならない。上層部の制止を屁理屈で振り切り、単独で港に集結する船団に爆撃を敢行しようとするも、ギリギリで止められ、命令違反未遂とまで言われ、アフリカっぽい南方戦線へ飛ばされてしまう。
果たして、35万人の将兵はまんまと連合国に脱出。帝国の予想、思惑に反し、そしてターニャの知る歴史の通り、連合国・共和国は戦争の継続を表明する。
アニメでいえばクライマックス、最終話までの数話の部分。副題は "The Finest Hour"、文字通り帝国にとって最良の時期。でも、合理的な状況判断を超えて、戦争は続く。
アニメはここで終わり、今のところ二期の制作発表はない。くっ、あんなに余韻を残した終わり方をしたくせに。アニメ化された作品は、ほぼ同時進行で原作を読むのが自分のポリシーだが、まあ、やむをえない。
本巻の後半部分はアフリカ戦線でロンメルっぽい将軍とともに戦うターニャ、一方で合衆国では今後宿敵となりそうなメアリーが義勇軍に志願する。まだまだ続く原作は第八巻まで出ているので、ゆっくりでも引き続き読んでいくつもり。
ターニャ・デグレチャフ少佐の、楽をして生き残りたいという自身の思惑とは裏腹に、前線で大活躍するその様は痛快で少し可笑しみも感じる。どんどん戦争の申し子になっていく彼女から目が離せない。マニアックでシニカルでコミカルな戦争の記述も楽しい。