5人の求婚者を破滅させ、帝の求婚にも応じないかぐや姫。だれもが知っている話だが、ロマンティックな空想物語と誤解されている物語でもある。古典というストレスなしに冷酷なかぐや姫の全貌を知る本。
(「BOOK」データベースより)
何でいまさらかぐや姫かという気もしたが、今年のカドフェスに入っていたので手に取ってみた。うーん、なるほどこういう話だったのか。
成立年は多分平安初期、著者は不明、日本最古の小説である。求婚者のモデルが藤原不比等、石上麻呂などだから、奈良時代を想定して書かれたもののようだ。
かぐや姫は、罪を犯し地球に流刑となった月の世界の王族らしい。何の罪を犯したかは触れられていないが、性格からして政治犯とは思えない。じゃじゃ馬が過ぎて王族の長の逆鱗に触れたのか、それとも不倫?などと想像してみるとなかなかに楽しい。
竹取の翁によって竹の中から取り出されたかぐや姫は、わずか3か月で大人になり、以降12年間に渡って歳を取った様子がない。また、天皇が抱こうとしたら影になって消えた。それで動じない天皇も相当のものだが、かぐや姫、明らかに常ならむ人、さすがに光の国からやってきただけのことはある。
しかしこのヒロイン、流刑になるだけあって、性格が悪い。そして冷酷である。並み居る高貴な方々が言い寄ると、その気もないのにとんでもない無理難題を言い渡す。その地球の男を見下す態度は、いっそすがすがしい。
そんなかぐや姫も、最後の挑戦者、石上麻呂が大怪我を負って死んでしまうと、人並みの思いやりを見せ始める。天皇に言い寄られた時は、拒否はしたものの、自らの正体を明かし、期待に沿えない旨を説明した上で、その後も文のやり取りを続ける。
そして何よりも養父母に対して示す思いやりである。年老いた養父母の面倒を見たいからせめてもう1年地球にいさせてくださいと月の長に交渉したものの叶わなかったとか。このあたりはかぐや姫、成長したなぁと思わせる。でも、月とどうやって交信しているのだろうか?
そしてクライマックスの月に返るシーンである。追放された割には無理にでも連れ戻される当たり、王族の中でも重要な人なのであろう。一方の天皇も、かぐや姫の警護に2000名の兵を動員、翁の屋敷を固める。この時代の2000人って、警護というよりもはや戦争である。
しかしながら、空飛ぶ車とともにやってきた月の人に地球防衛軍はなすすべもなく、果たしてかぐや姫は不老不死の薬を天皇に残して月に帰ってしまう。
天皇はこの薬を「こんなのもいるかい!」とばかりに富士山で燃やす。天皇もなかなかかっこいい。作者も、貴族は散々こき下ろしても、天皇だけはそういうわけにもいかなかったのだろう。
いやいや、こうしてみるとなかなかのエンタメ小説ではある。
最後の戦闘シーンで、怪鳥でも登場させるなり、光線で翁の屋敷を焼き尽くすなりすれば、SF大作映画になりそうだ。