明治十二年晩夏。鉄道局技手見習の小野寺乙松は、局長・井上勝の命を受け、元八丁堀同心の草壁賢吾を訪れる。「京都‐大津間で鉄道を建設中だが、その逢坂山トンネルの工事現場で不審な事件が続発している。それを調査する探偵として雇いたい」という井上の依頼を伝え、面談の約束を取りつけるためだった。
井上の熱意にほだされ、草壁は引き受けることに。逢坂山へ向かった小野寺たちだったが、現場に到着早々、仮開業間もない最寄り駅から京都に向かった乗客が、転落死を遂げたという報告を受ける。死者は工事関係者だった!現場では、鉄道工事関係者と、鉄道開発により失業した運送業者ら鉄道反対派との対立が深まるばかり。そんな中、更に事件が…。
(「BOOK」データベースより)
今年の「このミス」10位、「ミステリが読みたい!」5位、明治初期の鉄道敷設に纏わる時代ミステリー、珍しい設定だなと思ったら、今年は「義経号、北溟を疾る」があった。
「義経号、」が小樽・札幌間だが、こちらは京都・大津間、それも逢坂山のトンネル工事現場に事件現場が限定されている。
「義経号、」はホームズ役が新撰組の斎藤一で被疑者が黒田清隆、勝海舟や清水次郎長まで登場するオールスターキャストだったが、こちらは、実在の人物で登場するのは井上勝くらい。「鉄道の父」と呼ばれる明治初期の傑物なのだが,、多分日本史の教科書にはでてこなかったし、よほどの歴史好きでないと知らないのではないか。
ミステリー自体は、犯人も意外と小物?で、ホームズ役の元同心・草壁も今一つキャラ立ちしていないし、ワトソン役の小野寺の存在感も薄い。
自分は、それよりも、鉄ちゃん的な興味が先に立った。逢坂山は日本人の手による初めてのトンネル工事、落盤事故で4人が亡くなったのも、井上本人が鶴嘴をふるったのも史実らしい。「義経号、」はエンタメ性の高い作品だったが、こちらは、著者の鉄道愛を感じる、地味ながら実直な、好感が持てる作品であった。