相次ぐ当主の早世により、男系の嫡流が途絶えた会津守護、芦名家。近隣の大名から婿養子として当主を迎えることになったが、それをきっかけに家中に軋轢が生じる。一触即発の家臣たちをなんとかまとめていたのは家臣筆頭であり「会津の執権」の異名を持つ金上盛備。しかし彼も老齢にさしかかり、領土の外からは伊達政宗の脅威が迫っていた。
(「BOOK」データベースより)
猪苗代盛国の謀反を探る重臣・富田隆実の「湖の武将」、野村銀次郎の仇討の「最後の仕切り」、佐竹の婿養子を当主としたことによる家臣の動揺と団結を描いた「芦名の陣立て」「退路の果ての橋」、伊達との摺揚原の決戦の「会津執権の栄誉」、惣無事令を破って芦名を攻め滅ぼした伊達政宗が豊臣秀吉の軍門に下る「正宗の代償」、会津の戦国大名・芦名家とそれを攻め滅ぼした伊達政宗に関する短編が6本。
戦国の名門、芦名家の話ながら、主役は芦名家の当主ではなく、金上盛備ら芦名家の重臣たち。
芦名の直系の子孫が絶え、伊達家と佐竹家、どちらから養子を迎えるかで家臣団の団結にひびが入る。やがて佐竹義重の次男を当主に迎えることが決まると、重臣・猪苗代盛国は離反し、伊達に走る。そして第二十代当主・佐竹義弘が佐竹家から連れてきた重臣たちと芦名家の重臣たちの対立、疑心暗鬼や対抗意識から来る不和、金上の調整で危機を乗り切ったかに見えたが、結局は隣国の伊達政宗に攻め滅ぼされる。
当主はお飾り、国を守るのは執権・金上をはじめとする重臣たち、しかし執権は当主にはなれない。家臣団による合議制の体裁を取らざるを得ず、内輪もめも絶えない。また、家臣団は、古いしきたりや過去の成功体験に固執し、思い込みや楽観論に終始してしまう。こういう組織は土壇場で弱い。結局は、人質になった父もろとも敵を討ち滅ぼし、弟も殺害して家臣団を掌握した若き独眼竜・伊達政宗に太刀打ちできなかった。
しかし、その政宗も、豊臣秀吉の軍門に下る。大名同士の私闘を禁じた「惣無事令」に反したとして呼び出され、せっかく切り取った旧芦名領を返上せざるをえなくなる。
本当に強い奴、強い組織というのはどういうものか、単に指揮命令系統を一元的に把握したトップというだけではない、その上の組織目的とか、そういうことなのか。現代にも通じる組織論みたいなものも感じられ、読後感は悪くない。
本作は、第157回直木賞の候補作になった。これで候補作5作を全部読んだことになる。ベテラン揃いの候補作の中でもそん色はない。実績重視で大御所の受賞が続いている直木賞の受賞はならなかったが、中々に力量のある作家さんである。
55歳と言うから、遅咲きの新人、今後も東北に拘わった歴史小説を書いていくそうで、歴史好きの自分としては、著者の今後に大いに期待したい。