舞台となるアラルスタンは、架空の小国であるが、カザフスタンとウズベキスタンに挟まれ、アラル海に面しているという設定、日本人にはあまりなじみのない地域である。
話はいきなり大統領の暗殺テロから始まる。混乱の中、国を支えるべき国会議員たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去ってしまう。そして、後宮にいた少女たちが国を守るために立ち上がる。
一言で言えば、疾走感のあるエンタメ要素満載の一作。後宮の少女たちのキャラ設定も、ストーリーの展開も、ラノベっぽく軽い。中盤までは、ちょっと外したかなと思いながら読んだが、終盤で一気に挽回した。
意外な知識、策略とさもありなんの度胸で、国民に呼びかけ、テロリストとも渡り合い、次々と国難を乗り切っていく少女たち。
一難去ったところで国会に戻り、アイシャ大統領代行を糾弾する恥知らずの大人たち、こういう小説なのでラストはお約束の展開になるのだろうなとは思ったが、読み通りとはいえ、感動するものは感動する。ウズマばあさんには拍手、見ている人は見ている、誠意は必ず報われるってか。
軽い小説といっても、薄っぺらいという意味ではない。宗教、内戦と紛争、環境破壊、主張すべきテーマははっきりと主張されている。
大和撫子というタイトルは、ヒロインの少女たちの一人がナツキという日本人孤児(それにしてはあまり日本人っぽくない)だからだが、それ以外の少女たちの出自も、紛争地域で親を殺されていたり、アフリカ系だったり、ロシア系だったり、実に多様。旧ソ連の中央アジアにおける政治力学も確り押さえてある。
アラルスタンは干上がってしまったアラル海に面した小国という設定だが、このアラル海、ソ連のずさんな灌漑計画の結果、すっかり干上がってしまったのは事実。別に日本人少女一人がヒロインではないのに、なぜこのタイトルにしたのかなと思っていたのだが、なるほどナツキの想いどおり「あとは野となれ」とできるのだろうか。
宮内さんの作品は「彼女がエスパーだったころ」「アメリカ最後の実験」に続き3冊目。
直木賞の候補にもなったが、結果は残念。でも、個人的には、宮内さんが受賞するとしたらこういうのではない。「彼女がエスパーだったころ」みたいなやつで受賞してほしいと思っている。