好色な医師フリントの奴隷となった美少女、リンダ。卑劣な虐待に苦しむ彼女は決意した。自由を掴むため、他の白人男性の子を身篭ることを―。
奴隷制の真実を知的な文章で綴った本書は、小説と誤認され一度は忘れ去られる。しかし126年後、実話と証明されるやいなや米国でベストセラーに。
人間の残虐性に不屈の精神で抗い続け、現代を遙かに凌ぐ“格差”の闇を打ち破った究極の魂の物語。
(「BOOK」データベースより)
この本が、米国では、「ジェイン・エア」などと並んで古典として読まれている本だとは全く知らなかった。この本を文庫化し、今年の「新潮文庫の100冊」に選んだ新潮社に拍手を送りたい。
この本を日本に照会した堀越ゆきさんにも敬意を表したい。彼女はこの本の訳者だが、小説家でも、翻訳家でも、歴史学者でもない。東京外語大学、米国の大学院を卒業、大手コンサル会社に勤務するエリート会社員である。
訳者は、出張の新幹線の中で開いたkindleで偶然にこの本に出会い、心を打たれた。彼女は、自分の人生を自分で切り開いていくタイプの人なのだろう。そんな彼女だから、格差社会、限定された未来、閉塞感のある世の中で、自らの力で変わっていける意志を日本の女性に持ってもらいたいと思ったのではないだろうか。
奴隷所有者が、女性の奴隷との間に子どもをもうける。子どもの肌の色から父親が白人であることは明らかだが、その父親は公然の秘密となる。女主人は嫉妬と猜疑心の塊になり、その女性を鞭打ち、やがて子供は主人の所有物として売られていく。
奴隷に産ませた子供に父性愛を感じることはないのだろうか。奴隷制は、奴隷とされた人たちの人権はもちろん、所有者の社会の倫理感も破壊する。
それにしてもドクター・フリントのリンダに対する執着心はストーカー以上に変質的である。リンダは奴隷の身分で彼をとことん嫌い、別の白人の子を産んだり、屋根裏部屋に7年もの間潜伏したり、手段を選ばずに戦い抜いた彼女の原動力は何だったのだろうか。
少し残念なのは、抽象的、間接的な表現で意味が分かりにくい箇所があり、読みづらいこと。中高生に勧めたい本であるが、そこはちょっと残念。
原文のせいか、それとも訳者のせいか、機会があれば、原作を読んでみたい。