みかづき(森絵都) 戦後教育をテーマにした大河ドラマ、飄々と信念のままに生きる吾郎に共感 | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

みかづき

 

「私、学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在になると思うんです」
昭和36年、人生を教えることに捧げた、塾教師たちの物語が始まる。
昭和から平成の塾業界を舞台に、三世代にわたって奮闘を続ける家族の感動巨編。
(Amozonの紹介ページより抜粋)


家が貧しく進学を断念、小学校用務員をしていた大島吾郎は、児童の母親、赤坂千明に誘われともに学習塾を立ち上げる。シングルマザーの千明と結婚、ベビーブームと経済成長を背景に、塾も順調に成長してゆくが、やがて塾の運営方針で千明と対立、塾長の座を追われる。

大島家の3姉妹も三者三様である。血のつながらない父の吾郎を支持する長女・蕗子は、母と決別し学校教員の道を選ぶ。母以上に気性の激しい次女・蘭は、塾の経営に携わるが、ある事件で蹉跌してしまう。マイペースの三女・菜々美は、海外に飛び出し、母と同じシングルマザーとなって帰国する。

 

第1章から第8章まで、章が変わるごとに数年の年月が流れていて、社会の情勢も、家族を取り巻く環境も変化している。章の間に何が起きたのか、想像しながら読むのがなかなかに楽しい。最後の8章の主人公は、長女・蕗子の息子の一郎。教育とは無縁と思われた彼が、ボランティアで格差社会で置き去りにされた母子家庭の子供たちの教育に挑む。

 

文部科学省の意向とそれに反発する塾という民間の教育機関、これは教育をテーマにした大河ドラマ。「女が三人タッグを組んだら、とうていかなわんぞ」、流されながらも、信念のままに飄々と生きる吾郎の人生に、うらやましさと共感を感じた。

 

これで本屋大賞ノミネートの10冊を全部読んだ。本作品は本屋大賞、直木賞をダブル受賞した「蜜蜂と遠雷」に続き、2位となった作品である。

「蜜蜂と遠雷」がたたみかけるような短距離走であるなら、これはじっくりと終盤勝負、読後はフルマラソンを完走したときのような満足感を感じた。