今は学生でいたくなかった。きっかけになったトラブルはある。でも、うまく説明できないし、自分でも整理がついていない。実家を出て、バイトしながら、まったく違う世界で、自分を見つめ直すつもりだった。「歴史を変えた」と言われる伝説のあのラジオ番組が小説内でオンエア!「青春小説」に名作がまた誕生した。
(「BOOK」データベースより)
ラジオの深夜放送、高校、大学の頃に結構はまりました。谷村新司とバンバンの「セイ!ヤング」とか、というと歳がばれる?
最近は聴かないけど、でも、何となく雰囲気は分かります。佐藤多佳子さんは、ヘビーリスナーなんでしょうね。文章の端々から「番組愛」を感じます。
さて、主人公のトミヤマくん、とある事件をきっかけに世間からドロップアウト。大学を休学し、東京の実家も出て一人暮らし、でも金沢八景という距離感が微妙、中途半端というか、完全に吹っ切れないというか。ともかくも、コンビニの深夜バイトで生計を立てるという、モラトリアム期間に突入しました。
元より友達も少なく、コミュニケーション下手、対人恐怖症っぽい。そんな彼の唯一の楽しみがアルコ&ピースがパーソナリティを務めるオールナイト・ニッポン。
そんな彼の唯一の社会との接点であるコンビニで、グリグリ距離を縮めてくる女子高生のハガキ職人、虹色ギャランドゥさんや、バイトの先輩の鹿沢くん。彼らに戸惑いながらも、受け入れられ、また徐々に彼らを受け入れ、再び歩き始めるまでのトミーの1年間。
でも、虹色ギャランドゥこと佐古田愛さんも、メンヘラ?学校でいろいろあるようで、、、
鹿沢くんも歌い手「だいちゃ」という別の顔を持っています。この3人に、トミヤマくんの高校の友人、永沢くんを加えた4人、なんだい、地味だけど、こういう青春もなかなかいいじゃないかと思わせる、そんなお話でした。
主人公のトミヤマくんが実に自然に、等身大に描かれています。楽屋落ちのネタ満載なのですが、番組を全然知らない自分でも、この話、すっと受け入れられてしまう。
佐藤さんの小説は、高校の陸上部を描いた「一瞬の風になれ」、二つ目の落語家が主人公の「しゃべれども、しゃべれども」に続いて3作目。どの話もリアリティがあって、佐藤さん、うまい。
納得の山本周五郎賞受賞作。
