御行の又市、山猫廻しのおぎん、事触れの治平ら小悪党たちの暗躍を描いた人気シリーズの第3弾。幕末を舞台とした先の2作とは異なり時代は明治、年老いた主人公、山岡百介が、数十年前に又市らによって仕組まれた事件を振り返るという仕立てになっている。
読んだきっかけは、これが直木賞受賞作であったこと。
直近から過去へ遡って、直木賞受賞作を全部読むのに挑戦中で、これでやっと第130回、03年まで来た。さすがに直木賞、今までほぼはずれなく秀作揃いだ。
奇怪なしきたりに縛られた孤島(「赤えいの島」)、死人が放つ怪火(「天火」)、不死の蛇(「手負蛇」)、人か、猿猴の類か、山に棲み人を攫うもの(「山男」)、人へと変化する青鷺(「五位の光」)、そして百物語(「風の神」)、100ページを超す中編6編は、さすがに長い。読むのに少し時間がかかった。
どうにもならないと思われる問題を、「妖怪の仕業」にしたて、事を丸く収めてしまう又市らの大仕掛け。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」、怪異と思ったものがふたを開けてみれば、、という話と言ってしまえばそれまでなのだが、その仕掛けが実に鮮やか。
でも、今や文明開化の明治の御代。それももう過去のこととなってしまった。数十年前の幕末の出来事を、ワトソン役の百介が昔語りに語る。又市も、おぎんも、今はもういない。時代のはざまに消えてしまった者たちへの、哀愁が漂う。
と思うと、当時は脇役だった百介が、「風の神」で最後の大仕事。思わず「うまい」と思ってしまう、
さすがの直木賞受賞作である。