2020年、人工知能と恋愛ができる人気アプリに携わる有能な研究者の工藤は、優秀さゆえに予想できてしまう自らの限界に虚しさを覚えていた。
そんな折、死者を人工知能化するプロジェクトに参加する。試作品のモデルに選ばれたのは、カルト的な人気を持つ美貌のゲームクリエイター、水科晴。彼女は六年前、自作した“ゾンビを撃ち殺す”オンラインゲームとドローンを連携させて渋谷を混乱に陥れ、最後には自らを標的にして自殺を遂げていた。
晴について調べるうち、彼女の人格に共鳴し、次第に惹かれていく工藤。やがて彼女に“雨”と呼ばれる恋人がいたことを突き止めるが、何者からか「調査を止めなければ殺す」という脅迫を受ける。
晴の遺した未発表のゲームの中に彼女へと迫るヒントを見つけ、人工知能は完成に近づいていくが―
(「BOOK」データベースより)
17年の「このミス」ランキングで14位に入っていたので、読んでみた。
読むまで知らなかったのだが、KADOKAWA主催の「横溝正史ミステリ大賞」受賞作だそうで。
公募のミステリーの賞で有名なのは、「このミス」大賞と「江戸川乱歩賞」かな。横溝正史ミステリ大賞と言い、このミス14位と言い、何となく地味である。
なるほど、読んでみて、本格ミステリーという感じは全然しない。探偵事務所や、そこに勤務する元クラスメートの女探偵は出てくるものの、彼女はほとんど活躍しない。主人公の工藤くんが、一人で謎に迫り、一人でひどい目に遭いつつ、事件を和解に導く。
早い話が主人公・工藤くんの成長物語、ドイツ語で、ビルドゥングスロマンというのだそうだ。ガキだった主人公が、周囲とのふれあいや恋愛を通じて成長していく、エヴァの碇シンジみたいなやつだ。
お相手の水科晴は、もうこの世にはいない。その彼女を調べていくうちに、自分との共通性を見出し、やがて恋におちる。そして彼女のAIを作ることに、それが仕事であったことを忘れ、没頭していく。
はっきり言って二次元に恋する奴の上を行く気持ち悪さである。でも、そんな異常な恋が彼を成長させるのだから、世の中、分からないものである。
そして、水科晴の本当の気持ち、それは彼女の残したRPGゲームの中にあった。それをつきとめた工藤くんの行動は、、、
AIに親和性のある人なら、面白い小説と思えるのではないか。
映像化しても、中々に楽しめそうな小説である。
私は、途中からページをめくる手が止まらなくなり、夜更かしして一気読みした。
横溝正史ミステリ大賞受賞作だけど、ミステリーとして読まない方が良い。
会話の文章がちょっとぎこちない感じもするが、総じて新人らしからぬ、という印象。公募の大賞受賞者は一発で終わってしまう人も多いのだけど、この人は残りそうな気がする。次作に期待。