絢爛豪華たる安土桃山文化の主座を占める茶の湯。それは、死と隣り合わせに生きる武士たちの一時のやすらぎだった。
茶の湯文化を創出した男とその弟子たちの生き様もまた、武士たちに劣らぬ凄まじさをみせる。戦国時代を舞台に繰り広げられる“もう一つの戦い”秀吉対利休。果たして実際の勝者はどちらなのか。傑作時代長編。
(「BOOK」データベースより)
牧村兵部、瀬田掃部、古田織部、細川三斎(忠興)、千利休の七哲と呼ばれていた高弟の視点で秀吉と利休を描いた短編連作。著者の歴史に対する愛情、造詣を強く感じる作品だった。
利休を題材にした小説は直木賞受賞作の「利休にたずねよ」(山本兼一)等多々あるが、「利休はなぜ秀吉から死を賜ったのか?」、いかようにも想像を働かせられる謎の人物である。
それでもこの作品の秀吉と千利休の人物設定少し無理という気がしないでもない。秀吉が「天下布武」を掲げた主君、信長の模倣に過ぎず、天下取りの原動力は自己顕示欲だったというのはそんな気もするが、一方で利休が黒田官兵衛ばりの参謀だったというのは、芸術のみならずそっちもか。
スーパースター過ぎてなにやらトンデモ本っぽくなってしまった感あり。でも、これはこれで読み物としては面白い。
これで、受賞作の「海の見える理髪店」(萩原浩)、「暗幕のゲルニカ」(原田マハ)、「真実の10メートル手前」(米澤穂信)、「家康、江戸を建てる」(門井慶喜)、第155回の直木賞候補作を全部読んだことになる。
大先生揃いの選考委員の方が選ばれたのだから、小説としての評価は、それはそうなのだろうけど、個人的には「ゲルニカ」「江戸を建てる」とこの「天下人の茶」が興味深く読めた。