反戦のシンボルにして20世紀を代表する絵画、ピカソの“ゲルニカ”。国連本部のロビーに飾られていたこの名画のタペストリーが、2003年のある日、忽然と姿を消した…。
大戦前夜のパリと現代のニューヨーク、スペインが交錯する、華麗でスリリングな美術小説。
(「BOOK」データベースより)
(感想)
12年の山本周五郎賞受賞作「楽園のカンヴァス」から4年、原田マハさんがまたやってくれた。
しかも今度はピカソの名作「ゲルニカ」が題材。
でも、「楽園のカンヴァス」とはだいぶ趣の違った作品に仕上がっていた。
前回のは作品の真贋を巡るミステリー、今回のはサスペンス仕立て。国連安保理のゲルニカのタペストリーに暗幕をかけた犯人、それは個人を特定しても意味がない。大量破壊兵器の保有を理由にイラクに戦争を仕掛けようとする勢力、組織の仕業。
「この作品を作ったのは、あなたたちだ」、ナチスの兵たちに向かって敢然と言い放つピカソ。
「ゲルニカは誰のものでもない。平和を望む、世界中すべての人のものだ」、テロリストに向かってそう言い放つヨーコ・ヤガミ。
第二次世界大戦前夜、ナチスドイツにおびえるパリと、テロの脅威に直面した21世紀のニューヨーク、時空を超えたサスペンス。
ピカソや芸術に対する深い造詣と愛情はいつも通りの原田さんなのだが、今回の作品は平和に対するメッセージが強く打ち出されたものになっている。
やはり圧巻はラスト。そうきたか、と。
もうすぐ第155回直木賞の候補作品が決まる。これも候補作になってほしい、いやもうこれが直木賞でもよいのではないかと思う反面、、「バスクの祖国と平和」という実在の組織がテロ事件をおこしたり(事実、そういう組織なのだが)、テロへの武力を伴う戦いを全否定するなど政治的なメッセージが色濃く出ているので、選考委員の方々がそれをどう評価するかということになりそうだ。