「オーダーメイド殺人クラブ」(辻村深月) 中二病、それは青春のイニシエーション | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

オーダーメイド殺人クラブ

(内容)

クラスで上位の「リア充」女子グループに属する中学二年生の小林アン。死や猟奇的なものに惹かれる心を隠し、些細なことで激変する友達との関係に悩んでいる。

家や教室に苛立ちと絶望を感じるアンは、冴えない「昆虫系」だが自分と似た美意識を感じる同級生の男子・徳川に、自分自身の殺害を依頼する。二人が「作る」事件の結末は―。

少年少女の痛切な心理を直木賞作家が丹念に描く、青春小説。

 

(感想)

実際に死んでしまう中学生がめったにいないのと同じくらい、死にたいと思ったことが一度もない中学生もめったにいないのではないか。大人になってその時のことを思い出したとき、死ぬほど恥ずかしくなるか、それとも懐かしく、その頃の自分の馬鹿さ加減がいとおしく思えるかは、人それぞれだけど。

それは中二病という思春期の少年少女がかかるはやり病である、だから本当に死んではいけない。

 

これはアンと徳川の中二病の話である。中二病の症状独特の心のふれあい、共感、ゆらぎ、自分たちですらそれと気づかない、回りくどい友情、恋愛の記憶。

でも、あれは中二病だったのだと気付ける大人になった自分たちと違って、中二病真っ只中のこの二人は本当に死んでしまうのではないか。そんなハラハラ、ドキドキが終盤の河原でのクライマックスまで続く。巻頭の「これは悲劇の記憶である」の一言が不安を助長する。それだけにラストのオチが効いてくる。なんだ、これはそんな話だったのか、だから悲劇の記録ではなく記憶なのかと。

なるほどこれは中二病の話である。

 

本作は、第145回の直木賞候補になったが、特に年配の撰者から酷評され受賞に至らなかった。書評を見るに、先生方は、これは青春のイニシエーションを題材にしたコメディであるという読み方をしていただけなかったみたい。辻村さんは147回の「鍵のない夢を見る」で直木賞受賞となったが、個人的には、受賞作よりもこっちの方がずっと直木賞らしいと思う。