(内容)
歌舞伎俳優の家に生まれたものの、若くして映画俳優に転身、世界的な人気を博す名監督の映画や、時代劇テレビシリーズなどに主演し、日本に知らぬものはないほどの大スターとなった片桐大三郎。しかし古希を過ぎたころ、突然その聴力を失ってしまった。
役者業は引退したものの、体力、気力ともに未だ充実している大三郎は、その特殊な才能と抜群の知名度を活かし、探偵趣味に邁進する。
あとに続くのは彼の「耳」を務める新卒芸能プロ社員・野々瀬乃枝(通称、のの子)。スターオーラをまき散らしながら捜査する大三郎の後を追う!
エラリー・クイーンの〝X・Y・Zの悲劇〟を向こうに回した、本格ミステリー四部作をこの一冊で。
殺人、誘拐、盗難、そして……。最高に楽しくてボリューム満点のシリーズ連作。
(感想)
15年の「このミステリーがすごい」6位、「文春ミステリー」5位、「本格ミステリ」2位の作品。
タイトルには「悲劇」と入っていますが、ストーリーに全く悲劇性はありません。実在の人物のイメージで言えば故三船敏郎さんでしょうか、往年の名優、片桐大三郎が、周囲をかき回しながらも意外な名推理で事件を解決に導く、ミステリー・コメディです。
エラリー・クィーンの名作、ドルリー・レーン・シリーズのパロディであることは言うまでもありません。
「ぎゅうぎゅう詰めの殺意」「極めて陽気で呑気な凶器」「途切れ途切れの誘拐」「片桐大三郎最後の季節」の四部作。
「ぎゅうぎゅう詰めの殺意」「極めて陽気で呑気な凶器」は、殺人事件の捜査に行き詰った警察が、片桐大三郎に捜査の協力を依頼するという展開なのですが、特に2つ目の「極めて陽気で呑気な凶器」は、内部の犯行で犯人は7人のうちの誰かに絞られてるのに、1か月も捜査が進展しないなんて、河原崎警部、ちょっと無能が過ぎませんか。
「途切れ途切れの誘拐」は、退屈した大三郎が河原崎警部の居場所を突き止めて訪問したところが誘拐事件現場だったという、これもスマホの位置情報を知られてしまうとはかなりお粗末。
それに比して、片桐大三郎座長の意外にも本格的な推理が冴えるわけですが、まあ、そういうコメディ仕立てのお話で、安心して、気楽に楽しめます。
最後の「片桐大三郎最後の季節」は、おまけというか、読者へのひっかけ。これ、元ネタの「ドルリー・レーン最後の事件」のパロディになっているのですね。
シリーズものに、しようと思えばできる作品ですが、なるのかな?
なったらまた読ませていただきますけど。