(内容)
昭和六十三年、広島。所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡は、ヤクザとの癒着を噂される刑事・大上のもとで、暴力団系列の金融会社社員が失踪した事件の捜査を担当することになった。
飢えた狼のごとく強引に違法行為を繰り返す大上のやり方に戸惑いながらも、日岡は仁義なき極道の男たちに挑んでいく。やがて暴力団同士の抗争が勃発、衝突を食い止めるため、大上が思いも寄らない大胆な秘策を打ち出すが…。
正義とは何か、信じられるのは誰か。日岡は本当の試練に立ち向かっていく。
(感想)
こてこての昭和の極道ものなので、これを女性が書いたということにちょっとびっくり。柚月裕子さんは初読みでした。「ランチのアッコちゃん」の柚月麻子さんとごっちゃになっていて、最初はさらにびっくりしたのですが、別人でした。
舞台は昭和63年の広島県呉原市、あの「仁義なき戦い」の呉市がモデルです。ポケベルとかジッポーのライターとか、小物が昭和っぽい。もう30年近く前の話なのですね、昭和も遠くなりました。
語り部は捜査二課、暴力団係に配属された新人の日岡。実はこの日岡、秘密を抱えているわけなのですが。。。
主人公は日岡の上司、暴力団との癒着を噂されている大上巡査部長、ところがこの大上、噂を上回る型破りぶり、やることはやくざと変わらない。新人の前でも憚るところなく、暴力団幹部と友人づきあいをし、金を受け取り、捜査上の秘密を漏らすなど、とにかく手段を選ばない。
最後は、とにかく暴力団同士の抗争を食い止めるため、日岡に後を託し虎穴に飛び込む大上、その大上の想いをしっかり受け止める日岡。
漢と漢です。
やくざまがいの中年刑事と、それに戸惑いながらも惹かれていく新米刑事、裏でうごめく警察組織の腐敗と隠蔽体質、月並みといえば月並みな話ではありますが、それだけに安心感、安定感があります。
長さは全く感じませんでした。スピード感あふれる展開、スリルとサスペンス、気兼ねなくのめりこめるエンターテインメント作品に仕上がってます。
154回直木賞候補作になりましたが、先生方の評価はステレオタイプの極道もので掘り下げが足りない、新しさがないと、結構厳し目でした。でも、151回の直木賞を取った黒川博行さんの「破門」と比べてどうよと言われたら、私は同じくらい面白かったです。
(追記)本作品、4月19日に16年度の日本推理作家協会賞を受賞されたとのことでした。そうですよね、面白かったもん。