(内容)
ゆるされている。世界と調和している。それがどんなに素晴らしいことか。言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。ピアノの調律に魅せられた一人の青年。彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った、祝福に満ちた長編小説。
(感想)
第144回直木賞候補作、2016年本屋大賞受賞作です。
直木賞とか、本屋大賞というと、基本は大衆文学、それにはエンターテインメント性というか、いろいろと具体的な事件が起きるものが多いのですが、これは純文学っぽい、静謐で美しい作品でした。
一言で言えば、高校生の時に「ピアノの調律」という、一生ものの仕事に運命的に出会ってしまった外村くんの成長物語です。鋼の弦を羊毛のフェルトではじく、羊と鋼の森ってピアノのことなのですね。
北海道の寒村出身の、森の匂いのする外村くんが、ピアノの中に森を見つけ、守られ、共生していく様が、みずみずしい文章で綴られています。
調律というものに出会わせてくれた板鳥さん、先生役の柳さん、最初は嫌な奴っぽかった秋山さんも、純朴な外村くんの影響もあるのだろうけど、みな良い人ばかりで、そんな環境の中で、外村くんは調律を通じて自分の表現の世界を広げていく。
最後の方で、調律師として大きく飛躍する機会と覚悟をつかんだ外村くんの将来に幸あれです。
自分の家にもピアノはあったけど、私は全く弾けません。調律をしたという話も聞いたことがない。要は自分には全く理解できない世界の話だったのだけど、でも小説は心にしみました。
これで04年~16年の本屋大賞受賞作を全部読了しました。達成感、あるなぁ。