16年4月に読んだ本 | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

鍵のかかった男

全部で18冊、500頁以上の分厚い本が何冊かあったため、冊数はいつもの月よりやや少なめ。

ミステリーが7作。
 
◆戦場のコックたち(深緑野分)
15年の「このミス」「ミステリーを読みたい」2位、「文春ミステリー」3位、154回直木賞候補作。
第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦、悲惨な戦争の日常の謎をコック兵のエドが解く。語り部のワトソン役は親友のティム。
謎解きを通しての戦争の悲惨さや、きれいごとだけではない、兵たちの高揚感も描かれていて、日本人の若手作家が、あえて第二次世界大戦のヨーロッパ戦線というなじみのないテーマをここまで書いたということに、新鮮な驚きと作者の非凡さを感じました。
この作家さん、注目です。
 
◆鍵の掛かった男(有栖川有栖)
これも15年の「このミス」「文春ミステリー」「本格ミステリ」で10位以内にランクインしていた作品。
犯人が殺意を抱いた理由が後出しっぽかったけど、それ以外は良く練られた本格ミステリと思いました。人生の最後でやっと幸せを掴みかかっていたのに、被害者の人生が哀しいですね。
舞台は大阪・中の島のホテル。社会人になって最初の勤務地が中の島だったので、大変懐かしく読みました。

◆鬼の跫音 (道尾秀介)(角川文庫)
道尾秀んの初期短編集、「鈴虫」「犭(ケモノ)」「よいぎつね」「箱詰めの文字」「冬の鬼」「悪意の顔」の6篇収録。
ファンタジーと思わせて実はそうではないホラー・ミステリー、「向日葵の咲かない夏」の原型みたいな感じの作品で、道尾ワールドに引き込まれました。
 
◆GOSICK PINK(桜庭一樹)
うーん。「GOSICK」もマルグリッド学園編は壮大なドラマだったけど、RED、BLUE、そしてこのPINK、新大陸編に入ってからはライトノベルですね。
そのつもりで読みます。
 
◆贖罪の奏鳴曲(中山七里)(講談社文庫)
「王様のブランチ」で谷原章介さんが絶賛していたので読んでみました。
酒鬼薔薇事件を思わせる御子柴の生い立ち、いきなり彼の二回目の殺人を想起させるシーンから始まったので、さぞかし善悪の基準が麻痺した冷血漢と思いきや、最後のどんでん返し。
犯人捜しそのものよりも、根っからの悪人は誰?みたいな、そっちのテーマが重い作品でした。
 
◆チルドレン(伊坂幸太郎)(講談社文庫)
いかにも伊坂さんらしい、軽妙な短編連作でした。陣内がいい味だしてますね。出張の機内で、楽しく、気軽に読めました。
 
◆パラダイス・ロスト(柳広司) (角川文庫)
D機関シリーズ第3弾。現在アニメ放映中の「ジョーカーゲーム」、第3話は本巻の「誤算」でした。
今まで同様のD機関のスパイたちの活躍、「追跡」は結城中佐の過去が明かされそうな展開で「おおっ」と思ったんですが。。。
 
昨年度の本屋大賞受賞作をやっと読みました。
上橋さんのファンタジーは、「精霊の守り人」「獣の奏者」に続いて3作目、彼女の作品は、どれもスケールが大きくて、設定が独特で緻密ですよね。
◆鹿の王 (上)(下)(上橋菜穂子)
二人の主人公、ヴァンとホッサルの話が並行してすすみ、やがてその人生は交差し運命的に絡んでいく。
医学がそれなりに発達した現代でも、病の本質ってのは変わってないのだろうなと思わされました。
征服者と被征服者の関係とか政治的なことの描写も上手で、単に異世界ファンタジーではない、唸らされる作品。上下巻で1000頁以上の長さも気になりませんでした。
でも、登場人物が多くて、途中で誰がどこの誰だったかよくわからなくなることしばしば。2,3年後に再読してみたい。
 
◆しゃべれどもしゃべれども(佐藤多佳子)(新潮文庫)
佐藤さんの文章が読みやすくて、心にすっと入ってくる。
短気で半人前の落語家のもとに、四人四様にコミュニケーション能力に欠けた人が集まり、落語を始める。笑ってしまうくらい不器用な人たちが、もどかしい徐々にくらいにゆっくりと、でも確実に心を通わせ、仲間になっていく。心温まる、良いお話でした。
 
◆日の名残り(カズオ・イシグロ) (ハヤカワepi文庫)
年老いた執事の昔話のモノローグ、読み始めはこれがずっと続くのかと思ったが、途中からぐいぐい引き込まれた。
優秀な執事といえば「黒執事」か「メイちゃんの執事」しか思い浮かばない私ですが、これは古き良い時代の英国の正統派の執事の生きざま。
ゆるぎない職業意識、自己の抑制と主人に対する忠誠にdignityを感じる一方で、没落する旧大陸と勃興する新大陸、時代の流れ、価値観の転換に戸惑うさまに少しだけ滑稽さを滲ませる、著者の筆致はなんともみごとという他はありますまい。おすすめ、秀作。
 
◆異類婚姻譚(本谷有希子)
これが芥川賞ってやつか。又吉さんの「火花」は分かりやすかったけど、これは、精神世界をメタファーで描いているというか、面白かったような気がしないでもないが何ともわかりにくい。
 
◆最後の晩ごはん ふるさととだし巻き卵(椹野道流)(角川文庫)
夏神さんのしょうが焼き、おいしそう。難しい本の合間に読むにはちょうど良い本。
 
◆安徳天皇漂海記 (宇月原晴明)(中公文庫)
06年の山本周五郎賞受賞作。
日本神話(それも水蛭子)、高丘親王、安徳天皇、源実朝、フビライ・カーンにマルコ・ポーロ、南宋皇帝まで登場する壮大な歴史ファンタジー、というか、奇想天外な怪著です。
歴史ヲタの私はなかなかに楽しめました。
 
◆倒れるときは前のめり(有川浩)
有川浩さんの小説を全冊制覇したので、エッセイ集も読んでみました。
とっても男前な本でした。
タイトル、坂本龍馬のことばですよね。「巨人の星」で読みました。星一徹が飛雄馬に「死ぬときは、たとえ溝の中でも前のめりに死ね」みたいなことを言って、飛雄馬が感動して涙を流す名シーン、って本に関係ない話ですみません。
ところで、この本、有川さんには申し訳ないことに図書館で借りました。作家さんを育てるために、文庫本になったらちゃんと本屋さんで買います。
 
歴史関係の本が3冊。
 
◆逆説の日本史 20 幕末年代史編3 西郷隆盛と薩英戦争の謎(井沢元彦)
そもそも尊王と攘夷は別のもの。尊王思想自体は朱子学の産物として、その天皇から征夷大将軍に任命されている幕府が国を統治することは何の問題もなかったはず。
ほとんど御所からも出たことがない孝明天皇に、いかに攘夷が無謀なことかを説明、説得し、勅諚を出されないようにすればよかった。
集団ヒステリー状態を生んでしまったのは、やはり幕府の失政、現状認識と危機管理の甘さなのでしょう。
転がり始めた歴史は止まらない。。。
 
◆東京今昔江戸散歩 (山本博文)
ブラタモリ感覚で読んでみました。実家が文京区なもので、近所が紹介されていて面白かった。
 
◆神社検定公式テキスト②『神話のおへそ』(日本文化興隆財団)
神社検定2級、一応本気で目指してます。
神話の裏側にあるもの、それは勝者の歴史、なのでしょうね。
根の国に隠れたり、諏訪まで逃げたり、船を傾けて海に入ったり、国譲り神話って要は高天原系にやられたということ。
神話を思い考えながら、参拝をしたいと思います。