(あらすじ・内容)
人生を賭けた激しい願いが、6つの謎を呼び起こす。
人を殺め、静かに刑期を終えた妻の本当の動機とは――。驚愕の結末で唸らせる表題作はじめ、交番勤務の警官や在外ビジネスマン、フリーライターなど、切実に生きる人々が遭遇する6つの奇妙な事件。入念に磨き上げられた流麗な文章と精緻なロジック。「日常の謎」の名手が描く、王道的ミステリの新たな傑作誕生!
(感想)
15年のこの「ミステリーがすごい」「ミステリを読みたい」「文春ミステリーベスト10」で三冠獲得、「本格ミステリ」でも2位に入った、間違いなく昨年のミステリー書の一番の作品。いや、ミステリー界のみならず、山本周五郎賞受賞、本屋大賞7位、直木賞候補ににもなった米澤さんの話題作、ずっと図書館の順番待ちで、やっと読むことができました。
「夜警」は殉職した新米警官、「死人宿」は別れた妻が働く宿の自殺志願者、「柘榴」は女にだらしのない夫と離婚係争中の妻の美人姉妹、「万灯」は仕事のために殺人を犯してしまう一時代前の商社マン、「関守」は娘を守る峠のドライブインの老婆、「満願」は金融業者を殺めてしまった人妻の本当の理由、それぞれに登場人物も趣も違う短編ミステリーが6篇。最初の「夜警」でいきなり米澤さんの世界に引きずり込まれ、そのまま一気読みでした。
6篇とも、全然違う話なのですが、何とはなしに感じてしまう共通点は、秘められたほの暗い心の闇、でしょうか。警官に向かない男がしくんだ愚かなはかりごととその結末、因果応報というべきか、美しい少女の心に秘められた女の性、薄幸な娘が犯した罪を隠す老婆の作った都市伝説、商社マンが仕事のために犯した殺人に下る思わぬ審判。
そして表題作の「満願」、満願とは、仏教用語で「日数を限って神仏に願い事をしたその期限に達すること」、確か太宰治にも同名の小品がありました。自堕落な夫に借金を背負わされながらも、下宿のおかみさんが最後まで守ろうとしたものは、ちょっと意外なものでした。
緊張感をもって、ホラーっぽく描かれた多様な心の闇の余韻がずっしりと残る作品群でした。