11月は、まずまずの24冊。
今月は歴史ものを多く読みました。
◆村上海賊の娘(上)(下)(和田竜)
2014年の本屋大賞受賞作です。
もし信長を、天下統一を目指して中世から近世へ歴史の歯車を回した正統、必然とすれば、足利将軍も毛利も上杉も、目的を異にしながら信長を挫くためだけに合従した抵抗勢力。中でも本願寺は領国支配をした宗教集団で、行けば極楽浄土、引けば無間地獄で戦わせたときては今のイスラム国を想像してしまう。
なんてことは全く関係なく、和田竜さんの描く木津川合戦は史観なしのエンタメ路線。お家存続の計算で動くことが多い武家たちが、一皮むけて武士の矜持と本能をむき出しにして戦う。自らの価値観に殉じる姿が凛々しくも哀しくて少しおかしい。
◆かたづの!(中島京子)
2014年の「柴田錬三郎賞」受賞作。
戦国の世が終わり、でもまだ何かと世の中が落ち着かない江戸時代初期、東北の中では、保科(松平)、伊達、上杉に比べると地味な、あまり歴史の表舞台に出ることのなかった南部藩の、そのまた分家筋のお話。
派手な「村上海賊の娘」と正反対の、従来の武士の価値観や美学を捨てお家存続を図る姫様の一代記。武辺だけが戦いではないってか。
◆巨鯨の海(伊東潤)
13年の山田風太郎賞受賞作。
江戸時代から明治初期にかけての紀伊・太地の鯨漁の風景。
分業化、専門化され、組織の力で鯨を狩る、そこには卓越した組織力とリーダーシップが存在した。 それでも死と隣り合わせの、危険極まりない男の仕事、それ故に存在する矜持と閉鎖社会の中の鉄の掟。
「旅刃刺の仁吉」「恨み鯨」「物言わぬ海」「比丘尼殺し」「訣別の時」「弥惣平の鐘」、どれもこれも渾身の短編6本。
昨今何かと非難されることの多い捕鯨ですが、うーん、なるほど、「日本の食文化だ」といえる半面、確かに残酷ではあります。
◆光圀伝(上) (下) (冲方丁)
14年の吉川英治新人賞受賞作。
戦国最後の大戦、大坂の陣が終わって20年足らず、戦国の世は終わったも、武士たちはまだ荒ぶる心をくすぶらせいている、そんな時代。御多分に漏れず血気盛んな傾奇者であった光圀が、武辺から文治へ、歴史の価値観の転換期に、どう己を変貌させていったのか。
冲方丁さんの歴史長編。司馬遼太郎さんのような大御所の史観とはまた違ったヒュ-マニズムとエンターティンメントの冲方史観、面白かったです。
江戸幕府のメカニズムが完成すると同時に悪しき官僚化が始まる。凡庸な将軍家の系譜は長続きせず、この後将軍は紀伊徳川家に移り、幕府は200年続く。、再び訪れる外圧という価値観の転換期に、大政奉還という幕引きをするのが光圀の末裔というのが、なんとも歴史の妙で面白い。
◆歴史が面白くなる 東大のディープな日本史
◆歴史が面白くなる 東大のディープな日本史2
東進ハイスクールの講師、相澤理さんが東大の日本史の入試問題を語る。
歴史は絶対に暗記科目だけではないし、そうすべきではない。答えはなんとなくわかっていてもこういう深い話を150字とかで簡潔、的確に書くこと、、その作業を実際にやろうとするとすごく難しい。
日本がたどった歴史はわれわれ日本人のDNAの中に組み込まれている。それを自覚したうえで未来を考えることはすごく重要。さすが東大、いい問題出すなー。
ミステリーを5作品。
◆闇に香る嘘(下村敦史)
14年の江戸川乱歩賞受賞作で、このミス大賞等ミステリの各賞でも上位にランクインしていた作品。
中国残留孤児、密入国、盲人、腎臓移植、重苦しいテーをがうまく料理したという印象。これでもかとてんこ盛りの伏線が、多少苦しいというかやりすぎと思われるものもありながら、終盤に向けて回収されていくのがなかなかに鮮やか。
◆小さな異邦人(連城三紀彦)
表題作の他、「指飾り」「無人駅」「蘭が枯れるまで」「冬薔薇」「風の誤算」「白雨」「さい涯てまで」の短編8作。 ちょっと設定が無理目の話も2,3ありましたけど、「なるほどー」と唸らされるものも多かった。
表題作の「小さな異邦人」は語り部のヒロインがちょっと反則っぽいけど、短い話でしっかりみすてりーしててミスリードされてしまいました。
「無人駅」のラストとか、「さい涯てまで」なんて、ダメな男の哀愁漂っちゃっているし、ミステリ部分以外も良い味だしてます。
◆楽園のカンヴァス(原田マハ)
1年前、面白くて一気読みしたので細部の記憶はあいまい、でも、また一気読みしてしまった。
約100年前の芸術の都パリに集った前衛芸術家たち。その中で、ルノワールでも、モネでもなく、比較的マイナーなアンリ・ルソーの一枚の画が主題。
不遇をかこっていても、自分の画に賭ける信念と情熱が時空を超えて人の心を動かす。
ミステリーとしても上質だが、それ以上に、損得や陰謀、脅迫などものともしない、芸術に対する愛と芸術を愛する者たちの連帯感、通じ合う気持ちがすがすがしい。文句なしの名著。
◆時をかける眼鏡 医学生と、王の死の謎 (椹野道流)
タイトルから、もう少し本格的なミステリーとか、タイムパラドックス的な話を想像していましたが、完全にラノベですね。 謎解きも単純だし。
◆確率捜査官 御子柴岳人 密室のゲーム (神永学)
良くも悪くも神永学さんっぽいというか、キャラも漫画っぽくて、オチもだいたいすぐ想像がついてしまいました。
その他の小説を5冊。
◆ピンクとグレー(加藤シゲアキ)
ジャニーズ事務所と思ってなめてかかってましたが、いや、これはなかなかでした。「火花」も悪くないって思いましたが、芸能人、やるじゃないですか。時代がカットバックしたり、ミスリードを誘うような記述もなかなか。すれ違う心が哀しく切ない。
◆約束 (石田衣良)
「約束」「青いエグジット」「天国のベル」「冬のライダー」「夕日へと続く道」「ひとり旅」「ハートストーン」、絶望、停滞、どん底、そんな状態から勇気を振り絞って再出発をする、そんな短編が8編。「夕日へと続く道」の源ジイが良い。それぞれ、それなりに読ませました。
◆わたしの恋人 (藤野恵美)
いい歳をしたおっさんが読むには、ちょっとこっぱずかしい作品でした。
でも、このころの恋愛が「恋愛ほど相手のことを真剣に思い、自分がどう思われているかを真剣に悩み、喜び、傷つくものはない」のもまた真実。
若いころの真剣な恋は、間違いなく人間を成長させる。
余談ですが、先週、中三の頃好きだった人と(二人でではないですが)飲みに行きました。間違いなく、恋は人生を豊かにします。いくつになっても、龍樹のようなまっすぐな心を失いたくないよねって思います。
◆花々(原田マハ)
「カフーを待ちわびて」のスピンオフ。サーフショップで働く純子と、明青と幼馴染だった成子の二人を中心に「カフーを待ちわびて」と同時進行していた物語。
「鳳仙花」「ねむの花、デイゴの花」「さがり花」「千と一枚のハンカチ」「花だより」、各章に登場する花とともに語られる心温まるお話。明青とサチは全然出てこないけど、うまくいったみたいで良かったです。南の島、いいなー。
◆動物農場(G・オーウェル、開高健訳)
昔、石ノ森章太郎の漫画で読んだこと、原書で読もうとして挫折したこと、記憶にあり。
書かれた時代からして、当時のソビエト連邦への批判、風刺を目的に、レーニン、スターリン、トロッキーなどをあてこすって書かれた小説であることは確か。
でも、独裁者の振る舞いというものは実に普遍的というか、私は、ナポレオンを北朝鮮の赤い皇帝に脳内変換して読んでました。金正恩も金正日もルックスが豚っぽいし。
これを読書といっていいのかどうか、でも萩尾望都さん、ファンなんですよね。
◆萩尾望都作品集 -6 ウは宇宙船のウ
「ウは宇宙船のウ」「泣きさけぶ女の人」「霧笛」「みずうみ」「ぼくの地下室へおいで」「びっくり箱」「宇宙船乗組員」、レイ・ブラッドベリの短編集からピックアップされた7編。
ブラッドベリの世界観に萩尾さんの絵がマッチしていて、漫画とは思えない、品質の高い作品に仕上がっている。原作の小説は未読なので、読んでみます。
◆トーマの心臓
なんか、漫画って気がしない。これはもう文学作品です。
自分は「11人いる」「スターレッド」などのSF作品が好きだけど、こういうのも良いなー。
夏目漱石と太宰治の解説書。
◆文豪ナビ 夏目漱石 (新潮文庫)
◆文豪ナビ 太宰治 (新潮文庫)
最近、この歳になってやっと漱石のすごさが少しわかるようになってきた。
明治から大正にかけてのあの時代において、漱石は圧倒的に新しくて、でもそれだけではなく、明治の、古道な部分を持ち合わせた作家だったのだ。「吾輩は猫である」から絶筆となった「明暗」まで12年、夏目漱石が活躍した時間は意外と短い。彗星のごとく現れ、あっという間に巨星になり、そして燃え尽きてしまった、日本で最初にして最強の「文豪」。まだ読んでない作品もあるので、この本で勉強して読んでみます。
太宰さんはねー、もう、太宰さんったら。
最近、暗渠をジョグすることに凝ってまして、そのガイドブックを2冊。
川だったころの風景を想像すると、昭和の街並みが見えてきます。
◆東京ぶらり暗渠(あんきょ)探検 消えた川をたどる! (洋泉社MOOK)
神田川、目黒川、渋谷川支流の暗渠探検ジョグのバイブルとしたい1冊。
◆暗渠マニアック!
紹介されている桃園川緑道、谷端川緑道、玉川上水緑道は、よくジョギングしている道です。