危険、過激、でも観ずにはいられない!「クラッシュ 4K無修正版」 | 帰ってきた神保町日記      ~Return to the Kingdom of Books~

危険、過激、でも観ずにはいられない!「クラッシュ 4K無修正版」

『クラッシュ 4K無修正版』

 

 デヴィッド・クローネンバーグ監督は、僕の大好きな映画監督の一人だ。

 こう書くと心ある映画ファンからは、「ああ、こいつはやはりそういう奴だったのか」と思われるかもしれない。

 でも好きなんだから仕方がない。

 彼の作る作品のほとんどは、先日このブログで書いた「何が何だかよくわからなかったけど、何だかすごいものを観てしまったことだけはよくわかる映画」の範疇に入る。

 僕が初めて魅了されたクローネンバーグ作品は「ヴィデオドローム」だった。これもどんな内容なのかを一言で説明するのは難しい。人間の精神の変容をグロテスクな表現で具現化するのが、初期のクローネンバーグの特徴だと思う。

 「クラッシュ」はJ・G・バラードの原作を映像化したもので、交通事故に性的興奮を覚える人々の姿を描いたインモラルな内容だ。本編の半分以上がセックスシーンという過激な内容のため、公開当時は賛否両論を招いた。もちろん日本ではR18指定。

 僕も1996年の日本公開当時に映画館で観たのだが、正直どう解釈してよいのか戸惑った。ジェームズ・スペイダー、ホリー・ハンター、ロザンヌ・アークエットといった、当時のトップスターたちが繰り広げるセックスシーン。そして交通事故で傷つきながらも快感を覚え恍惚とした表情を浮かべる人々。非常にヤバイ内容の映画だということだけはよく分かった。

 そして25年ぶりのリバイバル。しかも4K画質の無修正版。ドキドキしながらスクリーンに向かった。初めて観た時のような衝撃はなかったものの、それでもやはりスクリーンからは危険な香りが強烈漂ってきた。

 この映画で描かれる自動車は、現代のテクノロジーの象徴であると同時に、人間の暴力と性の衝動の象徴でもある。車を運転すると性格が変わる人がいる、というのはよく聞く話だ。自動車の運転というのは、人間の肉体では出せない力とスピードを誰もが簡単に手に入れることができ、それがある種の征服欲や興奮を呼び起こし、ひいては性的衝動にも結びつくのだと思う。この映画はそんな衝動に取り憑かれた人々の物語である。

 J・G・バラードは20世紀以降の科学の時代にあって、テクノロジーの中での人間の「生」をSF小説で描いた作家。そしてクローネンバーグは人間の精神が科学によって変容する様子を独自の表現で描いてきた映画監督だと思っている。

 初期のクローネンバーグの作品はホラー色の強いものだったが、この「クラッシュ」を境に明らかに映画の撮り方が変わってきている。グロテスクな表現に頼らずに、より人間の精神の深い闇に切り込んでいくような作品になっているように感じる。それはある意味、グロテスクなホラー表現以上に過激だ。