久我美子がお亡くなりになったそうで。昨日、訃報をお聞いて、私はずっと映画を観ておりました。

 

もう、数年前になりますかしら、若尾文子が、今まだ生きてらっしゃるのかしらと、お名前は出しませんでしたが、皮肉たっぷりにテレビでおっしゃってて、若い頃の彼女とは違って、汚れ役はなさらない高貴なご出身の方でございました。私もどうしているのかしらと思っておりましたが、お母様が日本女子大だったからか、事務所がワタナベエンターテイメントでらっしゃたのね、じゃあ、ちゃんと訃報も届きますって~~~。

 

侯爵家のおうちで、女子学習院のご出身。今はどうなのか、そもそも芸能界に入るなんて、家庭の事情でございます。戦前の侯爵家って、どうやって食べていたんですの? なんでお金があったのか、下々の者には想像出来ませんが、詐欺まがいのものにも引っかかりやすいんでしょうね。ま、今は、どちら様の高等遊民だって、バイトぐらいしますのに。

 

黒澤明は、その優美な品の良さを取り上げて、本当に天使のように、「白痴」や「酔いどれ天使」に起用しました。溝口健二は「平家物語」の平時子に起用しました。成瀬巳喜男は、戦後の新しい時代に向けて、「春のめざめ」で、久我美子を初主演させました。

 

新しい時代の娘達の姿として、小津安二郎は、「彼岸花」のように、新しい女優を競演させることで新しい結婚、新しい家庭作りの姿を現しました。

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私、この映像だけで、一連の着物解説が出来ましてよ。ラストシーンの八掛が、お話がすでに10月に入っていることを示しております。田中絹代が9月に着ている単衣に襦袢の袖がございませんでしょう? それを素合わせと申します。だから9月だって分かるんです。

 

この映画では、久我美子は家を飛び出して男と暮らしている娘の役ですが、ふしだらさなんかみじんもない、自分の生き方に自信を持って新しい形の結婚を自分の力でまっとうしております。お洋服の着こなしも、とってもエレガントですわね。多分、森英恵のもの。

 

実際、実生活でも、岸恵子と有馬稲子と新しく会社を作ったり、ただ綺麗なだけの女優さんではございませんでした。木下恵介も、「女の園」に始まり、「太陽とバラ」、「夕やけ雲」と、立て続けに久我美子を起用し、テレビドラマの時代になってからも、木下恵介アワーの「冬の旅」でテレビ界でも上品なおうちの様子を演出しておりました。

 

でも、私が思いますに、一番に彼女の魅力を引き出させたのは、やっぱり、今井正でしょうかしらね。確かに、お生まれがいいと、演技を上回るお嬢さん役が出来ますが、労働をする姿やお金に困っている姿を久我美子にさせたことで、彼女の知的な部分と申しますか、背景にある文化というものが画面に手に取るように分からせる説得力がございましたね。

 

反戦特集で書いたものですが、「また逢う日まで」のガラス越しの接吻シーンを、コロナ禍の時など、私も何回かこのブログに取り上げております。

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ある時代の個と連の求め方 | 成澤弘子のブログ  詩人は黙っていられない! (ameblo.jp)

 

 

コンセプトを真正面から描く大島渚も久我美子を起用しましたわね。実に、社会の正論として。

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いろんな仕草や物言い、着こなしなど、女性としてお勉強になることが多々ございますが、これひとつをあげろと言われたら、私は、樋口一葉の「大つごもり」かしら。心の優しい娘は、賢くて品があるものなのね。お金があって下品じゃ、どうしようもないでしょう。もちろん、監督は、今井正でございます。

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ああ、私は、これだけたくさんの映画をずっと観て来られて、とっても幸せでございます。生まれる前からの映画もございましたが、自分から進んで、探してでも映画を観たことが、今の私の血や肉になっているのでございます。

 

成れって言ったって出来ない、やれって言われても必ずしも出来ることではない場所におられた女優さんでございました。折に触れ、それらを映画から読み取ることが出来たことが、私の幸せでございます。

 

謹んで、心より、お悔やみ申します。