「哀れなるものたち」胎児の脳を移植された女性の物語。衝撃的なストーリーと芸術作品のような映像 | 『Pickup Cinema』

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2023年製作/142分/R18+/イギリス 配給:ディズニー 監督:ヨルゴス・ランティモス 出演:エマ・ストーン, マーク・ラファロ, ウィレム・デフォー 原題:Poor Things 劇場公開日 2024年1月26日 ★ ディズニー招待によるマスコミ試写会大阪で1月17日鑑賞。

ある夜、青く光る美しいドレスに身を包んだ一人の女性(エマ・ストーン)が自ら命を絶った。その遺体は天才外科医のゴッドウィン・バクスター(ウィレム・デフォー)に発見され、身ごもっていた胎児の脳を移植されることで蘇生する。

ベラと名付けられた彼女は、新生児の脳をもつ大人の女性として、ゴッドウィンの屋敷で暮らし始める。

ベラの脳は驚く速さで成長し、身体の動かし方に慣れ、言葉を習得し、やがて性に目覚め、外の世界に興味を持ち始める。しかし、周囲が驚くほどベラは粗野で乱暴で残酷、そして自己中心的だった。

ゴッドウィンの依頼でベラの観察記録をつけていた弟子のマックスは、ベラに愛情を抱くようになり婚約をする。

しかし、ベラに一目ぼれした弁護士のダンカン(マーク・ラファロ)は駆け落ち同然でベラと旅に出る。放蕩者のダンカンとの贅沢で性の快楽に満ちた冒険の旅は、ロンドンからリスボン、アレキサンドリア、パリへと続く。

その途中で想像を絶するような様々な経験を重ね、ベラは女性として、人として成長を遂げていく。

やがて破産したダンカンと別れ、パリの娼館で娼婦として働いていたベラは、ゴッドウィン危篤の知らせを受けロンドンに戻り、マックスとの挙式に臨むのだが…。

幻想的な世界観。それはクラシックだが近未来的。ガウディの建築を思わせるようなアール・ヌーヴォーな街並みや調度品を背景に、不思議な衣装を身にまとい、激しい気性のベラを熱演するエマ・ストーン。その圧倒的な存在感には驚かされる。すべてのショットがまさに芸術作品だった。のぞき見をしているような気分にさせるカメラワークも素晴らしい。

移植手術で胎児の脳を得て再生し、成長していく女性の物語だが、生物学的な視点から見ても興味深い。なぜ当初、ベラは残酷で乱暴だったのか。それは子が両親から半分ずつ譲り受ける遺伝子の影響が濃いと思われる(ネタバレになるので詳しくは書けません)。

しかし脳の成長に伴い、愛や正義、倫理観、知性などを得て、自由や偏見、男女平等まで考えるようになる点は、まさに環境や経験で人格が形成されていることを表しているようだった。

そしてタイトルにある「哀れなるものたち」とは一体、誰を指すのか。とにかく色んな見方ができて楽しめる作品。過激な性描写やショッキングな移植のシーンも多いのでR18+。

第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で金獅子賞を受賞、に納得の作品だ。