「マゴーネ 土田康彦「運命の交差点」についての研究」 上質で奥深いドキュメンタリー作品 | 『Pickup Cinema』

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2021年製作/96分/G/日本 監督:田邊アツシ 出演:土田康彦ほか 配給:えすぷらん 公開日 2023年6月9日

 

世界から注目されるガラス作家、そして料理人、作家…多彩な才能をもち、バランスのとれた体躯に哲学者のような風貌。さらにコミュニケーションの天才。

 

この人に出会った人は皆、ファンになるのではないだろうか。この映画は、ヴェネチアンガラス作家・土田康彦の日常を8年間追い続けた上質で奥の深いドキュメンタリーだ。

イタリア北部、美しき水の都ヴェネチアで約1000年にわたって受け継がれてきた世界最高峰のガラス工芸、ヴェネチアンガラス。

 

熟練のガラス職人が集うムラーノ島に唯一の日本人としてスタジオを構える土田康彦は、独自の哲学と日本の美を吹き込んだ作品で世界中から注目を集めている。

土田は大阪の辻調理師専門学校を卒業後、ヨーロッパに渡り、ヴェネチアの名店「ハリーズ・バー」で調理師として腕を磨いた経歴の持ち主。素材を生かしたシンプルな料理を自らが創作したガラス食器に丁寧に美しく盛り付ける姿は、それだけでアート作品のようだ。

 

フェンシング選手、映像作家、ミュージシャンなどさまざまな肩書を持つ人々を温かく迎え入れ、料理を介してコミュニケーションを取り、悩みや葛藤を話し合い、包み込んでいく。

タイトルの「マゴーネ(Magone)」とは、美しい思い出。北イタリアの方言では「夕日を見る時の胸を締めつけられるような感覚」を意味するが、土田は諺にある“袖振り合うも多生の縁”とも繋がる感覚だと語る。

映画は7つの章からなり、それぞれの章が土田の人生観や創作に関する要素を含んでおり、観客は順を追って彼を理解していくような流れになっている。