「FLEE フリー」ウクライナだけではない。紛争地に生まれ、故郷と家族を奪われた青年の真実の物語 | 『Pickup Cinema』

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2021年製作/89分/G/デンマーク・ スウェーデン・ ノルウェー・ フランス合作 監督:ヨナス・ポヘール・ラスムセン

原題:Flee 配給:トランスフォーマー 

劇場公開日 2022年6月10日

“FLEE”とは危険や災害、追跡者などから(安全な場所へ)逃げるという意味。

20年の時を経て、祖国アフガニスタンからの脱出を語る青年の姿を描いたドキュメンタリーだが、安全を守るためアニ化されている。随所にアーカイブ映像がはめ込まれ、リアリティにあふれている。世界が絶賛し、82受賞135ノミネートの話題作。

主人公はアフガニスタンに生まれ育った少年アミン。ある日、父がタリバンに連行され、危険を感じた家族と共に祖国を脱出する。

数年後、観光ビザでロシアに入国したアミンたちはヨーロッパへの密入国を目指したが、計画は思うように進まない。

やがて家族とも離れ離れになったアミンは、数年後、たった一人でデンマークへと亡命する。

30代半ばになったアミンは、研究者として成功し、恋人の男性と結婚しようとしていたが、胸の奥にしまっていたこれまでの辛い経験を、親友である映画監督に打ち明けることにした。

 

映画の中に収められているたくさんのエピソードの中で特に印象に残ったのは…。

ロシアに滞在中のある日、モスクワにマクドナルドがオープンしたと聞いたアミンと兄は街へ出かける。

しかし、賑わう店を羨ましそうに眺めていた兄弟は警察に連行され、アミンは大切にしていた父の形見の腕時計を取り上げられる。

乗せられた車には不安そうな表情の一人の少女がいた。

アミンは回想する。「なぜ、あの時、彼女を見捨てたのか。最も心が痛む辛い経験の一つだ」と。

ロシアのウクライナ侵攻を受け、米国マクドナルドは長年営業してきたモスクワ1号店をこのほど閉鎖した。初出店時の賑わいを収めたフィルムに、庶民とはかけ離れた当局の行動に改めて憤りを感じてしまう。

人間は生まれてくる時と場所を選ぶことはできない。

どれだけ多くのアミンがこの世には存在しているのだろうか。

哀しみと優しさ、そして現実を知ることになる貴重な作品。