ニコルは警備ロボットから解放され、高級感の溢れる本皮の椅子に座らせてもらった。
イーロン・ゴールド社長は従業員の何名かを呼び出した。
イーロン社、本社ビルの最上階、30階に集まったのは3名の従業員だった。
社長はこれまでの経緯を3名の従業員に説明し、セキュリティの見直しとハッキングの有無をチェックするように命令した。
ニコル「待って、僕も一緒に行く」
ニコルは、3名の従業員について行って、何か情報が欲しかった。社長は、ニコルの勇敢さと行動力に感心して、3名の従業員についていく許可を出したのだった。
イーロン・ゴールド社長
「今回の件は、君が我が社に侵入を試みて、ここで私と出会っていなかったらスカイタウンの異常事態には気づいていなかっただろう。
コンピュータールームのAIは確かに警察署に連絡を入れているが返答がない。恐らくメッセージは届いておらず「待機」の状態だと予想できる。
従業員は、ロイド、ルーシー、ザイオンの3名だ。一緒に行って、手がかりを掴んで来てくれないか?ニコル」
この社長の対応は、異例中の異例だった。
イーロン社の屋上にドローンバイクで忍び込み、20階にあるメインコンピューターへアクセスしようとした部外者に対して、手厚い歓迎をするなど考えられないことだった。
しかし、スカイタウンの異常事態は、一切、イーロン社の本社ビルには連絡がなく、警察署との連携も取れておらず、下手をすると超高層ビル群のすべてが機能を失い、何者かに乗っ取られた可能性さえあった。
スカイタウンの住人のニコルが勇気を出して、イーロン社に侵入してくれなかったら今もイーロン社では、異変に気づかず、いつもと変わらない日常を過ごしてしまっていただろう。
会社だけではなく、社長の威信を賭けた、万事を尽くす状態である。
ニコル「ゴールド社長、状況を理解してくれて、ありがとう。何かわかったらすぐに伝えるよ。メインコンピューターのバーチャルアンドロイド・マザーにも会って話がしたいけど、いいかい?」
イーロン・ゴールド社長「ああ、構わない。ここにいる3名の従業員が君をメインコンピューターまで案内するよ。会話は記録させてもらう。条件はそれだけだ」
ニコルは3名の従業員と共にメインコンピューターの元へ向かった。誰もいなくなった社長室でイーロン・ゴールド社長は両手を机についてうなだれた。
イーロン・ゴールド社長は、次の株式総会で自分の首が飛ぶかもしれない危機感から、相当焦っていた。社長の額から流れる汗は、まるでマラソン選手が長距離を走った後のようだった。
イーロン社に不法侵入したニコルよりもスカイタウンの異常事態を引き起こしたかもしれないイーロン社のセキュリティの管理体制のほうが問題は深刻である。
偵察機のドローンが街中を飛び回り、介護ロボットは暴走している。この事実は変わらないのだから・・・・。世間に問われるのはそこである。
テレビや雑誌、メディア関係者からの要請で記者会見を開いて、世間に向けて、言い訳と謝罪をするとき、自分の顔が全米にさらされることになるのだ。それだけは避けたいと社長は思った。
既にスカイタウンをベースとした次世代の街を作る構想は始まっている。他の街の市長と不動産大手ハワイード・ヒューズはスカイタウンを超えるものを求めているのだ。
先月、その安全と快適な暮らしを実現できるのはイーロン社しかないと社交パーティーで社長が断言した矢先の出来事である。
非常に頭が痛い、気分が悪い、めまいがする、背中に悪寒が走る。イーロン・ゴールド社長は頭を抱えた。
ニコルと三人の従業員はメインコンピューターのある部屋の前に到着した。
従業員のロイドがIDカードをドアのセキュリティを管理する端末機に読み込ませ暗証番号を入力して、メインコンピューターの部屋の入り口の扉を開けた。
ニコルと従業員が中へ入ると電灯が点いた。センサーで感知して、明かりが点くようになっているようだ。
ニコルはショルダーバッグからメインコンピューターに接続するUSBコードを取り出して、メインコンピューターのバーチャルアンドロイド・マザーに会う準備をするのだった。