藤島コラム⑨『「理想」と「現実」の決闘-ラグビー頂点へ-』 | ひろどんの歌声日詩♪
『「理想」と「現実」の決闘-ラグビー頂点へ』

 2008年2月26日付 東京新聞夕刊「スポーツが呼んでいる」


 東京都内の最大瞬間風速は26.4メートルを記録。

暴風の日曜、秩父宮ラグビー場では、試合前から駆け引きが始まっていた。

トップリーグ覇者を決めるマイクロソフトカップ決勝、サントリーサンゴリアスの清宮克幸監督は、ジャンケン(トス)に勝って、あえて風下の陣地選択を指示した。

「ほとんどのチームはジャンケンに勝つと風上を選ぶ。こちらが、前半は風上で戦いたいと考えても負ければ風下になる確率が高い。それなら、あらかじめ前半は風下で耐えるための練習をしておいたほうがいい」。


 勝負師。

倉庫にホコリだらけで積んであるような言葉だが、やはり、そう表現したくなった。

対戦相手の三洋電機ワイルドナイツは、シーズン全勝の快進撃を続けている。

約2カ月前のリーグ戦の同カードでは、三洋が35-24で勝った。戦前の予想は互角の決闘が始まった。

それは現実と理想、つまり「こうすべき」と「こうありたい」との戦いでもあった。


 サントリーは、スクラムとラインアウトとモールが強い。

いずれもFWの結束力が問われる領域だ。

清宮監督は昨年度の就任以来、徹底して強化に努めてきた。

「指導者が熱意を持てば必ず伸びる領域だから」である。

三洋電機は、堅い守りからボールを奪ってのカウンター攻撃を得意とする。

スクラムやモールにはさほど執着しない。

その分のエネルギーをボールの動く局面に振り分けたい。

宮本勝文監督には「そのほうが見てる人もおもしろいでしょう」という気持ちがある。


 さて決戦。

サントリーは局地戦に徹して「時間をつぶす」作戦を遂行した。

当初の計画通り、旗も吹き飛びそうな風下の前半を、わずか3点のビハインドで終えられた。

後半、じりじりとモールを押し込んで、でも押し込めず切り返されると、その直後、いきなりラインアウトから速攻展開を仕掛けてトライを奪った。

結局、このリードを守り切り、サントリーが14-10で勝った。

「三洋のモールが弱く、止めるための人数をかけてこないので押し続けただけ」。

清宮監督は会見で言った。

「お客さんのワクワクするようなパスやステップをやってみたい。でも、そのラグビーで勝てるか。勝てないわけですよ。ファイナル(決勝)ですから」


 三洋の宮本監督は、こんな話をしてくれた。

昨春、同志社大時代の恩師である岡仁詩さん(その後に急逝)に言われた。

「楽しいラグビーで勝とうなんて、そんなんでは清宮に勝たれへんわ」


 清宮サンゴリアスとて年間を通して「勝ちさえすれば」の練習をしているわけではない。

まさにファイナルだから勝負に徹した。

宮本ワイルドナイツも理想を追って上滑りしたのではなく地道に力を磨いてきた。

3月16日の日本選手権決勝で両者のぶつかる可能性は高い。

現実と理想のバランスの行方は。

なにやら人生の教訓めいて結末が気になる。