その9 師匠の安否 | 武産合氣道 大和/宮城野合氣修練道場 稽古日誌

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「神奈川県大和市」及び「仙台市宮城野区」にて岩間スタイル合気道を稽古する「大和/宮城野合氣修練道場」道場長鈴木博之のブログ。IT関連、自動車整備、資格試験、震災関連など、様々な情報を提供しています。

長い一日を、眠れぬ夜を過ごし、夜が明けた。


避難所で一夜を明かした妻とも無事再開し、家族全員の安否が確認された。


どうしても次に確認せねばならないのが、塩釜に住む合気道のお師匠、塩釜に係留してある船、そして七ヶ浜に住む親戚である。


被災者から多賀城の状況は聞いているが、塩釜の状況は全く分からない。


停電のため、テレビもネットも使えないのである。

今思えば、カーラジオという手があったが・・・


軽トラに長靴、自転車、工具類を積み込み、出発する。


国道45号線を下り、多賀城方面へ。


しかし多賀城の手前で通行止め。

見れば多くの車やガレキが国道を塞いでいる。


工場から数分と掛からない距離だが、

そこでは凄まじい光景が展開している。


この状態では、海沿いを走る産業道路もダメだろう。


仙台育英学園の横を通り、岩切方面から迂回する。


母校である学院大工学部の横を通り、塩釜神社の横を通り、どうにか塩釜へ。


左手には塩釜神社の石段、右手には造り酒屋。


見慣れた光景のはずだが、ボロボロになった車やガレキが散乱。

道路はアスファルトが剥ぎ取られ、電柱は傾き、電線が垂れ下がって行く手を塞ぐ。

家一件が丸ごと道路を塞いでいる。


クレーンでも容易に動かせそうにない程太い柱が道路に横たわっている。

ガードレールが折れ線グラフのように道路を分断している。

大小様々な船が、本来あるべき場所から離れ、店に突っ込み、船底を晒している。


学生時代から何度も通った、見慣れた道がすっかり様変わりしている。


道場に到着。


敷地の中も、ガレキや泥が散乱し、自動車がフェンスや井戸に乗り上げている。


急いで軽トラから降りると、汗だくで片付けをしている先生が!


「おー鈴木、よく来たな」


ほっとする。


道場は1メートル以上の冠水。


ドアを閉めてはいたが、それでも道場内は30センチ近く浸水。


門下生の汗と酒を吸った畳が、泥水をかぶって無残な姿を晒していた。


「もう笑うしかねぇな」


先生は明るく言うが、その胸中はどうだろうか・・・。


塩釜は停電、断水。

ガスも止まっている。

当然ネットも使えない。

携帯はたまにつながる程度。

4台あった車のうち、2台が水没。


これが海沿いの街の、被害の実態なのである。

被災地に行かなければ、絶対にわからなかったであろう。


現地で情報が全く手に入らないのと対照的に、日本で大震災発生のニュースは、メディアやネットによって世界中の人の知るところとなった。


師匠の掲示板には、安否を心配する道友の方々からの書き込みが次々と行われていた。


しかし現地ではそれを知るすべも、読むすべもなかったのだ。


私は北海道の知人に電話をかけた。

なかなかつながらない上に、つながってもすぐに切れてしまう。

短時間で要点を伝えなければならない。


「アメリカの道友、マークさんにメールを打って欲しい。

 塩釜の師匠と家族は無事。道場は冠水。

 ミネソタ合氣修練道場のWebサイトを調べてメールを送って欲しい。

 英語で頼む。」


「え、英語ですか・・・?」


北海道の友人は慣れぬ英語でメールを打ってくれた。


後日思い出したのだが、マークさんの奥さんは日本人。


北海道の友人には、奥さんから日本語で丁寧な返信が帰ってきたとか・・・。


その一方大和の弟子にお願いし、掲示板へ安否情報の書き込みをお願いした。


こちらは院卒だから英語はお手のもの。英語とドイツ語で、複数の掲示板に書き込みをしてくれた。


二人の尽力により、師匠を含む東北の道友の安否情報を世界へ伝えることができた。


とにもかくにも、師匠の無事は確認できた。


次は塩釜に係留してある船、そして七ヶ浜の親戚の安否である。


・・・つづく。


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