2023年秋作品について語りたい | あくまでも私の持論なんですが

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  2023年秋のアニメ(原作付き)で期待していた作品の感想


2023年のアニメは本当に多くの作品が放映された。
しかも有名な原作のアニメ化が多く、春アニメでも「推しの子」が飛び抜けた出来の良さで話題になったが、秋作品も個人的に期待の大きな原作が多かった。

  ティアムーン帝国物語~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~」


まずはWEB版小説と漫画版を読んでいた「ティアムーン帝国物語~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~」(原作 餅月望)である。

小説家になろう発の作品で、革命により死刑になったはずの皇女が人生を巻き戻してその運命を回避するという最近のラノベでは定番といえる物語である。

同じ失敗を繰り返さぬ様に行動しようとはするものの、元々天然で自分ファーストな主人公の言動や行動がたまたま良い方向に転がって行き、更には周りの優秀な人達の深読みによる勘違いで遂には帝国の叡智と称される程になっていくという話だ。

内容自体はともすれば非常に軽く、ベタな物語ではあるのだが、登場人物自体は軽薄すぎず、かと言って重すぎない絶妙なバランスで描かれており実に好感の持てるキャラクターになっているところが素晴らしい。

なろう系小説ではキャラの魅力に重点が置かれ、前世等の苦難や不幸な人生は全てやり直し、又はチート能力による異世界での成功体験という読み手にストレスを与えない物語が多いが、その代表的な作品と言えよう。
漫画の方もその魅力をしっかりと押さえており実に読みやすく、物語の展開の速さも区切りの付けやすさもアニメ向けなので遠からずアニメ化されるのではないかと思っていたのだ。

個人的に期待していた作品だったが、実際に観た感想としては少しだけ物語の印象が原作とは違っているように感じた。

内容自体は漫画版にほぼ忠実で展開や画面の構成もさほど漫画とは変わっていない。
作画自体はやや動きにもの足りなさが感じられるがまずまずの出来であり、キャラ作画が崩壊するような事は無い。
ただ、漫画版では原作同様に軽薄さと泥臭さを行き過ぎ無いように絶妙なバランス感覚を保って描いていたのに対して、アニメ版ではその肝心なバランスを保ちきれず、軽薄な部分と泥臭い部分がやたらに鼻についた印象なのである。

特に主人公のティアムーンに関しては、前時間軸での不幸の記憶が落とす影と、その反省やそこから芽生えた清廉な精神があるからこそ本質に残っている軽薄な言動や行動がチャームポイントとして活きるのだ。
アニメではそこをしっかりと描き出す事が出来なかったために、ただ単に軽薄で運が強いという印象のみが残ってしまったように感じたのではないだろうか。

漫画版の構成そのままにアニメ化すること自体は普通の事であり、けして描き方が悪かったというわけではないのだが、漫画とアニメでは同じシーンを同じ様に描いても、その印象や強調のされ方は案外違って見えるものだ。

単純にそのままアニメ化するのではなく、アニメならではの構成や演出でもうひと工夫が必要だったのではないかと思うのである。

今回のアニメ化に際してはクオリティとして充分仕上がった作品だと思っている。
ただ、個人的にはそのもう一捻りさえあれば名作と呼ばれる作品となるポテンシャルを持っていただけにそこが残念でならないのだ。

  「豚のレバーは加熱しろ」

もうひとつどうなるか気になっていたのが「豚のレバーは加熱しろ」(原作 逆井卓馬)だ。
こちらもおなじみの異世界転生物で転生して何故か普通の豚となり、特殊な境遇の少女と共に旅をするという物語である。

私はたまたま放送の直前に漫画版を読んだのだが、その独特で緻密な内容に注目していた。

異世界転生物にありがちなゲーム世界に転生してステータスやスキル等が数字で見える様な世界観であったり、チート能力を得て無双するような話ではなく、それどころか人間ですら無い豚に転生した主人公という発想が面白い。
その世界自体は異世界物らしい中世風でありながら、イェスマというその存在理由も何故特別な扱いを受けているのかもよくわからない種族の少女を中心に、その当人ではなく主人公が語り部として物語を展開しており、登場人物が端役に至るまで世界の特異性を説明するためのキャラとしてきちんと組み込まれているのだ。

内容的にはややダークで艶っぽい部分もあるので好き嫌いはあると思うが、物語として非常に面白い作品だと思う。
美少女が登場するのはお約束としても、どちらかと言えばキャラは二の次で物語重視の作品であり、「ティアムーン」と好対照な作品だと言えよう。

ただ、物語自体はともかく、あまりアニメには向かないタイプの作品だと思っていたのでそこをどうするのかは気になっていた。

アニメを観て感じたのは丁寧に作られているのは理解できるのに、作画レベルはいまひとつに見える点だ。
確かにこの作品はアクションシーンはほぼ無く、会話やモノローグによる進行であるため、作画レベルに関しては重視する必要は無い。
だがこの作品、漫画版でも感じたことだが転生した主人公のビジュアルが極々普通のピンクの豚そのままなので、アニメのキャラとしては非常に弱いのだ。

漫画でもそうだが、それ以上にアニメの評価や面白さはキャラクターの魅力に大きく左右される。
基本モノトーンの漫画とは違い、ピンクの豚はやたらに目立つ上に、どうしてもモブキャラにしか見えないので手抜きをしたような軽い印象になってしまうのである。

ここだけは敢えて原作から離れることになっても、豚のキャラクターはもう少しアニメ的で映える様なビジュアルに変えるべきだったと思うのだ。

更に不幸だったのは、物語重視のこの作品で肝心な最終回の放送が大幅に遅れたことだ。
制作が遅れたのと編成の都合なので仕方ないと言えばそれまでだが、作品の良し悪しを語る上で最も重要な部分が観ることが出来ず、見逃したり興冷めして正当な評価がされなかった事も考えられるのでこれは非常に残念だったと思うのだ。