あくまでも私の持論なんですが

あくまでも私の持論なんですが

ここに挙げるテーマについての専門的な知識があるわけではありません。
あくまでも私の個人的な見解を好き勝手に語るブログです。
文中敬称は省略させていただきます




  アニメ作品、どこを評価する?


アニメ作品の評価というのは非常に難しい。

作画レベルや物語自体の面白さ、オリジナリティの高さ、音楽の質の高さ、更に言えばキャラクターの魅力といった様々な要素のどこを重視するかでその作品の評価が人によって大きく分かれてしまうのだ。


巷では高く評価されているが個人的には?と感じてしまった作品もあれば、世間的にはあまり話題にならなかったがもっと評価されても良かったのに、と思う作品も多い。


  素材として面白い原作「最弱テイマーはゴミ拾いの旅を始めました」


最近のアニメ作品で素材としては悪くないのに勿体なかったなぁと思ったのが「最弱テイマーはゴミ拾いの旅を始めました。」(原作ほのぼのる500)だ。


原作はWeb小説発信の作品でTOブックスより書籍版(イラスト:なま)漫画版(作画:蕗野冬)が出ているお馴染みの異世界転生ものである。


この作品の面白いのは異世界転生でありがちな特殊能力で無双したり転生前の現代の知識を利用して活躍するといった「転生した事のメリット」がほぼ皆無な点だ。


主人公の少女「アイビー」は転生したという事実以外の記憶が断片的で、知識としてはそれほど役に立っていない。

現代を生きたからこそ理解出来る他人の行動原理を読み解く力であったり、食事の味付けをアレンジするといった描写もあるにはあるが、どちらかといえば食材や野生の動物、魔物を現代風に例えたりといった世界観をわかりやすくするための設定程度でしかないのだ。


アイビーは5歳になるとその世界の人ならば誰もが授かる職業スキルのうち、テイマー(魔物使い)の能力を授かりながらも「星なし」という言わば魔力が殆ど無い状態のためほぼ全ての魔物をテイム出来ない「無理ゲー」状態の少女だ。

「星なし」は忌み子とされている事から家族にも人として扱われず、唯一救いの手を差し伸べてくれた村の占い師に生き残る術を教わりながらひとりで生活することになる。


村を逃げ出し苦難の旅を続けたアイビーだったが、旅の途中で遭遇した、レアではあるが風に吹かれても消えてしまうような最弱の「くずれスライム」をたまたまテイム出来たことから運命が大きく変わっていくのである。


ゴミ捨て場で不用品を漁ったり罠を仕掛けて野ネズミを狩ったりと、細々ながら自力で生き延びる姿には異世界無双の姿はない。

くずれスライム「ソラ」の存在が徐々に無双状態へと状況を改善していく事にはなるのだが、基本的にはアイビーの機転や取り巻く大人達の好意に恵まれて問題を解決していくのだ。


そこは元々なろう系の作品ということもあり、さほど悲壮感もなく、厳しさが足りないと思う部分はある。だが(当然悪役を除けばだが)基本的には皆好感を持てるキャラクターばかりであり、ある意味安心して読める作品でもあるのだ。


 

 



 

 



  アニメ版は?驚きの第一話


さて、アニメ版の「最弱テイマーはゴミ拾いの旅を始めました。」だが、第一話を観た時にはなかなか驚いた。


冒頭シーンから原作と全くと言っても良いほど展開が違う。

アイビーは既にソラと出会っていて、アイビーが延々とソラに対して話しかけるシーンで始まる。

そこでソラと出会うまでの経緯を説明しているのだが、そこからはただ延々とアイビーのモノローグシーンが続くのだ。


ソラはその話をただじっと聴いているだけで、そこには回想シーンも何も無いシーンが続く。カメラ位置が様々に変わるものの、背景だけが揺れているだけでひたすらアイビーとソラのアップによる映像だけでほぼ一話丸々使ってしまったのである。


キャラを崩壊させないように丁寧に描いてあり、画面自体は何とか綺麗と言える状態ではあるものの、何らかのトラブルでもあったのか明らかに第一話から制作が間に合わずに苦肉の策で誤魔化したとしか思えない様な内容だったのである。


  原作への理解とアレンジの上手さ


第一印象としては最悪なものではあったが、私はとりあえずもう少し様子をみることにした。

大半をモノローグシーンにしたというのは褒められたことではないが、それでも原作とは大きく構成を変えるのはしっかりと内容を理解していなければできることでは無い。今後どの様に展開させていくのかが気になったのである。


思った通り2話目が実質の第1話だったと言えるが、物語の展開は実に上手くアニメ向けにアレンジされている。


書籍版は読んでいないので何とも言えないが、漫画版はWEB版とほぼ同じ展開なので基本的な話の流れは同じ筈だ。

原作ではアイビーが5歳で「星なし」として親からも捨てられ、そこから村を逃げ出してソラと出会うまでには数年かかっている。

それまでは不遇で苦難の旅が続く展開となっているため序盤はやや雰囲気が重いのだ。

それはそれで弱々しくも逞しく生き抜くアイビーの姿が読者を引き込む展開ではある。

だが本格的に話が転がり出すのがソラと出会ってからなのでそこまでアニメとしてどう視聴者を繋ぎ止めるかは気になっていた。


そのあたりを話の前後を組み替えながら初見でも飽きさせず、より解りやすく構成できており非常に好感が持てる。

また漫画ではあまり触れられなかったアイビーを捨てた家族についてもアニメではより深掘りされており、ただ単に原作の焼き直しだけに留まらない監督の情熱や才能を強く感じることができた。


  作品の足を引っ張る作画レベル


それだけに余計残念でならないのだ。

終盤こそ良くなってきたが、序盤から中盤までの作画レベルがあまりにも低い。

丁寧には描いてはいるのだが、どうしても話の内容や監督の求める映像に作画が追いついていないのがわかるのだ。


まあ確かに手描きで作画するにはややハードルが高い作品であることは確かだ。

主人公のアイビーからして着ている服の柄が複雑で多くのバッグをぶら下げており、しかも装備は比較的コロコロと変わる。

それだけではなくアイビーと関わる登場人物達も装備のデザインがキャラによってまちまちでしかもそれぞれ非常に複雑なのだ。

色や形といった明確な特徴も少ないので、作画を簡素化するなどといった方向に逃げなかっただけでも評価すべきだとは言いたい。


それはオープニングとエンディングアニメーションにも顕著に現れている。

オープニングに関してはCGを併用しながらカメラアングルがこれまでにありそうでなかった動きを見せ、非常に美しい映像美を見せる事には成功している。

ただ、CG部分の美しい背景とは裏腹に、本編よりは動いているとはいえ手描き部分の拙さがどうしても目立ってしまうのだ。


エンディングに至っては非常に作画の雑な部分ばかりが印象に残ってしまうのだが、よくよく観ると豪快で繊細な動きやアングルの変化にイマジネーションの素晴らしさを感じる筈だ。


最近の作品ではCGに頼り切りであったり、さほど手のかからない上半身アップと動きの少ないカットを中心とした作画を多用し、見た目の美しさと構成の上手さで魅せる現実的なものが多い。

そんな中、手描きでは難しい回り込んだり動きながら拡大する様なカットを使う実に挑戦的なカットだったのではないだろうか。


  理想を求めるか、現実を直視するか



まあ見ようによっては理想が高すぎて端から身の丈に合わない作画を要求している無謀さはあると言えなくも無いが、アニメーション本来の映像美を追い求める姿勢はけして無くしてはいけないと思うのだ。


私は原作付きアニメを観る場合、原作の面白さや雰囲気を壊す事なく、その枠の中でいかにアニメとしての映像表現、そしてオリジナリティを出せるかという点を特に重視する。


それは単純に原作に忠実にアニメ化するというだけでも、逆に世界観やキャラだけ拝借して好き勝手に制作するだけでも駄目だと思うのだ。


まあアニメとして十分に楽しめるのであればそれはそれで評価はするが、少なくとも原作に対するリスペクトは絶対に必要であり、そういう点でもこの作品はもっと評価されるべき作品になるはずだったと思うのである。