タイ
バンコクの街中には物乞いの人がいる。
駅前には特に…。
初めて住んだ街にも居た。
比較的 高級住宅街と呼ばれていた地区だけれど…
だから?
そうでもなさそうだ。
今はその時よりもう少し庶民的な街に暮らしている。
まあ、大きなお屋敷もあるけれど…
その、前に住んでいた場所で、
気になるひとりの物乞いの男性がいた。
手足が不自由だった。
どうやってここまで来て
どうやって 寝る場所へ帰るのだろう?
でも、常に良い笑顔を向けていた。
誰に対しても。
卑屈な印象は受けず…
その笑顔に思わず挨拶するようになってしまった。
挨拶を交わす仲になってしまったものだから…
さあ困った…、
お金を入れたいけれど、
入れる事の方が失礼になるのか?
入れないで通り過ぎるのも悪いし…
なので、3回に一回にしよう、と意味不明なマイルールを作った。
挨拶だけをする日。
お金を入れる日。
お金を入れる日はお札にした。
タイの人は、大抵の場合はコインを入れている。
そんな時、在タイの長い日本人からこう聞かされた。
あの人達には元締めがいて、
恵んでもらったお金は全て搾取される。
だからいくらお金を入れたところで、あそこからは抜け出せない。
さらには、お金を入れる人がいる限り、ああやって街に座らされる。
…それから
私はお金を入れなくなった。
出来れば
連れてこられ、見世物としてお金を恵まれ、さらにそれを搾取される
そのサイクルから抜けて欲しかった。
ある時話しかけてみた。
でも、英語は通じなかった。
また、在タイの長い日本人からは、タイ人ではない可能性が高い、
近隣のアジア諸国から連れてこられるのだ、とも聞かされた。
そんなこんなしている間に
私達は引っ越した。
引っ越した先の駅前にも、数人の物乞いはいた。
私達はお金を入れなくなっていた。
新しい街に暮らして2年半が経ったある日、私は懐かしい笑顔と再会したのだ。
そう、あの人懐っこい笑顔の、手足が不自由な男性の物乞いの人だ。
私も驚いたが向こうも驚いていた。
そう、覚えていたのだ。
そりゃそうだよね。
私はタイ人に見えるかもしれないけど、日本人の男性といつも一緒で、
挨拶するし
着物きるし
たまにお金は札で入れるし
覚えられるよね(≧∇≦)
で
通りすがりで小銭を入れるタイ人たちは慣れているのか、小銭を出すのも、入れるのも、モタモタしない。
でも私は
たちどまって、いかにもお金出すぞ、みたいになってしまうのが、どうも嫌で…
次回は入れよう!と小銭を手のひらに用意して歩くと…
その人はいなかったりする。
毎日だいたい同じ人が駅前にはいるが…
私はお金を入れない。
毎日見かけていると、
動けないはずだった人が歩いていたり、
片足がなかったはずなのに、
ある日とつぜんにょき、とあるし???
ズボンの中に隠していたのも目撃したりして…
騙されたような気持ちもあり、
それがやり方なのかな、などと考えるのも億劫になり…
まあ、搾取されるなら
気持ちが無駄になる、と思っていた。
そんなある日
その見覚えのある手足の不自由な笑顔の爽やかな男の物乞いの人は、
小さな子供とセットにされていた。
まさか、
自分の子供ではないよね?!
まあ、似ていないし、大きすぎる。
それにしても
相変わらずの笑顔だ。
私は思わずお札を入れにわざわざ戻ってしまった。
そして、お札が搾取されずに彼らが、うまくしまえますように、と祈った。
それから不定期で、その親子を演じさせられている物乞いの男性とは遭遇した。
すぐにお金が出せる時はいれ、そうでない日は「ごめんなさい」と声をかけて、笑顔を向けられて、通りすぎた。
今日
私は
どんより重たい気分を抱えて
家路についていた。
(まあ、いろいろあって…)
そしたら、目の前に
その親子のふりをさせられている物乞いの男性がいた。
相変わらずの良い笑顔を私に向けて…
私は
もぞもぞ
決してスマートにではなく、
バックからお財布、お財布からお金を出し、
お札を
その男性の足元の、既に10バーツと5バーツが投げ入れられてある、お弁当箱の空箱に、そっと入れた。
笑顔をタテに何度もふって、見送られた。
重たい気持ちが
彼に対するおセンチな同情の思いで満たされた。
ちゃんとお札は搾取されずに、ポケットにしまえますように…
本人は手がないのだから、あの子供役の子がお札を彼のポケットにいれますように。
そんな事を祈りながら。
そして私は
駅と家の間にあるセブンイレブンに入った。
どうでも良い買い物をしてレジに行くと、
さっきの手足の不自由な男性がレジに!!
あ、そうだった。
歩けないと思い込んでいたのは私達だけで、
指もない曲がった足でひざ下の長さしかないのだけれど…
この人が歩いているのを引っ越す直前に見ていたのだった!
そうだ、そうだった。
何を買っていたのかはわからない。
だけど、子供も店内から何かを持ってきて、
父親役の彼がレジにいた。
可笑しくなった。
おセンチになった自分はおめでたいな、と。
騙されたという嫌な気持ちはなく、
たくましいな
と感心した。
たくましい
だからあの笑顔
私なんかが心配しなくとも、
彼らはうまくやっている。
なんだか安心した。
そして
自分を笑った。
甘いな~
甘ちゃんだなーと。
たくましい人達が生きる
この不思議な都会
バンコクが好きだな、と改めて思った。