
若干“大陸系のナマリ”を含んでいる言葉で、「いらっしゃいませェ。コチラの席どうぞ~」という若い女性の店員さんの誘導に従って、入口から見て、左側から2番目の席に着いた。一番左側の席には既に一人の意識普通系と思われる淑女が着席していて、両肘をついて静かにスマホを眺めていた。自分達と例の淑女が座っている席とは、目測にしてものさし1本分(30~50センチメートル)程の空間で隔てられていた。決して遠く離れているとは言い難く、耳をすませば、彼女の呼吸音さえもキャッチできてしまう距離感と思えた。
彼女の存在に何となく意識を奪われつつ、しかし味覚系統だけは集中して注文品の絞り込みを急いだ。とりあえず、初回利用ということもあり、定石通りメニュー表の左上に掲載されており、かつ、「特製一押!」の表示も付加されているえび豚骨塩ラーメンを頼むことにした。家族全員注文手続きが終了し、ラーメン達が到着するまでの間、各自自由行動とした。
諸般の事情により、ワイハイ環境未整備の場所ではスマホの使用を控えていたので特にすることがなかったのだが、その一方で、実は退屈感もなかった。ジロジロ見ることは自粛しつつも、僅かばかりの空間を隔てて静かにスマホを楽しんでいる彼女の動作を、目の白い部分で追い続けた。スマホを持つ左手にはキラリと光るリング。ただし、薬指か、他の指かは無念にも特定できなかった。しかし、時折表情に覗かせる不敵な笑みは、いったい何を意味するのか…。黒を基調とした薄地のブラウスに身を纏い、片足を組んでいたプリーツの施されている黒のロングスカートは、無風にもかかわらずヒラヒラとたなびいていた。
喉の渇きと胸の高鳴りに耐えきれず、テーブルに置かれていたレモン水を、ひとくちゴクリと飲み込んだ。数分後、若かりし頃を蘇らせてくれそうなハルノキのエネルギーに満ち溢れたラーメンが手元に運ばれた。

吟味することも忘れて、ひたすら夢中で喉の奥深くへラーメンを送り続けた。

気がつけば、隣の席には、もう彼女の姿は跡形もなく消えていた。ただし、不敵な笑みの面影を置き去りにして…。
「パパ。そろそろ行こうか。」と、うちのカミさんから満面の笑みで声をかけられた。言うまでもなく、子供も満足そうな笑顔だった。やはり、自分は、ほら、こんなにも幸せ…なのだ。