洋の東西、否南北共に金曜から3日間の週末ラグビーを、まとめておさらいしておこう。
冒頭に書き残しておくべきは、金曜真っ先の1試合。なんといってもクライストチャーチの最新スタジアムOne New Zealand Stadium「テ・カハ(Te Kaha)」でのこけら落としだろう。この週、試合に限っては、いつも脇役の「スタジアム」が主役になった。
「スーパーウィーク」と銘打って開催された3日間には、スーパーラグビー・パシフィック参加の10チームが、クライストチャーチに一同に集まり、この国の最新スタジアムの誕生を祝った。しかも、このスーパーウィークは、ただの1大型ヴェニューのオープニングを祝福したのではなく、この地を襲った直下型地震からの復興を高らかに謳う民間、ラグビーによる〝国家行事〟。毎試合スタンドを埋めたサポーターも然りだが、タスマン海峡を越えて集った、ANZACsのプレーヤーたちの熱量溢れるプレーが、その価値を物語っていた。
とりわけ金曜日の夜の、まさに「歴史的な1戦」は、勿論ホストのクルセイダーズがライバル・オーストラリアのラグビーを長く牽引してきたワラターズを迎えての80分。オープニングアクトに相応しい好バトルを、ホストの勝利で締めた。
この歴史的な一戦に、スタジアムの歴史に比べれば小さな変革かも知れないが、もう一つの歴史を記したのがホストの#7 でスターターとして登場したレスター・ファインガアヌク。1週間前のフォース戦はCTBで先発した選手が、バックローとしての第2のデビュー戦でも資質を輝かせた。
ラグビーでは、その戦術の変遷の中で、BKの選手がFWへ、FWがBKへのコンバートやその可能性は何度も、何人も議論されてきた。勿論議論だけではなく、実際にコードチェンジした選手も存在してきたが、世界トップレベルのリーグで1週間前にCTBでプレーした選手が、翌週バックローで先発するのは尋常ではない。野球に例えれば投手だった選手が外野手になるわけだが、実際のレスターのプレーとこれからの可能性をみれば、それは大谷翔平の実現した〝二刀流〟、つまりコードチェンジではなくダブルコードと呼ぶのが適当かも知れない。
正確に期すなら「転向」。
この#7は、ラグビーという競技が持つ、ゲームが始まればポジションに縛られずその立ち位置にいる選手が〝適切なプレー〟を求められるという特性を生かして、時にはバックローとして密集周辺でのフィジカルゲームに体を投げ出し、状況に応じてアタックラインに入ってボールを動かした。中島みゆきの歌声のように時代が巡る中で、「いま」のラグビーでは、ルーズFWとTBの役割に境界線が薄れているからこそ、このダブルコードが価値と可能性を秘めたものになっている。
では、こんな〝ラグビー版大谷翔平〟は、王国ニュージーランドだから実現したのかというと、そうではないだろう。
クラウスとチャーチの試合当日のSNSでも少々呟いたが、日本でも、神戸Sの試合を取材した時には、ほぼ毎回、FLティアナン・コストリーには「どう?そろそろCTBやってみたくなってきた?」と声を掛けている。
これはティアナンがバックローよりミッドフィールダーが向いているという意味ではなく、この日本で成長したバックロワーには、BKラインに入っても十分相手に脅威を与える〝足〟を持っているからだ。
こんなハナシを土曜の秩父宮で話していると、ホストBL東京の菊池博広報担当が「ウチの大野均もWTBでプレーしましたから!」と笑ったが、笑い話の域を超えて、若かりし頃の本人とも話をしたのは同じチームのリーチマイケルだった。東海大から東芝入りした当時は、天性のスピードが光る攻撃タイプのバックローとして代表入りまで登り詰めた。その資質を何度も引き合いに出したが、本人も東海大時代から東芝入り当初は「CTBをやってみたい」と興味津々だったのを思い出す。
今や、体を張ったプレーで、防御を軸にBL東京、桜のジャージーでも「防御」での貢献が目を見張る存在だが、20代の時に、一度BKラインに投じたら、また異なる味わいを魅せたかも知れない。一歩引いて考えれば、もしBK転向を実施していたら、いまの成功まで行っていたかは「神のみぞ知る」ではあるが、試す価値はあったと今でも感じている。参考までにだが、この日の横浜戦で怪我による長期離脱から復帰した眞野泰地は、東海大仰星高時代のFLから東海大時代にSO/CTBに転向して、現在の成功を掴んでいる。
すこし脇道に逸れたが、このレスターのようなコードチェンジ選手が増え、試合の中でもコードチェンジが起きれば、それも従来なかったこの競技の楽しみの一つになる可能性も秘める。前半#7でプレーした選手が、後半はCTBに転じる――こんな変更があれば、現状以上にさらに観る側をピッチ上でのパフォーマンスで楽しませる可能性を秘めている。まぁ、現実的には選手には体重の増減、コーチとしては更に混迷さを増すベンチワークも負担増になるかも知れないが…。
クライストチャーチの〝こけらオープニングマッチ〟を、個人にスポットを当ててきたが、試合自体、開幕戦に相応しい熱量を持ったゲームだった。〝主役〟が勝者になったことも、このスタジアム誕生までの経緯を踏まえれば、まさに祝福されたシナリオになったが、それ以上に所謂「つまらないスコア・失点」が少ない試合として称賛されるべき80分だった。
このスコアシチュエーションで特筆するべきは敗者のほうだった。目を見張ったのは、35分の#11シド・ハーヴェイによるトライだ。このシーン、ミッドフィールドでの連続攻撃から#10 ジャック・デブラシー二のチップキックと表現していいキックパスを#14アンドリュー・ケラウェイが好捕。それを内サポートの〝何かを起こす男〟#15 マックス・ジョーゲンセンが繋いで、#13 ジョーイ・ウォルトンがゴールラインに迫る。そこから再びパスを受けたディプレシーニが蹴り上げたボックスキックを、左サイドで#11シドがキャッチと同時にグラウンディングしたもの。これだけ楕円球に触れた全員が、しっかりと仕事をして繋ぎ切った一撃も少ないなと唸らされたトライだった。ちなみに、このファイントライとプレースキッカーも担うハーヴェイは、若きジョーゲンセンよりも1歳下の20歳。ウォルトンも25歳。すでにオールブラックスでも実績を残すファインガアヌクもようやく26歳となったばかりだ。
この見事なトライを許したホストも負けていなかった。55分の#14ダラス・マクロードのトライは、ミッドフィールドでのターンオーバーから#10 タハ・ケマラが素早い判断で上げたクロスキックを#6ドミニク・ガードナーが受け、DF2人を引き付けるキラーパスで仕留めたもの。パスを受けてからの、ダラスの加速からのインステップも素晴らしかった。直前のファインガアヌクのラックサイドを突いたトライとのダブルパンチでゲームの流れを引き寄せた。
共に、歴史的なオープニングマッチに相応しい、プライドと技と英知をぶつけ合った80分。そして、この週は〝主役〟でもあったスタジアムも、太平洋を跨いだ映像で見る限りは好ゲームに負けない存在感を印象づけた。
座席数はラグビーゲームで2万5000。6万人を収容するオークランドの〝エデンの園〟には及ばないが、この国のGDPでは5万人クラスの巨大スタジアムよりも「身の丈」の席数だろう。こけら落としがナイトゲームとなったことで、ハーフタイムの〝クラブ活動〟等での利用価値も感じさせたが、通常の国内(国際)リーグや、オークランドに次ぐ2番手インターナショナルゲームのヴェニューとしてはまぁあぁのサイズだろう。バックスタンドの、1段高く設計された〝第2層〟がかなりの高さまで競り上がる構造は、同じ屋根付きスタジアムの先輩格フォーサイスバーの、ホスト側ゴール裏の広大な座席(通称ZOO)とは大きく異なる構造だが、より〝高額席〟を増やすには若干の手助けになるだろう。
そしてこけら落とし2日目のデーゲームでの、採光の高さも大きな持ち味だ。フォーサイスはじめカーディフの〝鋼鉄の城〟もだが、やはり「日照」には恵まれないのが、屋根付き、開閉式スタジアムの欠点でもあるが、この最新スタジアムは屋根の広大な透明部分と、フォーサイスから継承される、スタンドのないゴール裏の窓部分から取り入れる陽光が生かされている。残念ながら中継画像での確認のため、実際に現地で観戦すると映像ほどの明るさはないのかも知れないが、従来の器に比べればかなり太陽の恩恵を受けられそうだ。御託を並べる前に、早く現地観戦したい世界最新鋭スタジアムだ。
土日に北青山でゲームをしたBL東京の司令塔は、数週間後にはその〝住人〟になる最新鋭スタジアムについて、「スライストチャーチ出身としてすごく誇らしい。ああいうスタジアムが絶対に必要だと思っていたし、震災からの15年間を振り返っても、仮設スタジアムでやるとかくあったからね。ここから新たなチャプターが始まっていくのが楽しみだし、昨日も中継を見ていたが嬉しかった。勿論プレーするのは楽しみだよ」と、試合からは一変して少年のような笑顔で語った。
その一方で、ピッチ下の温度調節システムなどハイテクも導入した器の維持管理費は、従来のスタジアムよりかなりの額になるという報道もある。リッチーが語ったように、既に敬愛するFoo Fightersなど欧米のスタークラスのコンサート開催も聞く。初年度の年間イベント回数は400を超えるとも伝えられているが、複数年の長いスパンで考えた時に、オークランドの6万席級スタジアムがある中で、果たしてどこまでクライストチャーチの〝やや小ぶり〟の器に、興行を呼び込めるか。ここは、東京・港区で進められている、同じような全天候型多目的〝聖地〟の先例として興味深い。
但し、クライストチャーチと港区の新鋭スタジアムがそれぞれのコミュニティーで同じような存在かといえば、そうではない側面がかなりしっかりとあるだろう。向こうは、1地域のスポーツ・文化の核となる器だが、こちらはまさにラグビーコミュニティーの「聖地」であり「殿堂」なのだ。その威厳や存在感、全てのラグビーキッズが憧れる建造物になることは、一コミュニティーのランドマークとは桁違いのストーリーが伴わなければならないはずだ。
おっと、最新器とダブルコードの選手の話で、かなり書いてしまった。国内の「おさらい」は後編でとして、ここでハーフタイム。


























