
キャプテンポジションで国歌斉唱に臨んだ奥井章仁(右)。ガ
ッチリ肩を組んだ廣瀬雄也と未来のジャパンを支えていけるか
アサヒスーパードライCHALLENGE MATCH 2025
JAPAN XV ●7-71〇 オーストラリアA@大阪・ヨドコウ桜スタジアム
コラムは「テスト」からという判断で、取り敢えず〝前哨戦〟はメモ書きで。
なんとも凄まじい負けっぷりの〝準テスト〟。なにわは阪神に沸き、世界はオオタニに沸く中で、しれっと見過ごしてもらえたら…という大敗だった。
HCを担ったニール・ハットリーも、いつもの温厚、泰然とした物腰から考えると、幾何か「ピり」っとした表情で、会見に臨んだ。
「タフな1日でした。相手は13人のワラビーズがいて、最近スーパーラグビーのシーズンを終えたばかり。こちらは準備に3日間しか与えられなかったし、大学生といった若い選手が多いチームです。なので、この結果には誇りを持っていいと思う。そして、この結果をしっかり受け止めて、ギャップをどう埋めていくかを意識しないといけない」
もちろん大敗を満面の笑顔で語られても困ってしまうので、表情もコメントも適切なものだったのだが、何%かは「落胆」という感情に支配された物腰だったと感じている。言い訳のようにも受け止められる言葉もあるが、むしろ若いメンバーたちのショックを、どう言葉で和らげられるかという〝配慮〟を感じさせた。
あまり選手とコーチを比較するものではないが、その状況の中で〝キャプテンデビュー〟となったFL奥井章仁(トヨタヴェルブリッツ)は、苦しい言葉を使いながらも、頷けるコメントをコーチ以上にしていたのに感心させられた。
「僕らのディフェンスのフォーカスポイントとして、最初の5歩を上がるというのがあるんですが、そこのところで5歩上がることが出来なくて、パッシブになってしまった。だから受けてしまって、相手のブレークダウンがクイックテンポでボールが出てしまった。どんどんクイックになると、僕らのセットが遅れてきて、それを繰り返してしまった。その5歩が出来なかったのが原因かなと思います」

つぶらな瞳でこう語ったが、出足の5歩を素早く、激しくいくことで、相手が加速、トップスピードにギアを上げる前に重圧を掛ける。あわよくばそこで仕留める――。そんな勝利の方程式を準備して臨んだゲームだったが、キャプテンが指摘した通り〝金星への第一歩となるはずだった最初の五歩〟で大方の勝負は付いた。
ワン・オン・ワンのフィジカルで重圧を受け、強みのはずの組織も、起点のスクラム、ブレークダウンで後手を踏み、渡り合えるレベルに達していなかった。攻守の起点になるこの2か所、つまり接点とセットピースでヘコまされると、ほとんどのチームは自分たちのラグビーを貫き、そして勝つことは諦めるしかない。そして「5歩」でプレッシャーを掛けられなかったことで、ゴールドジャージーは攻め込む余地=スペースを手にして、思い切り仕掛けてきた。対するホストは、1つ1つのフェーズアタックが接点での圧力でブツ切りにされ、ラインアタックが加速することはなかった。
敗者でもいくつかの見せ場はあった。WTN植田和磨(コベルコ神戸スティーラーズ)は、開始直後の敵陣22mライン内へのパントをタップ。ノックオン(相手アドバンテージで快勝)ではあったが、トライチャンスの機運は作った。チームとしていただけなかったのは、そのタップボールを相手に生かされ、9-10-15と繋がれ一気に自陣へ攻め込まれた〝脆さ〟だが、そのカウンターも植田が自慢の快足でキャリアーに追いついてタックルするなど、一連の攻守に渡る好パフォーマンスを見せた。スタッツを見ても、ボールキャリー10回はFB矢崎由高(早稲田大3年)の12回に次ぐチーム2位(ゲーム3位)と、なかなか見せ場が少ないゲーム展開の中でかろうじて〝上〟へのポジティブポイントを残した。
〝但し書き〟をしておくと、開始17分の相手に90mを5人で繋がれたトライは、植田のショートパントからのカウンターで奪われた。勿論、植田の後方にいた残り14人が猛省するトライではあったが…。
メンバー中、すこし大袈裟に表現すれば一枚上の能力を印象付けたのは、キャリー1位と紹介した矢崎。前半22分、ミッドフィールドの左展開で、バックドアを使うことで出来た相手防御ラインのギャップを見事に切り裂くと、カバー防御に入った代表キャッパーSOベン・ドナルドソンを更に加速して外で抜き去りインゴールへ駆け込んだ。
昨季6月、新生エディージャパンの初陣となったイングランド戦で衝撃スタメンデビューを果たし、4試合連続で「15」を背負うなどテスト5試合に先発。新たなスター誕生の期待感を印象付けたが、所属する早稲田大との話し合いや負傷もあり、秋はNZ戦のみと国内限定の招集となった。久しぶりの代表系復帰のゲームで結果を残したのは評価出来るが、チームが自身の1トライだけの大敗に終わったこともあり、本人は終始淡々とした表情だった。
それでも、エディーの若手重用方針もあり、今回も矢崎を始め多くの成人式前後の世代がチャンスを得てきた中で、やはりこの15番は群を抜く非凡さを持つことを、1年ぶりの復帰戦で強く印象付けた。ランメーターのスタッツ71mは、WTBハラトア・ヴァイレア(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)の94mに次ぐ2位だったが、ラインブレーク2回は双方合わせての1位タイ。おそらくオーストラリアも、昨季のプレーから要マークと頭に入れていただろうが、それでも「らしさ」を発散出来ているのが凡人、否凡プレーヤーとの格差になる。

アタック面で可能性を輝かせる一方で、自身のトライ目前の20分には、相手CTBにウイークショルダーを突かれてトライの要因となったタックルミスなどテストマッチレベルでは〝粗さ〟もある。ジャパン基準(ティア1テストマッチ基準か)で見れば〝定番選手〟ではなく、まだまだ〝可能性組〟の範疇にある。昨季通り秋は期間限定か、世界トップクラスへの挑戦が待つテストシリーズ居残りかは後日発表されるが、現状の大学と代表を行き来する起用法の中で、どう自分を磨き上げていけるかを期待するしかない。
スタッツでの議論では、もう1人特筆するべき選手がいた。人生初の主将を務めた奥井は、タックル回数15でチーム1位、両チーム合わせても首位タイをマークしている。失敗数6はそこそこのマイナスポイントではあるが、試合を通して接点勝負で優位に立っていた相手に果敢に挑んでいることは数字が物語る。会見に出てきた時には、初主将での大敗に落胆の色も感じさせたが、プレーヤーとしてのパフォーマンスでは期待されるエリアでチャレンジを続けていることが読み取れる。先に挙げたヴァイレアも、フィジカルの強さはすでにキャップホルダーの実績通り。ワラビーズ〝1.5軍〟程度のチームなら、自身のフィジカリティーで十分に戦える印象を残した。
とはいえ、やはりこれだけの大敗だ。選手も理解しているはずだが〝足りないもの〟が数多あるのは否定のしようがない。敵陣22mライン内に攻め込んだ回数は「A」の14に対して「XV」は10。スコアに比べるとよく攻めこんでいるが、実際のスコアを見れば遂行力・決定力の低さが如実に浮かび上がる。22内に攻め込んでのスコア率も「A」5.0点(1回の22m内侵攻で5点をマーク)に対して0.7点という大差になっている。
日本がいかに早いスピードで連続攻撃が出来ているかに重要なラックスピ―ドを見ると、0-3秒間での球出しで相手の49%に対して68%と上回るが、6秒までを見ると86%対89%対と似たような数字になる。実際のゲームでの印象でも、1つの接点で理想としたスピードではラックからボールを展開出来ない「XV」に対して「A」のテンポのいいパスアウトが印象的だった。スクラム成功率(80%対88%)、ラインアウト成功率(67%対100%)という差も、ゲーム支配に直結する数値だった。タックル成功率でも相手91%に対して77%と大差をつけられている。
数値に加えて、両チームの選手、コーチが揃って口にしたのは「トランジション」。攻守の切り替えという意味だが、この単語が、この勝者と敗者の格差を物語っている。正代表がティア1クラスと対戦する時も目にする格差だが、「A」がカウンター攻撃や、ファンブルボールなどから仕掛けた時には、ボールを手にした選手の反応の速さと同時に、複数のフォローする選手も即時に動き、アタックに厚みを創り出している。この速さは俊敏さだけではなく、様々な状況の中で選手が個々にどうプレーするべきかという選択肢を常に持ち、想定することで生み出されている。その一方で、「XV」は1人が動き出すのをサポート選手が見て、判断して動き出すぶん遅れが生じ、サポートの厚みも不十分だ。ここは今週末からのテストシリーズでも差を見せつけられる危険性を孕んでいるはずだ。
この若手投資試合を、あたかも〝準テストマッチ〟のように盛って開催することの議論は、改めての機会に考えていきたいところだが、まずはピッチで起きたこの大敗を、この先にどう生かしていけるかが直近の課題だ。「A」だけの問題と考えれば、この試合の意義や価値を薄めてしまうことになる。この日は、どう持ち上げても「準備不足」を露呈したプレーを、この大敗の間もテストシリーズメンバーたちは宮崎で準備を進めている〝本チャン〟がどこまで熟成・修正を加えていけるのか。「回答」の時間が近づいている。