一日遅れのおさらいを―
ファイナリストが出揃った。
昨日の神戸に続いて、国立進出を決めたのはクボタスピアーズ船橋・東京ベイ。
26-24というスコアが、このゲームをよく表している一方で「2点」という差では計り知れない〝差〟も感じた80分だった。
ラストツープレーで「追われる側」が予期せぬ相手にセンタースクラムを与えるというミスを犯し、ラストワンプレーで、「追う側」が逆転への反撃のはずがあっさるとゲームを終わらせてしまった驚きの展開。まさに「こんなのあるの?」というプレーの中で、この試合がラストホイッスルの滑川剛人レフェリーの笛が鳴り響いた。
様々な〝トピックス〟があった80分だったが、記者席から会見場へと戻る時の頭には、こんな言葉が浮かんだ。
「選手層」
先に触れたラストワンプレー。勢い付いた野武士が中央スクラムから左にボールを回したが、心中で「ここはポイントを作って次をどう攻めるか」と頭の中で思った瞬間、ブルーのジャージーが、あまりにもあっけなくタッチの外へ押し出された。
防御の殊勲者となった船橋#15ショーンが、サイズを生かして反撃を寸断したとも表現出来るが、あそこは攻める側が絶対にタッチラインを割るリスクを避けながらボールを動かすのが鉄則。タッチライン際どころか、15mラインより外側を走るなら、「割らない」整合背を持って攻めなければいけない。〝犯人捜し〟をする気は毛頭ないが、あの左展開をタッチライン際で途中出場のマークスに任せてしまったことが全てだった。付け加えると、起点となったSHが小山から萩原、サポートに動けるはずだったSOが山沢から齎藤と、若手に代わっていたことも祟った。
▲帝京大1年から選手、レフとして取材対象であり、楕
円球の仲間でもあった滑川テフ。退任を決めた数日後に
話を聞いたが、今後はレフェリーグループでの活動はピ
リオドを打って、某自動車メーカーでの仕事に戻る。詳
細はこれからだが、同社の持つ広範なスポーツ分野での
活躍も視野に入れて〝サードキャリア〟をスタートする。
頑張れ滑ちゃん!
ライリーからラストパスが渡った段階で、マークスをサポートする選手は、ほぼ0という位置取り。防御に入ったタックルスキルのある相手WTB根塚とショーンなら、押し出すのは容易い作業だった。
ラストワンプレーでの逆転劇という結構現実味のある流れの中で、気持ちがトライへと急いてしまったことと、選手個々の経験値(判断力)。この2つの要素が生み出した、すこし不思議な幕切れだったが、先にも書いた選手層は大きな差があった。
ベンチメンバーを並べておこう
【船橋】 【埼玉】
江良 颯(11) ⑯ 佐藤 健次(19)
加藤 一希(14) ⑰ 木原 優作(9)
O・ヘル(17) ⑱ L・フィナウ(19)
M・オリヴィエ(20) ⑲ O・バナード(8)
P・ラブスカフニ(3) ⑳ J・ウィルソン(15)
B・ホール(8) ㉑ 萩原 周(15)
押川 敦治(17) ㉒ M・マークス(16)
H・ヴァイレア(18) ㉓ 齊藤 誉哉(16)
※カッコ内は今季出場回数
出場回数でいえばわずかながら船橋が下で、ほぼ同数となっているが、この顔ぶれをぶれば、先発でも起用されてきた〝実績〟で大きな差を感じさせる。
今回の準決勝にとどまらず、スピアーズはリーグでも屈指の有力ベンチメンバーでシーズンを戦ってきた。このメンバーの厚みが、この日の明暗を分けたと感じてならない。
あの、衝撃的なキックチャージを演じてみせたハラトアも、前半一時出場した時から運動量で状態の良さを感じさせていた。36分のトライも、そんな状態の良さが後押した。
江良は、もう誰もがその実績を認める存在だが、加藤と共にマルコムが下がった後のスクラムで、〝先発セット〟以上の安定感を見せ、ヘルに関しては、言及する必要はないだろう。
対照的に野武士は、ラストワンプレーにベンチからの3人が重要な役割を果たしていた、いや、果たすべきだった。マークスは、交代出場してからのトライや、チャンスを創り出したランと、そのシャープな走りはチームも認めるところだが、あの状況であの立ち位置でボールを渡されるのは荷が重すぎる。そしてその3人の一人でもある齊藤君の痛恨のチャージダウンも、同じベンチスタートのハラトアとのマッチアップを踏まえればミスを認めざるを得ない。
惜しむらくは、この日は切れまくっていたSO山沢拓也が、後半も健在でプレーしていたらどうだったのだろうと思いを巡らせてしまう。あのチャージダウンも含めて…。まぁ、これは野暮な妄想なのだが、脇道ついでに、すこし数字のおはなしも。
スタッツをざっと眺めてみると、かなりの項目で両チームが互角の数字を残している。例えば22mライン内エントリーは勝者からみて7対6,スコア率も3.2点対4.0点、テリトリー47%対53%、ポゼッション53%対47%、ランメーター228m対250mといった具合だ。ただし、後半最後の猛攻までの試合展開で、勝者が野武士をほとんど自陣22mへ入れなかったこと、そしてキック処理からどうボールを動かしていくかというゲームプランでは、選手層同様に勝者に分があったと感じている。
▲個人的には就任1年目でファイナリストまで行ってほしかった金
澤HC。その一方で、組織委としてここ数シーズンの積み重ねの中で
生じた「選手層」の差を、どう埋めていくかが来季の宿題でもある
ハラトアに話を戻すと、試合後にあの状況を自ら説明してくれた。最初はゴール内でチームの円陣に入っていたが、目をキッカーに向けると、キックティーの位置、つまりゴールラインからの距離を見定め、同時にティーのボールの置き方(角度)で「あまり蹴り上げるキックじゃない」と判断している。その助走距離も見定める、わずか数秒の判断でアクションを起こした。自らプレースキッカーも務めるからこその判断でもあったが、日本体育大からクボタ入団数年は、まだまだ子供っぽさ、プレー精度の低さを発散させていた原石が、ようやくトップチームの一員としてのクレバーさ、自分で判断する力を持ち始めているのは、HCフランさんを筆頭としたコーチングスタッフによる〝投資〟の賜物だろう。
そんな投資の話のついでに、何度も事ある毎に触れているハナシではあるが、冒頭の「選手層」については、やはりフランさんと、チームマネジメントの、この10年に及ぶブレない忍耐強さと理解の結実だ。
フランさんのスピアーズでの取り組みを見ていると、チームを最短距離を効率よく進めるのではなく、組織としての地盤になる文化を築き、選手層にシーズン毎に厚みを持たせ、決してブレないラグビースタイルを固めてきた。不思議な事に、狩猟民の中で育まれてきたラグビーではあるが、まるで農耕民の文化のように、土壌から一つ一つ、年を重ねる毎に改良を重ね、良い品質の作物をバージョンアップさせて行くような作業が大事になる。その加点からすると、フランさんの振る舞いには、南アフリカの狩猟民ではなく、農耕民としての優れた資質を感じてならない。
そんな狩猟民の築いたチームと、まさに狩猟民のような攻守に圧倒的な力を見せるチームとの一騎打ち。ヘビー級のような力対力も見ものになるが、2つのクラブの文化が交錯する80分を楽しみたい。











