▲今日のヒーロー、オスティン。昨季のU23代表、ジャパンXVでの経験を新チーム

初陣でも見事に見せつけた。この先、このサイズでどこまで進化を続けられるか

 

 

今回は早めに〝おさらい〟を。

金曜ナイトゲーム。予期せぬ結果で、週末がスタートした。

 

浦安D 〇27-24● 埼玉WK

 

ここまで15勝1敗の首位が、3勝13敗の最下位に敗れるとは。

 

それでも、番狂わせにも正当な理由はある。

埼玉の攻撃が立ち上がりから少々強引過ぎた。

フィジカルにダイレクトに。激しいヒットを見せたが、この戦い方が浦安の勝機を導いた。

 

数字が物語る。

 

       浦安  埼玉

テリトリー  41%  59%

ポゼッション 42%  58%

パス     149回   212回

ランメーター 275m  462m

 

どの数値からも敗者が優位に立っていることを示している。

だが、この数字を上回ったものがある。

 

タックル回数 浦安209回 埼玉127回

 

一般的にはタックル回数が多い=防御シーンが多い=負け試合という3段論法が成り立つが、この試合ではセオリーは通用しなかった。成功率を見ると両者80%前後と、決して「エクセレント」な数値ではないが、この圧倒的な回数が勝負を分けたと感じている。首位とはいえ、あまりにも真っ向勝負をしてきたチームは、最下位とはいえ、決意を込めたタックルの餌食と化した。

 

タックル回数では上位10番までを浦安勢が独占。その象徴がトップのタックル28回をマークした森山海宇オスティンだ。因みに2位のイオアネとは5回の差をつけた断トツだった。

 

この日が正真正銘のリーグワンデビュー。東洋大からやって来たルーキーだが、181㎝、107㎏と、決して大型FWではないが、相手のFLベン・ガンター、No8ジャック・コーネルセンという190㎝台のジャパン勢としっかりと渡り合った。

 

勝者が80分間浴びせ続けたタックルも響いて、敗者は高いポセッション、パス回数を残しながらボールをトライラインまで、勝者と同じ4回しか運べなかった。

象徴的な数字は、敵陣22mライン内侵攻回数での得点率にも読み取れる。

 

22m内侵攻  6回  10回

得点率    4点   2.4点

 

つまり浦安はわずか6回のレッドゾーン侵入で平均4点を奪ったのに対して、埼玉は10回攻め入りながら平均2.4点しか奪えなかったのだ。勝者は、前週致命傷の一つだったラインアウトでもノーミスと改善を見せている。

 

惜しむらくは、この勝敗でも、両雄ともに決定的な順位変動は起こらないこと。強いて言えば、敗者は3位以上で挑むプレーオフへすこし引き締まり、勝者は入替戦へ向けて自信を一歩進めたことが収穫か。

 

残る土日。この試合に並ぶ好ゲーム、予期せぬ結末がどれだけ見られるか。

期待したいものだ。

 

 

 

前後半に分けたため、こちらのアップが遅くなりました。

「その1」が洋モノに終始したため、今回は国内モノ。先ずは金曜日のナイトゲームから。

 

まだ夜間試合はちょっぴりビールの有難みはなさそうだが、ゲームもそこそこ〝涼し気〟な内容に終わった。

 

兎に角、前半に尽きる勝負。

すこしディビジョン1を掴みつつある兆しを感じていた12位だったが、久しぶりの観戦は一言で言い表せば、なんだか逆戻りという印象だった。

 

0-28というスコアが良く物語っているが、その内容が厳しい。

ゲーム主将も務めた#8 ヤスパー、#10 オテレ、#12 サム、そして#15 亮平さんと、インタナショナルを要所に配しながら、1つ1つのコンタクトで数センチではあっても、確実に負けている。ポゼッション、テリトリーで上回っていても、スコアの起点としたい敵陣でのラインアウトをミスで潰し、前半インジャリータイムの相手レッドゾーンでの攻撃も、あまりに残念すぎるハンドリングエラーで終えるなど、仕留める力の無さがモロにスコアに表れた。敵陣22mエントリー侵入時の平均スコアは静岡の4.4得点に対して浦和は1.4。攻めていても得点に繋げられないチーム状態が読み取れる。

 

後半なんとか反撃に転じたが、それも開始4分であっさりと7点を奪われてから。35失点の時点で、ほぼほぼ詰んでいたゲームだった。80分を観て感じるのは、ヤスパー、サムという実力者だけが接点で戦い、相手防御をブレークして、その後は〝その他〟がフィニュシュ出来ず、フィニッシュされたゲーム展開だった。シーズン序盤の観戦で、昨季以上に接点で戦えるかとポジティブにみていたが、チーム力はなかなか上がってこないまま終盤を迎えている印象だった。

 

勝者の方も不動のリーダー・クワッガ、得点源&チャンスメーカーのヴァレンス、そして司令塔家村くんを欠く布陣での戦いを強いられている。ここらのメンバーが健在なら、さらなる惨劇が繰り広げられていただろう。

 

そんな実質ワンサイドの80分だったが、試合後の囲みで感銘を受けたのは、敗者の〝重鎮〟でもあるサムだった。

 

この選手との付き合いは結構長く、直接コンタクトをしたのは2016年のブリスベンだった。個人的にはあまり気が進まなかった、五郎丸歩の取材のため、複数回この湿気に満ちた町に滞在したが、そこで力を付けてきたのが、このフィジー生まれ、オーストラリア育ちのミッドフィールダーだった。

 

 

 

 

取材対象の塩対応(これはゴローちゃん本人ではなくエージェントの問題だが)とは対照的に、いつも極東の島国からなにやら偏った取材目的でやってきたメディアにもフレンドリーに接してくれたのがサム・ケレビだった。空港などでの移動の際にも、1人ポーズを作ったり、あまり気の進まないゴローちゃんの肩を組んで、カメラの前まで引っ張り出したりと、いろいろ助けられた。

 

その一方で、大型タイフーンで深刻な被害を受けた祖国のために、同じフィジアンメンバーたちと、試合前のサンコープスタジアムのエントリーエリアで募金・支援活動を続けるなど「イイ奴」ぶりを発揮していた。

 

府中市是政のチームでも、ワラビーズの名に相応しい活躍を見せて浦安へと渡って来たが、今季で日本でのプレーは6シーズン目を数える。このキャリアながら年齢はまだ32歳。ブリスベンでは若くして主力メンバーとなったことで〝ベテラン感〟は強いのだが、年齢的にはまだまだ十分活躍出来る世代だ。

 

先に触れたように、この日のゲームでもBKラインで一際存在感を見せ続けたパフォーマンスに、いまさらながらこのポテンシャルを維持し続けることが出来る秘訣を聞いてみると、興味深い答えが返って来た。

 

「自分が大切にしているのは、モチベーションというより規律なんです。モチベーションに頼るのではなく、自分が日々やっていくルーティーンをこなす規律を大事にしている。それはD-Rocksでもインタナショナルでも変わらないので、例えば朝クラブハウスに来て、リハビリ担当コーチといつもいろいろなエクササイズをして、誰よりも早くに来てトレーニングしているという自負もある。そういう陰で見えてないところもあるからこそ、週末へいい準備が出来る。なので、試合でのいいパフォーマンスというのは、その副産物に過ぎないんです。朝ですか? 5時半に起きて6時半には来ています。これは若い頃から続けています。家は貧しかったので、ラグビーで成功することをモチベーションにしていたのですが、それが途中から規律を守る規律に変わったんです。これはレッズや様々なチームでメンターから学んだことでもあるんです」

 

ここまでトップリーグ→リーグワンと最前線でプレーしてくれば、概ねの相手チームや選手のことは掌握済みだろうが、それでも奢らず、自分自身のスタンダードを保ち続ける。この継続の力こそ、サムを32歳の今でもトッププレーヤーとして輝かせていると感じさせられた。同時に胸中に思い浮かんだのは、日本の選手たちがどこまでサムのような姿勢で自分と向き合い、ラグビーに向き合っているのだろうかという思いだ。こんな取り組みにチャレンジし続けることが出来れば、シーズン3試合しかスタメン出場出来ない選手は、スターターを10試合に伸ばせるかも知れない。この「6年生」から学ぶものは、まだまだ沢山あると再認識させられた金曜日の80分だった。

 

翌土曜日の観戦はBL東京vs横浜E。このゲームは、7連敗のトンネルから下位チーム相手ながら2連勝と息を引き返した連覇中のホストへの期待感があったが、予想外の展開となった。

 

兎に角防御が淡白過ぎる。そこには成功率でスクラム50%、ラインアウト73%というセットピースの苦闘も響いているが、イージーにブレークを許しての失点の多さは、残り2節での6位以上確保に不安を感じさせた。そんなパフォ―マンスが勝者を助けてしまったが、攻撃でインパクトを残した新鋭を称えるべき試合でもあった。今季アーリーエントリーから出場5試合目を迎えた#15 武藤航生だ。

 

U20、ジャパンXVらユース世代、次世代ジャパンでも〝走り屋〟の資質は十分に見せつけてきたが、リーグワンでも脚は武器になる。序盤のファーストタッチから外連味の無いランを繰り返し、8分には自慢の加速力とフットワークで防御を外しながらインゴールへ飛び込んだ。本人が「最初見えてなかった。いい先例でした」と苦笑したように、背後から追走してきたトイメン松永拓朗のタックルにグラウンディングを阻まれたが、この立ち上がりのアタックでこの試合の要注意人物という存在感は漂わせた。

 

「最初のノートライの場面でちょっと動揺してしまったが、そこで悪いプレーにゆくんじゃなくて、自分らしさをしっかり出せたのが良かった」

 

 

▲脚も凄いがイケメンぶりもエース級。関東エリア

での知名度はまだまだだがスターの資質は十分だ

 

 

すこし晴れやかに振り返った。175㎝、84㎏のサイズは、日本に多い小兵アウトサイドBKの領域だが、その仕掛けるアグレッシブな意識がいい。強いて例えるなら、復活を目指すウェールズで若き#15 として可能性を光らせるブレア・マレーを彷彿とさせるアタッカーだ。

 

「スピードは通用すると思ったが、それだけじゃ走れないので、最初のポジショニングの部分だったりをもっと伸ばしていきたい。それとタックルの部分はまだ課題がある」

 

結果この試合もスコアレスで5試合トライはないままだが、幻のトライから10分余りで、再び快足をトップギアに上げた。中央スクラムからの1次フェーズで今度は3人抜きで防御ラインを抜け出し、#12ジェシーのトライをアシストすると、折り返し後の44分には自陣からの右オープンで再び防御を抜き去り、またもジェシーのトライをお膳立てした。横浜で武藤といえば、天才肌の司令塔「ゆらぎ」だったが、このヤング武藤は脚で存在感を発散する。

 

WTBでも観たい脚だが、本人は自由度の高い〝しんがり〟がいいと言う。同じ#15でオールブラックスでも鳴らしたレオンHCは、この若き15番をこう評価する。

 

「FBとしては、先ず勇敢なところが大事だと思います。でも航生は今まで通りのパフォーマンスを出してくれれば明るい未来がある。コンテストのあるところで体を張ってくれる選手だと思うので、ここから先も楽しみだ」

 

チームはこの日の勝利で、かろうじてトップ6入りの可能性だけは残した。とはいえ、現在6位のBL東京との勝ち点差は9。つまり残り2節でBL東京が勝ち点2を手にするか、7-9位の3チームが勝ち点を上積みすればプレーオフの夢は断たれる。最後まで可能性は追求してほしい一方で、レオンHC1年目は立ち上がりの苦闘も踏まえれば、終盤ポテンシャルを出し始めたことが収穫としていいだろう。紹介した航生に、ゆらぎというダブル武藤に、こちらもスピードスターの15人制代表WTB石田吉平と、若い力がメンバーに食い込み始めている。#9 ファフの帰国は大きなマイナスだが、この2連勝から、来季へどこまでギアを上げていけるかに期待することにしよう。

 

そして、週末最終日の日曜日。この試合もリーグ4位と好調のBR東京を、7位のトヨタが圧倒した。試合は、前日の秩父宮同様にホストの上位チームが防御を崩壊させたゲームになったが、試合前のある〝出来事〟を書き残しておこう。

 

キックオフ前の練習は、時としてそのチームを知るためのヒントがある。日によっては、試合とは関係ない記事作成や、両チームスタッフとの情報交換などで、じっくりと見ることが出来ない場合もあるが、早目に記者席に着いたこの日は、トヨタの練習で、すこし「?!」なシーンがあった。

 

一通りの練習を消化して、多くのチームがタックルの軽いメニューを行うのが基本メニューだが、この日のヴェルブリッツは、1対1のいわゆる「生タックル」をしていたのだ。通常はウレタン製のタックルダミーに当たるのが常道なのを、敢えて「生」でやり続ける。確かに、生身の1v1タックルのメニューは皆無ではないし、タックルとはいえ強度は70%程度、タックルの姿勢や入るタイミング、ヒットポイントを確認するのを主眼としたメニューなので、あまり際立ったメニューでもドリルでもないのだが、どうにも引っかかっていた。タックルが勝負を決めた訳ではなかったが、勝者会見に臨んだスティーブ・ハンセンHCに敢えてこの生タックルについて聞くと、こんな説明をしてくれた。

 

「試合では生タックルが実際に起こる状況なので、やろうということです。また、フィジカルにプレーするというマインドセットの構築だとか、やはりコリージョンのスポーツなので、それに合ったウォームアップのメニューを導入しているので、ヒットパッドは使いません」

 

些細なメニューのチョイスではあるが、タックルをダミーでやるか生身でやるかのいずれが勝つためにはベターなのかと考え、拘るところも積み重ねから、この名将はウェールズ、母国NZでの黄金時代を築いたのではないか。そんな思いにさせられた、短いコメントだった。当初は、オールブラックス同様にイアン・フォスターに陣頭指揮を委ねた名将だったが、チームの苦闘に自ら前に出てきて、ようやく浮上の光が見え始めている。不勉強で、この名将がいつまで豊田市に滞在するかは関知していないが、ここから本気モードに入れば、来季以降のリーグも楽しみが1つ増えることになる。

 

 

 

洋の東西、否南北共に金曜から3日間の週末ラグビーを、まとめておさらいしておこう。

 

冒頭に書き残しておくべきは、金曜真っ先の1試合。なんといってもクライストチャーチの最新スタジアムOne New Zealand Stadium「テ・カハ(Te Kaha)」でのこけら落としだろう。この週、試合に限っては、いつも脇役の「スタジアム」が主役になった。

 

「スーパーウィーク」と銘打って開催された3日間には、スーパーラグビー・パシフィック参加の10チームが、クライストチャーチに一同に集まり、この国の最新スタジアムの誕生を祝った。しかも、このスーパーウィークは、ただの1大型ヴェニューのオープニングを祝福したのではなく、この地を襲った直下型地震からの復興を高らかに謳う民間、ラグビーによる〝国家行事〟。毎試合スタンドを埋めたサポーターも然りだが、タスマン海峡を越えて集った、ANZACsのプレーヤーたちの熱量溢れるプレーが、その価値を物語っていた。

 

とりわけ金曜日の夜の、まさに「歴史的な1戦」は、勿論ホストのクルセイダーズがライバル・オーストラリアのラグビーを長く牽引してきたワラターズを迎えての80分。オープニングアクトに相応しい好バトルを、ホストの勝利で締めた。

 

この歴史的な一戦に、スタジアムの歴史に比べれば小さな変革かも知れないが、もう一つの歴史を記したのがホストの#7 でスターターとして登場したレスター・ファインガアヌク。1週間前のフォース戦はCTBで先発した選手が、バックローとしての第2のデビュー戦でも資質を輝かせた。

 

ラグビーでは、その戦術の変遷の中で、BKの選手がFWへ、FWがBKへのコンバートやその可能性は何度も、何人も議論されてきた。勿論議論だけではなく、実際にコードチェンジした選手も存在してきたが、世界トップレベルのリーグで1週間前にCTBでプレーした選手が、翌週バックローで先発するのは尋常ではない。野球に例えれば投手だった選手が外野手になるわけだが、実際のレスターのプレーとこれからの可能性をみれば、それは大谷翔平の実現した〝二刀流〟、つまりコードチェンジではなくダブルコードと呼ぶのが適当かも知れない。

 

正確に期すなら「転向」。

 

この#7は、ラグビーという競技が持つ、ゲームが始まればポジションに縛られずその立ち位置にいる選手が〝適切なプレー〟を求められるという特性を生かして、時にはバックローとして密集周辺でのフィジカルゲームに体を投げ出し、状況に応じてアタックラインに入ってボールを動かした。中島みゆきの歌声のように時代が巡る中で、「いま」のラグビーでは、ルーズFWとTBの役割に境界線が薄れているからこそ、このダブルコードが価値と可能性を秘めたものになっている。

 

では、こんな〝ラグビー版大谷翔平〟は、王国ニュージーランドだから実現したのかというと、そうではないだろう。

 

クラウスとチャーチの試合当日のSNSでも少々呟いたが、日本でも、神戸Sの試合を取材した時には、ほぼ毎回、FLティアナン・コストリーには「どう?そろそろCTBやってみたくなってきた?」と声を掛けている。

 

これはティアナンがバックローよりミッドフィールダーが向いているという意味ではなく、この日本で成長したバックロワーには、BKラインに入っても十分相手に脅威を与える〝足〟を持っているからだ。

 

こんなハナシを土曜の秩父宮で話していると、ホストBL東京の菊池博広報担当が「ウチの大野均もWTBでプレーしましたから!」と笑ったが、笑い話の域を超えて、若かりし頃の本人とも話をしたのは同じチームのリーチマイケルだった。東海大から東芝入りした当時は、天性のスピードが光る攻撃タイプのバックローとして代表入りまで登り詰めた。その資質を何度も引き合いに出したが、本人も東海大時代から東芝入り当初は「CTBをやってみたい」と興味津々だったのを思い出す。

 

今や、体を張ったプレーで、防御を軸にBL東京、桜のジャージーでも「防御」での貢献が目を見張る存在だが、20代の時に、一度BKラインに投じたら、また異なる味わいを魅せたかも知れない。一歩引いて考えれば、もしBK転向を実施していたら、いまの成功まで行っていたかは「神のみぞ知る」ではあるが、試す価値はあったと今でも感じている。参考までにだが、この日の横浜戦で怪我による長期離脱から復帰した眞野泰地は、東海大仰星高時代のFLから東海大時代にSO/CTBに転向して、現在の成功を掴んでいる。

 

すこし脇道に逸れたが、このレスターのようなコードチェンジ選手が増え、試合の中でもコードチェンジが起きれば、それも従来なかったこの競技の楽しみの一つになる可能性も秘める。前半#7でプレーした選手が、後半はCTBに転じる――こんな変更があれば、現状以上にさらに観る側をピッチ上でのパフォーマンスで楽しませる可能性を秘めている。まぁ、現実的には選手には体重の増減、コーチとしては更に混迷さを増すベンチワークも負担増になるかも知れないが…。

 

クライストチャーチの〝こけらオープニングマッチ〟を、個人にスポットを当ててきたが、試合自体、開幕戦に相応しい熱量を持ったゲームだった。〝主役〟が勝者になったことも、このスタジアム誕生までの経緯を踏まえれば、まさに祝福されたシナリオになったが、それ以上に所謂「つまらないスコア・失点」が少ない試合として称賛されるべき80分だった。

 

このスコアシチュエーションで特筆するべきは敗者のほうだった。目を見張ったのは、35分の#11シド・ハーヴェイによるトライだ。このシーン、ミッドフィールドでの連続攻撃から#10 ジャック・デブラシー二のチップキックと表現していいキックパスを#14アンドリュー・ケラウェイが好捕。それを内サポートの〝何かを起こす男〟#15 マックス・ジョーゲンセンが繋いで、#13 ジョーイ・ウォルトンがゴールラインに迫る。そこから再びパスを受けたディプレシーニが蹴り上げたボックスキックを、左サイドで#11シドがキャッチと同時にグラウンディングしたもの。これだけ楕円球に触れた全員が、しっかりと仕事をして繋ぎ切った一撃も少ないなと唸らされたトライだった。ちなみに、このファイントライとプレースキッカーも担うハーヴェイは、若きジョーゲンセンよりも1歳下の20歳。ウォルトンも25歳。すでにオールブラックスでも実績を残すファインガアヌクもようやく26歳となったばかりだ。

 

この見事なトライを許したホストも負けていなかった。55分の#14ダラス・マクロードのトライは、ミッドフィールドでのターンオーバーから#10 タハ・ケマラが素早い判断で上げたクロスキックを#6ドミニク・ガードナーが受け、DF2人を引き付けるキラーパスで仕留めたもの。パスを受けてからの、ダラスの加速からのインステップも素晴らしかった。直前のファインガアヌクのラックサイドを突いたトライとのダブルパンチでゲームの流れを引き寄せた。

 

共に、歴史的なオープニングマッチに相応しい、プライドと技と英知をぶつけ合った80分。そして、この週は〝主役〟でもあったスタジアムも、太平洋を跨いだ映像で見る限りは好ゲームに負けない存在感を印象づけた。

 

座席数はラグビーゲームで2万5000。6万人を収容するオークランドの〝エデンの園〟には及ばないが、この国のGDPでは5万人クラスの巨大スタジアムよりも「身の丈」の席数だろう。こけら落としがナイトゲームとなったことで、ハーフタイムの〝クラブ活動〟等での利用価値も感じさせたが、通常の国内(国際)リーグや、オークランドに次ぐ2番手インターナショナルゲームのヴェニューとしてはまぁあぁのサイズだろう。バックスタンドの、1段高く設計された〝第2層〟がかなりの高さまで競り上がる構造は、同じ屋根付きスタジアムの先輩格フォーサイスバーの、ホスト側ゴール裏の広大な座席(通称ZOO)とは大きく異なる構造だが、より〝高額席〟を増やすには若干の手助けになるだろう。

 

そしてこけら落とし2日目のデーゲームでの、採光の高さも大きな持ち味だ。フォーサイスはじめカーディフの〝鋼鉄の城〟もだが、やはり「日照」には恵まれないのが、屋根付き、開閉式スタジアムの欠点でもあるが、この最新スタジアムは屋根の広大な透明部分と、フォーサイスから継承される、スタンドのないゴール裏の窓部分から取り入れる陽光が生かされている。残念ながら中継画像での確認のため、実際に現地で観戦すると映像ほどの明るさはないのかも知れないが、従来の器に比べればかなり太陽の恩恵を受けられそうだ。御託を並べる前に、早く現地観戦したい世界最新鋭スタジアムだ。

 

土日に北青山でゲームをしたBL東京の司令塔は、数週間後にはその〝住人〟になる最新鋭スタジアムについて、「スライストチャーチ出身としてすごく誇らしい。ああいうスタジアムが絶対に必要だと思っていたし、震災からの15年間を振り返っても、仮設スタジアムでやるとかくあったからね。ここから新たなチャプターが始まっていくのが楽しみだし、昨日も中継を見ていたが嬉しかった。勿論プレーするのは楽しみだよ」と、試合からは一変して少年のような笑顔で語った。

 

その一方で、ピッチ下の温度調節システムなどハイテクも導入した器の維持管理費は、従来のスタジアムよりかなりの額になるという報道もある。リッチーが語ったように、既に敬愛するFoo Fightersなど欧米のスタークラスのコンサート開催も聞く。初年度の年間イベント回数は400を超えるとも伝えられているが、複数年の長いスパンで考えた時に、オークランドの6万席級スタジアムがある中で、果たしてどこまでクライストチャーチの〝やや小ぶり〟の器に、興行を呼び込めるか。ここは、東京・港区で進められている、同じような全天候型多目的〝聖地〟の先例として興味深い。

 

但し、クライストチャーチと港区の新鋭スタジアムがそれぞれのコミュニティーで同じような存在かといえば、そうではない側面がかなりしっかりとあるだろう。向こうは、1地域のスポーツ・文化の核となる器だが、こちらはまさにラグビーコミュニティーの「聖地」であり「殿堂」なのだ。その威厳や存在感、全てのラグビーキッズが憧れる建造物になることは、一コミュニティーのランドマークとは桁違いのストーリーが伴わなければならないはずだ。

 

おっと、最新器とダブルコードの選手の話で、かなり書いてしまった。国内の「おさらい」は後編でとして、ここでハーフタイム。

 

 

 

鉄と魚とラグビーの町でのおはなしをアップした。

迷いつつの釜石行だったが、予想を上回る収穫の旅になった。

 

 

 

 

3月末に考えたのは、熊谷のセンバツをどうするか。

いま高校生たちの挑戦を書くなら「勝った負けた」じゃないというのが素直な思いだ。皆様大好きなテーマではあっても、30年も〝傍観者〟として楕円の世界を眺めていれば、この世代の子供たちのために、知恵を絞り、汗するべきテーマは明白のように思う。

 

競技人口をどう確保するか。そして1人でも多くのラグビーキッズを、試合でプレーさせるか――。

 

ここを担保していかなければ、この競技の未来はない。

 

「それじゃ、アンタ、そのために何をやってるんだ」

 

この質問には、お恥ずかしながら何も出来ていない。ただただ、見て、書くだけだ。

力不足に、すこしうらぶれた思いを抱えながら北上を決めた。

 

「大会のこと、お話しできますよ」

 

そんな言葉が旅を後押しした。東京からの電話で、いつも変わらない穏やかな口調で話しかけてくれたのは高橋善幸さん。

野上先生は「学校の仕事で4月1日しかおらんけど、夜だったら話せるよ」と時間を割いてくれた。

 

 

 

 

この2人を確保出来れば、後は試合の合間に東北内外のチームの監督、選手からは十分話を聞けるだろう。野上先生の電話を切って直ぐに、宿と足の手配も済ませた。

 

大会の概ねは電話でも聞いていたが、現場で直接ゼンコ―さん、野上先生、そして元釜石戦士の阿部先生、ブリらに話を聞いて、さらにこの交流会の他大会とは一線を画した価値と意義を感じさせられた。

 

高校キッズの夢を思えば、花園や選抜は大切な大会だが、このみちのくの交流会には、大人も子供も手を差し伸べ合う美しさがある。

 

 

 

 

野上先生や、國學院栃木の吉岡先生が語ったように、「思い出」を作らせることは、釜石に集まった〝ラグビーの未来〟たちにとって計り知れない財産になる。これは、先月紹介した明治大日本一監督も同じ価値観を語っていたが、これは単なる偶然ではない。

 

今回のコラムは、一本モノとしてはそこそこ長めになってしまったが、これでも切り詰める腐心はしながらの作業だった。聞く人全員がいい話をしていたから。それぞれの言葉から学びがある取材だった。交流会の価値、意義は、コラムに概ね書き込んだつもりでいる。

 

願わくは、この交流会がさらに関係者、いまは関係者ではない人たち、組織の関心と応援を得て、バージョンアップしていければと思う。反面、このマイペースと手作り感、そして〝中央〟の仕切りではないことも魅力ではあるが、現場で見る限り主催者側の負担はかなりのものとも感じている。ゼンコ―さんの話を聞く中でも、発起人のような位置にある強豪校の指導陣の負担を段階的に減らして、釜石、岩手、東北の関係者が主体的に開催・運営していく必要があるのだろうと感じている。

 

とはいえ、彼らも手弁当での奮闘だ。だからこそ、いま大会パンフレットで7ページに渡り載せられた素晴らしい〝パトロン〟の皆さんに加えて、全国の組織、個人からの理解と応援が「鉄と魚とラグビーの町」へ向けられるのを願うばかりだ。

 

 

 

 

〝本業〟はあらためてコラムで準備するが、絵日記エピローグは「東北復興高校ラグビー交流会」周辺の釜石でのあれこれを。

 

旅程としては大会初日の夜、つまり4月1日のみ釜石に宿を取り、大会第2日までで概ね話を聞こうと見通した。試合会場が鵜住居、根浜海岸、松倉と3箇所を跨ぐため、万が一最終日も聞くべき人物、チームが残っていれば延泊という魂胆だったが、初日でかなりの話を聞けたため、幸か不幸か釜石は予定通り1泊のみに。短期滞在のぶん、ゲーム外の絵日記も書くべきネタは限られてしまった。

 

その中で、4月2日目は釜石発のリアス線を1本早めて早目に鵜住居駅へ。駅前に設けられた「いのちをつなぐ未来館」等の震災・復興施設に立ち寄った。これらは2019年のワールドカップに合わせるように建てられたものだが、犠牲者一人ひとりの名を記した記念碑と、津波最高到達点高さまでを記したモニュメントが改めて自然の猛威を感じさせた。

 

モニュメントに記されたこのエリアでの津波の高さは11mにまで及んだ。実際にその高さが刻まれた石柱を見れば、周辺が信じ難い大波に飲み込まれたことをあらためて実感する。生憎の荒天ではあったが、今の長閑な空気が、逆に白日夢のようにも感じてしまうほどだ。

 

 

撮るのが下手で高さ感が伝わらないが、後

方の民家からも津波の巨大さが窺い知れる

 

 

「未来館」内部には、震災からここまでの出来事、地元の人たちやコミュニティー、そして政府の取り組みが時系列で描かれたボードや、様々な被災状況を写した写真が展示され、先日復興試合を行ったライナーズを始めこの地を訪問したチームのサインボールも置かれている。

 

 

 

 

 

 

「あの日」此処で何が起きたのか。展示物を見ながら、風化させてはいけないという思いと、この地を離れれば我々の日常では、その多くが風化しつつある現実も痛感する。楕円球も含めて、何か他にも出来ることはないか。ここは、少なくともこの地を訪れた者に突き付けられた宿題でもある。

 

 

 

 

あまり湿っぽいハナシばかりでも良くないので、釜石旅のシメのメㇱの話でも最後に。高校キッズの熱戦は続いていたものの、予定通り第2日までに聞くべき話を概ね聞き終えていた。2日目に予定していた監督の話を聞き、昼過ぎの震災〝語り部〟のおはなし、各チームから選出されたメンバーによる大盛り上がりのドリームマッチが続く中、リアス線に乗り込んだ。

 

 

リアス線は今では珍しい紙の切符!

 

 

丁度昼メシと宴の中間の時間。東京へ向かう主要駅に着いてからとも考えたが、出発を一本遅らせて釜石駅周辺での遅めのランチと決め込んだ。流石に市の中心地までは雨、時間、適度な旅の疲労感で回避したが、ランチタイムも過ぎていたために駅前では飲食は限定されていた。

 

駅に隣接する海産物、飲食の店が入ったお馴染みの〝モール〟に寄って、以前もお邪魔した記憶のある「なにわ屋」へ。ここは店の雰囲気が独特(是非訪問を!)なのだが、どうやら女将さんは、こちらが狙っていた「ホタテ丼」のよりも「海鮮丼」が推しの様子。通常なら、そんな推しを敢えて無視するタイプの人間だが、ランチタイムはとうに過ぎていた時間帯から①ランチに用意したネタを使い切りたいので「海鮮」推しなのか②ホタテは何かワケありの理由でイマイチなのか…そんな憶測の末に、素直に「きっとネタ的には海鮮なのだろう」と、女将さんの暗黙の圧に屈してしまった。

 

 

席に着くと温かいお茶と冷たいお茶が出て来る。雪国の素敵な心遣い💕

 

 

結論から書くと「思わぬ大正解」だった。マグロとサーモン中心のネタは、ここ三陸沿岸の基準では上等とはいえなかったが、〝思わぬ〟は付け合わせの秋刀魚のつみれ汁と、丼物のシメにと提供された出汁茶漬け用のダシだった。結果的に、ホタテ丼でもこも2品は付いてきたのかも知れないが、この際はどうでもいい。秋刀魚のつみれは旬ではないものの、この魚特有の香りが口内にぱっと広がる。秋刀魚、鰯系に〝青物〟に目がない人間にはたまらん逸品だった。

 

 

 

 

そしてダシ。出された時の女将のサラッとした言い様から、「ご飯余ったらどうぞ」くらいのものだと勝手に軽んじていた。そのため、二、三口ほど残った丼の米を、無理無理茶漬けにしたのだが、この出汁が絶品だった。魚系でとった出汁ではあるが、一口めで「む!」となったのは、なんともいい塩梅で感じられる海老の風味だ。諄いほどでもなく、魚と薄口醤油の風味の中に、上手く海老の香りが漂うのがいい。おそらくは、そこまで高価なものではないかも知れない。昨今、南米から安価に入って来る赤海老あたりのアタマか殻から取ったものかといった印象だが、大量に残った出汁も、残さず飲み切った。

 

この定食。ラインアップを紹介すると

①     海鮮丼

②     出汁

③     つみれ汁

④     青菜の天ぷら(一品)

⑤     モヤシのナムル

⑥     漬物三品

 

遅いランチで、そこそこ空腹感はあったものの、オッサンにしてはラグビーあるあるで平均以上には〝大食い〟の小生でも、かなりの、否相当の満腹感があった。このラインアップで〆て¥980。もちろん釜石物価を考えると東京での¥980よりは高価なのだが、それにしてもコスパは良すぎるだろう。勿論、お支払いの時もその旨女将にもお伝えしておいた。因みに⑥の内の一品だったお香香も絶品だった。手作りなのか、どこかからの買い付けかは聞き忘れたが、見た目は手作り感漂うものに、千枚漬に近い風味がいい。ここ数年口にした漬物の中では群を抜いていた。

 

 

 

 

女将さんとの遣り取りも終えて店を出ると、そろそろ一本遅らせた釜石線の出発時間も近づいていた。相変わらずの釜石駅のラグビーネコ軍団も元気だ! お腹の張り具合もあるので、テイクアウェーのコーヒーを買い込んで釜石線に飛び乗った。