偏差値70以下は入れないかと警戒して向かった国内最高学府の施設でのトップイーストAグループ アズコム丸和モモタローズvs横河武蔵野アトラスターズ。〝桃太郎〟が33-7と快勝し、同日行われた秋田ノーザンブレッツ戦を東京ガスが56-24で快勝したため、同リーグは、それぞれがホーム・アンド・アウエーの第1戦を3試合終えて両雄が全勝で並んで、2週後の19日には直接対決の第1ラウンドが行われる。開幕前の下馬評通り、ガスvs桃太郎のトップ争いの様相だ。

 

正式名称はAZ-COM丸和MOMOTARO'S。すこし長たらしい。4月のコラムで紹介したように、イーストA初昇格の〝桃太郎〟は、様々な面で興味深いチームだ。

 

 

お恥ずかしながら、実はこの日が初めての実戦観戦。最高学府との連携で使い始めたグラウンドも見たかったが、他リーグ、代表のスケジュールもあり、ようやくホームでの公式戦へお邪魔した。

 

天然、人工芝2つのピッチに、グラウンド1/3程度の屋根付きピッチ(人工芝)、そしてウェートジムのあるクラブハウス。創部2013年、今季イーストA初昇格のチームにとっては充実した設備だが、周囲の空き地を利用した更なる拡張プランもあるという。最高峰リーグ参入の頃には、国内有数の施設になる可能性も秘めている。

 

 

▲天然芝グラウンド横は最高学府の研究施設

▼クラブハウス前の人工芝ピッチの横には屋根付きピッチも

 

 

そんな施設での〝お初〟観戦。大きなモチベーションは桃太郎のお手並み拝見だが、同時にラグビー王国から帰って来た司令塔のパフォーマンスも気になっていた。

 

北原璃久

 

國學院久我山高から国内強豪大学という選択肢を回避してNZオタゴ大に進学。〝王国〟で腕を磨き、日野レッドドフルィンズでリーグワン初年度の22年、翌22-23年シーズンにプレーした司令塔だ。ドルフィンズ退団後は、再びNZに戻りプレーしていたが、視野の広さを生かしゲームを読む判断力、小気味のいいランと、身長166㎝の小兵ながら存在感を放った#10が、2シーズンぶりに国内ラグビーに戻って来た。

 

 

開幕の日立戦、続く秋田NB戦に続く先発出場。3戦連続のマン・オブ・ザ・マッチは逃したもののポテンシャルは十分に輝かせた。相手に先制トライを許して迎えた前半16分。ミッドフィールドでチームが左サイド際を破っての右オープン。北原が俊敏なステップで2度、相手防御を抜く個人技から、仲間がボールを繋いで同点トライ(ゴール)。チームを勢いづかせた。35分、後半13分には、広い視野による好判断のロングキックで、しっかりとエリアを獲るなどゲームコントロールも光った。

 

レッドドルフィンズでも指導を受けた細谷監督の誘いでチームに合流したのは8月。北原自身は、ここまでの経緯をこう語ってくれた。

 

「ハミルトンオールドボーイズというクラブでプレーして、州代表(ワイカト)にチャレンジしています。州代表メンバーに選ばれるとシーズンが被るので来られなかったが、結果的に入れなくて、どうしようかなという時に細谷さんが来いよと言ってくれたので、お世話になることになりました」

 

今は2つのターゲットを持っての挑戦中だ。

 

「今のところはNZでの州代表入りもですが、リーグワンのディビジョン1のチーム入りも目指していた。高いレベルで出来ればやりたいなという思いを持ちながらプレーしています」

 

ハミルトンでは州代表入りの可能性もあったが、SOの枠4人には届かなかったという。リーグワンというもう一つの目標のためには、国内でアピールするメリットがあったが「細谷さんがそういう場を設けてくれた。だから今シーズンは丸和のために結果を出そうという思いです」

 

自らの〝売り込み〟と同時に、チャンスを与えてくれた細谷監督とチームへの恩返しのために10番を背負う。

 

この天才肌の25歳にとっては、レッドドルフィンズよりも下のカテゴリーでの戦いになるが、得るものもあるという。

 

「上の(カテゴリーの)チームだったら『これは抜けるかな?』というシーンもありますが、僕にとっては染山さん、シゲさん2人ともSOでやってきたコーチなので、結構助けてもらえていて、SOの専属コーチが着いたみたいな感じです。頭脳の部分とかでは見えているものが結構変わってきたかなと思います。プレッシャーの圧力とか(リーグワンと)違う所もあるけれど、上手くはなっているかもというのが自分の中ではありますね」

 

 

 

 

染山さんは、佐賀工高‐明治大‐中国電力とSOで活躍して、ドルフィンズでは一緒にプレーした杣山茂範AC、シゲさんは伏見工高‐龍谷大-近鉄で10番を背負い、今季就任した重光泰昌HCだ。共にゲームを読むことに長けた〝才能系〟司令塔が、北原の成長を促している。桃太郎での目標はイーストA優勝、そしてその後に挑むウエスト、九州3地域の順位戦1位だが、来季へ向けても野心的だ。

 

「ハミルトンに戻るかは分からないですね。いまワイカトの州代表は全員がスーパーラグビーのチームと契約しているんです。SOも4人いて、僕がそこに入れるかなという時にアーロン・クルーデンが戻って来るといわれて。だから、ちょっと計算高いけれど、チャンスある所でプレーしたいなと思っています。日本(リーグワン)でプレーしたいという選択肢もありますが、今は丸和のシーズンに集中しようという思いです」

 

そんな野心を持ちながら3戦連続でゲームメーカーとして勝利に貢献した教え子を、細谷監督は「今日の試合は璃久自身も難しかったと話していたが、しっかりとゲームをコントロールしてくれた」と賞賛。リーグワン参入という大きな目標への道筋となるイーストA初昇格での〝頂点獲り〟へ欠かせない#10と考えている。

 

では、そんな目標を掲げるチームのパフォーマンスを指揮官はどう評価するのか。

 

「春シーズン(春季交流戦3位決定戦)ほどの大勝(53-3)ではなかったが、あの試合はお互いチームが出来上がっていない中だった。今日は、スクラム、ラインアウトと横河さんにしっかり対策されていましたね。プレッシャーをしっかり掛けられない場面が多かった。でも、セットプレーが不安定な中で、しっかり勝ち点を獲れて、相手を出鼻でのワントライに抑えることが出来た。力はついている。初昇格のチームですから。よくやっていると思います」

 

今春、細谷監督が就任するまでは、社業をしながらの日本人選手に留学生ら数人の外国人選手を加えた布陣で戦ってきた。今季もメンバーの3分の2は現有戦力で、選手の構成は従来の形を継承する中で、より実績のある外国人選手や北原のような外部からの編入選手で補強を図る。北原の場合も、チーム側の雇用は、リーグワンのようないわゆるプロ選手としての契約ではなく、海外クラブからシーズン期間限定で雇用契約を結ぶ形態だ。

 

イーストAは2回戦総当たりのシステムのため、まだ折り返しにも至ってないが、3試合を消化して趨勢は見えてきた。トップ争いを演じる2チームを比較すると興味深い。

 

                 丸和       東ガス

 vs 日立     45-19     41-14

 vs 秋田   45-22     56-24

 vs 横河   33- 7      28-16

 

スコアではほぼ互角という印象で、両者全てのゲームでボーナスポイント(4トライ以上の勝利)も得ての快勝を続ける。10月19日の直接対決第1戦への好ゲームの期待感が高まる一方で、得失点すべて桃太郎が上回っている。イーストA上位争いの常連・東京ガスに対して〝挑戦者〟が数ポイントだけ優位とも読めるが、とあるチーム関係者は「このリーグの中で東京ガスだけは頭一つ抜けているチーム。対抗戦グループの伝統校から選手を集めてきたことも、我々のようなチームとは違うものを持っている」と厳しい決戦を覚悟している。

 

横河戦に戻ると、快勝の中で目につくのは〝攻め急ぎ〟によるエクスキューション不足だ。細谷監督も、このエリアの課題を感じている。

 

「フォーポッドで動かしていく中のパターン化、繰り返しそのパターンを続けられるようなディテイルをいま追求しいている。あまり多くのことはやっていない。オーソドックスな試合をしっかりやれるようにしているところです。でも、今日の課題は、相手の我慢強さに自分たちが取り急いで、敵陣22mライン内に入って3回(スコアを)獲り切れていない。あそこは継続です。自分たちからチャンスを手離しちゃいけない」

 

ゲームを観ていて思い出したのは、日本代表の特に序盤戦での戦いぶりだった。「超速」というコンセプトを意識しすぎて、我慢強く攻撃を継続する意識より、トライを奪おうという思いでの強引なアタックで、結果的にチャンスを逃していた。この日の桃太郎たちも、同じようにスコアをしたいという欲望に駆られて無理なプレーからミスを犯していた。

 

「そこが最大の課題です。悪いなりにも3本のうち1本でも取れていたら、スコアも40点くらいでしょ。そうしたら悪いなりに力あるなという結果だった」

 

指揮官はそう課題を挙げたが、東ガス戦では、こんな勝負強さ、弱さが、勝敗に影響する可能性もあるだけに、2週間でのチームの修正力が注目される。いまも苦闘を続ける日本代表も同様だが、ここは実戦での積み重ねも重要だろう。リーグワン参入までを考えると、現状の戦いは「助走期間」のような位置づけだ。今季の初体験のイーストA、そして順当なら進出するであろう最終順位決定戦で試合を積むことが、その先への価値ある投資になるはずだ。