▼トップイーストAグループ 2021/11/27 埼玉・セコムフィールド

セコムラガッツ 64-5(前半26-5) クリーンファイターズ山梨

 

前週はディビジョン3で新リーグを迎える豊田自動織機にスポットを当てましたが、今週はさらに〝掘り下げ〟てのトップイースト。狭山のセコムフィールドにお邪魔してきました、

 

ビジターのクリンファイターズも気になっていたので、双方の戦いぶりに注目して遠出してきました。

スコアは、このように開いてしまったのは残念ですが、フィジカルの部分などでの重圧で、クリーンファイターズがどうしても反則を犯してしまうのが、試合の流れを生かし切れなかったという印象。前半7個、後半も10分までに5個の反則だと、下位チームが優位に立つのは難しい。ちなみに反則総数はセコム3、ファイターズ14でした。

 

それにしても、来年リーグワンが始まると、「イースト」は4部扱いになってしまう。

この現実を、リーグや協会は、どこまで当事者感覚で受け止めているのか…

 

 

セコムに関しても、前半にキック処理ミスを4回してしまうと、どうしてもトライチャンスも、チームの勢いも削がれてしまう。それでも、BKラインには、トップイーストというステージでは十分脅威になる〝力〟がいるのには、すこし驚かされました。

まずは、積極的な仕掛で効果的なラインブレーク見せたCTB川田修司選手。そして、驚くべきことに、この試合が初登場だった7人制日本代表の快足WTB野口宜裕くんは、2㎡のスペースを与えると恐るべき決定力を何度も見せてくれました。他にも、2018年度の大学選手権を制した明治大のVメンバー、SO忽那鐘太くん、後半指令塔に入った黒﨑将斗くんの思い切りのいいラン、ブレーク、野口君の逆サイドのWTB川崎康隆選手も、ボールを持てばいいチャレンジを繰り返していました。

 

理想をいえば「もっとトライを獲れるチーム」という印象。小さなミスを修整できれば、1トライ差以内の惜敗が続く、ヤクルト、東京ガスからの勝利も見えてくるのではないか?

 

そんな中で、この日おはなしを聞いたのはインサイドCTBで出場したフィシプナ・トゥイアキくん。

 

すでに、7人制日本代表にも呼ばれる選手。公式戦期間の今はチームファースト。オフシーズンになる年明けは「チャンスがあれば」と再び代表入りをめざしています。

プロフィールを聞いて、その出自、サイズからは、ガッツンガッツンに縦に走り込むアイランダーを想像していたのですが、なんと、手にしたボールはそのほとんどはパスで手放すプレーを見せてくれました。簡単にいえば、教科書に載せていいような典型的なインサイドCTB。ボールを動かし、周囲のBKを走らせる技巧派のプレーを80分間続けていました。

 

「相手によるんス」。日本語が淀みない。そりゃそうだ!日本航空石川高に留学してから天理大を経て、セコムしてますから。

 

で、この日のプレーについては、こんなコメントをしてくれました。

 

「相手によって縦系か、外にするか…。今日はゲームプランとしてアタックキングラグビーということで、どんどん振って、どんどん動かして、点数をとろうと考えていました。僕自身?結構スキル系かな」

 

〝系〟を完璧に使いこなす、いまどきの日本の若いモンという印象の大型CTB。本人は平然と話していましたが、ボールを動かすスキルがあるので、あのサイズでフィジカル勝負でも十分に戦えれば、期待感は確かにある。思い切り縦系に出られてオフロードなんてされたら、相手はたまらないだろう。硬軟、いや硬柔併せ持つ大型セカンドファイブエイスとして興味をそそる選手です。

 

ピッチ上でも可能性を秘めていますが、ピッチ外でも興味深い選手です。

生まれたトンガから高1で来日して、狭山市に辿り着いたフィシプナくんですが、少し異色なのは、彼はセコム社員として毎日PCと向き合う生活を続けているのです。おしゃれタウン原宿の本社オフィスでは、ビシッとスーツ姿で働いています。

 

「いまは本社でデスクワークですね。仕事をしながらのラグビーは、最初は難しかったですね。全然慣れなくて。でも、全員が同じように仕事している。もう慣れました。慣れたら全然いいと思います」

 

当たり前のように語るフィシプナくんですが、たとえ日本の大学を卒業した留学生でも、ラグビー選手でスーツを着てオフィスで働く選手はあまりいない。でも、彼には、そんなに難しい決断ではなかったようです。日本留学の時の心境が、彼の国を離れることへの考え方をよく表しています。まだ高校入学前という年齢で、不安はなかったかと聞いてみました。

 

「なかったですね。なかなかチャンスないですから。トンガからスポーツで海外行けるなんて。チャンスだと思い(日本に)来ました」

 

自分の生まれた島から、海外へと旅立つ―。これは、トロブリアント諸島などで行われてきた「クラ」と呼ばれる伝統的な交易を思い出します。これは交易という経済活動であり、文化、そして種を永らえるための儀式でもある。そして、おそらくイニシエーションとしても意味を持つ儀式だと、個人的には解釈しているのだが、日本での挑戦は、未知の世界に漕ぎ出す冒険であり、挑戦であるという意味で、フィシプナくんにとってのクラだったと感じています。

こういう挑戦を迷いなく選んだ少年には、来日は、新たな可能性への鼓動しか聞こえなかったのでしょう。なので、仕事とラグビーの両立も、原宿から2時間ほどかけて狭山でのラグビーも苦もなく出来るのでしょう。

 

 

だいぶ脇道に逸れてしまいました。

彼の場合、日航石川、天理ではサイズを強みにFWでプレーした経験もありましたが、セコム入りしてからは、自分が一番やりやすいCTBでのプレーに専念しているのです。学生時代は他の留学生の陰に隠れた存在でしたが、得意のポジションで可能性を輝かせ始めています。あのパスの感覚や、試合中で見せたチップキックを見ると、SOでの起用も面白そう。188㎝、107㎏のサイズで思い切り前に出てこられると、相手としてはすこし厄介な存在。本人は「いゃー、、、CTBが好きかな」とSOに色気はないようですが、パス、キックのスキルもある。まだ「スーパー」なスキルではない印象だが、磨けば楽しみな存在と感じました。セコムにとっては迷惑な話ですが、すでに複数の国内チームが獲得を考えているとも聞いています。

 

ちなみに、高校、大学では、秋のテストマッチで可能性を輝かせたWTBシオサイア・フィフィタ(花園近鉄ライナーズ)の3歳先輩で、NO8ファウルア・マキシ(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)は1学年下。秋の代表戦を観て「(シオアイア)全部出てましたね。ジョセフHCも相当期待していますね。後輩の頑張っているのは、自分も頑張るという感覚よりも嬉しいですね」と笑顔で語ってくれました。2人の後輩は桜のジャージーでの挑戦に挑んでいますが、フィシプナくんは、今はラグビー&ビジネスという2つのフィールドでのチャレンジに全力を尽くしています。