上位対決——。と書くより優勝候補同士の激突を書いた方が適当か。こんなゲームで、いわば〝フルボッコ〟のようなスコアになるとは…。3万2000人を超えるファンが見守る中で、北関東の野武士が、3連覇を目指す王者を46-0と圧倒してシーズンをスタートした。

 

「自分たちのラグビーをしっかりしていこうという姿勢で臨みましたので、まさにそれを選手がやってくれたと思います。東芝戦へ向けては、コンタクトのシチュエーションをいちばんフォーカスしてきたところでしたが、アタックでもディフェンスでも同じで、そこが今日の試合ででたところだと思います」

 

すこし誇らしげな面持ちで、HCとしての初采配の80分について語り出したのは金沢篤。名将ロビー・ディーンズからタクトを託されたシーズン初陣で、その前指揮官も見守る前での予想を上回る勝ちっぷりを見せた。

 

特定のチーム、選手を応援しないこともあり、どちらのチームが勝とうが負けようが痛くも痒くもない身にとっても、驚きと同時に安堵感のあった試合だった。就任直後に酷暑の熊谷まで訪ねてコラムを書いたのが、この新米HC。詳しくはコラムを読んでいただきたいが、この若きコーチのような存在が、リーグワンはじめ国内のラグビーに多く現れることを願いながら話を聞き、キーボードを叩いた。その本人が最高のスタートを切ったのは、何の努力もしていないこちらも嬉しい限りだ。もし、ここで真逆の結果だったとしたらと考えると、最上すぎるストーリーの第1歩だっただろう。

 

 

(少々前のコラムですが参考までに)

 

 

新HC自身も、就任当時からロビーさんが築き上げたワイルドナイツのラグビーを継承しながらの挑戦を強調していたが、開幕戦のパフォーマンスを見る限りは、伝統の堅い防御は更に鋭敏さを増し、ボールを持てば外連味なく大きく動かしトライを狙ってきた。その中でも、射程内の位置からはキッカーのSO山沢拓也の右足に託して、着実にスコアを刻む試合運びを徹底して、このワンサイドゲームを成し遂げた。国際基準から見ると未だに3点よりも5点、7点を狙うゲームが多い日本のラグビーで(勿論ここにも理由はあるが)、チャンスは着実にスコアを刻んで、相手をしっかりと点数で上回ろうという試合運びも評価していいだろう。

 

昨季リーグ戦で1位の1試合平均41.2得点を稼いできた王者を零封する鉄壁の防御について、新HCは勝者会見で「この試合へ向けては布巻がディフェンスを担当していますが、すごくいい準備をしてくれた。それに対して、選手も反応出来たことが大きかった」と、コーチ兼任のFL布巻峻介の名を挙げた。東福岡高では世代最強のCTBとしてその名を轟かせ、進学した早稲田大では途中でFLに転向。その後日本代表も経験した職人リンクプレーヤーが、チーム伝統の防御をさらにアグレッシブなものに仕上げている。

 

話を進める前に、スタッツをみると下記のような数字になっている。

 

 

              【BL】         【WK】

 テリトリー         41%    59%

 ポゼッション        44%    56%

 スクラム成功率(回)   67%(3)    91%(13)

 ラインアウト成功率(回) 91%(13)  73%(15)

 パス            211     159

 キャリー          109     112

 ランメートル        232     201

 タックル回/成功率    139(89)       133(86)

 反則数           21      7

 22m突破/スコア率    4(0)      11(3.5)

 

 

ゲームを実際に観戦した印象と比べると、テリトリー、ポゼッション等ファンダメンタルな数値ではそれほどの大きな差はない。ラインアウトやタックル成功率では、むしろ敗者が上回る。だが、ルーパスが勝者の1.3倍のパスをしているにも関わらず、ボールキャリー、ランメーターで大差が無く、それでもこのスコアになっているという現実が、この試合のポイントになるだろう。ルーパスがフェーズアタックを継続出来てもワイルドナイツの固い防御の前に有効なゲインを切れずにいたと読み取っていいだろう。

 

ポゼッションを更に細かく見ると、ピッチを《自陣22mライン内》《自陣22m~センターライン》《センターライン~敵陣22m》《敵陣22mライン内》と四分割したエリアでの保持率で、敵陣22mの所謂「レッドゾーン」でワイルドナイツが全エリア中41%ボールを手にしていたのに対して、ルーパスの保持率は7%に終わっている。ここに完敗劇の様相がよく表されているのだが、さらに踏み込むと「キック・パスレート」の違いも、このワンサイドゲームのエッセンスになっている。

 

この数値はあくまでも相対的に変化する〝目安〟ではあるのだが、双方がキック1回に対して何回パスをしたかという割合では、下記のような顕著な数字が浮かび上がる。

 

【キック:パスレート】

 BL=1:15.1

 WK=1: 5.5

 

つまり、ブレイブルーパスがキック1回につき15回パスをしていたのに対してワイルドナイツはキック1回で5回パスをしていた割合になる。ルーパスがワールドナイツの3倍の割合でキックよりパスを選択していたのだが、この数字が双方、とりわけブレイブルーパスのキャラクターをよく表している。開幕前の会見で、ブラックアダーHCは日本代表をはじめテストゲームの潮流としてのキックを積極的に使った戦術に対して、こう言及している。

 

「テストマッチや北半球ではコンテストキックが多いが、それに比べると日本国内ではゲームスピードがとても速く、東芝はおそらくリーグの中でのキック回数が一番少ないチームです。そこに力も入れていない。正直、そう(キック多用のスタイルに)なって欲しくない。1チームとしてもそうですが、ファンの皆さんにとっても、いちいちゲームを止めて蹴って競り合い、また止めて蹴ってというのは見ていて楽しくない。個人的には、展開ラグビーを楽しんでいただきたいと思っています」

 

ニュージーランドでカリスマ選手として活躍して、ヨーロッパでコーチの手腕を磨いた指揮官としては「おや」と思わせる発言だった。個人的には心の中で拍手を贈ったが、その一方で「勝てるラグビー」「いいラグビー」という観点では、すこし様相が変わってくる。少なくとも2025-26年シーズン開幕週の勝ち負けには、このキックの使い方や精度が強く影響したのではないだろうか。

 

 

 

 

ルーパスがパスでボールを動かしてきたのに対して、ワイルドナイツはキック、パスのバリエーションでゲームを組み立ててきた。ルーパスのSOリッチー・モウンガがパス51回、キック7回だったのに対してワイルドナイツSO山沢はパス17回、キック13回というスタッツが計測されている。勿論、敗者も戦況や対戦相手に応じて、つまりゲームプランでキック・パスの割合は変えている。昨季決勝は、対戦相手スピアーズの1:6.5に対して1:11.5とパワフルで大きな相手にボールを回した一方で、展開力が武器のイーグルスとの18節の対戦では1:3.6(イーグルスは1:6.7)と、キックも織り交ぜたゲームプランで臨んでいる。今季開幕の相手ワイルドナイツとの12節での対戦でも、相手の1:7.2に対して1:5.1とパスも使いながら勝利を収めている。

 

そんな状況の中で、開幕戦でパス重視のプランを準備したV2王者だったが、勝利のストーリーを描き切れなかった。サッカー強豪高からも勧誘された天性のフットボーラーでもあるワイルドナイツSO山沢拓也の、パス、キック、ランを駆使したゲームメークが光ったが、その一方で、ルーパスのボールを展開してトライを狙ってくる「傾向」が明暗を分けたという印象だ。ワイルドナイツがルーパスのスタイルを明確に認識した上で、強みの防御でアタックを封じ込めた試合と解釈していいだろう。

 

敗者のこの傾向は、プレシーズンでも見て取れた。数値だけではない要素を書き加えておくと、幸いなこと(?)に開幕前にルーパスの試合を3回観戦したが、開幕戦同様に相手がルーパスの大きくボールを動かしてくるアタックへの対策を講じてきているのも見られた。頂点に登り詰めた昨季までなら、アウトサイドCTBから外側に作り出せていたスペース(間隙)を、多くのチームが埋め、有効なゲインを切らせないことで、王者の得点力が落ちている印象だった。練習試合のスコアはあくまでも参考程度の数字だが、昨季リーグワンで1試合平均40点以上を稼いできたチームが、観戦したプレマッチ3試合中、敗れた2試合で得点20点台、勝ったダイナボアーズ戦も36-33というスコアに終わっている。

 

リーグワンは1、2シーズンで攻撃のソフトを更新しなければ、相手に対応されてしまう時代を迎えている。開幕戦後の会見でトッドさんに「ブレイブルーパスのボールを展開してくるスタイルは、各チーム分析してきていると思うが、どう受け止めているのか」と聞くと、こんな回答をしてくれた。

 

「そうですね、そこは同意しますね。そこが今季は大きなチャレンジになるとチーム内でも話し合いながら準備してきたし、今もそうです。今日でいうと、あと1本のところで繋がればというシーンが序盤に多く、その影響もあり中盤ではチャンスで少し消極的になってしまったことで、いつもなら出来るはずの勇敢に攻め切るプレーが出来なかった。何よりも、今日はワイルドナイツの防御が絶え間なく、隙もなく、すごい繋がりを持って表現できていた。自分たちとしては、とてもスペースが見出せないゲームで、そこをこじ開けようとしてちょっとずつタイミングがずれ、エラーを起こして、そこを巻き返そうとむきになったという難しさがあった」

 

敗戦のストーリーを見事に語ってくれたトッドさんだが、勿論、リーチの欠場、ワーナー・ディアンズ、原田衛というコアメンバーを大量に欠いたハード面での難しさも、遂行力の低さに響いた80分だったのだろう。

 

他にもスタッツ上で大きな差が見られたのがスクラム成功率(回数)、反則数と、これは結果論のような数字でもあるが敵陣22mライン突破回数だ。

 

先ず、致命傷ともいえる反則についてだ。ここに関してはルーパスの多くの選手、HCも指摘していたが、総じて接点でのプレーで取られたものが多い中で、ラック周りを中心にオフサイドで笛を吹かれたシーンが目立った。このゲーム最多のタックル20回をマークしたルーパスFL佐々木剛も「密集での相手のクリーンアウトで(オフサイドラインが)下げられたのに、僕らの立ち位置がそのままだったことで相対的にオフサイドを取られていた。あそこで一歩下がってアジャストしないといけないところを怠ってしまった」と解説してくれた。

 

この話を聞いて、このレベルのチームでも80分という時間の中で修正出来ないのかという疑問をぶつけると、「やはり相手がいるスポーツなので、目の前に相手がいるとどうしても注視してしまう。そこで、一番判断出来るのはラック近くの選手で、どれだけ周りに発信できるかにかかっています。今回は、そこから発信出来ず、僕自身も出来ないままオフサイドを取られていた」と痛恨の表情で語っている。

 

この発言を聞いて、さらにぶつけた質問は、やはりリーチのような絶体的なリーダーの不在が影響していたのではないかという疑念。佐々木の見解はこんなものだった。

 

「マイケルさんはやはりスペシャルです。僕が今季から(FW)リーダーをやっていますが、周りに対しての発信力は全然勉強不足です。熱量も含めて、皆に伝播する選手がいないことも痛感したとうか、自分の未熟さも痛感しました」

 

シーズンを追う毎に欠かせないメンバーに成長する佐々木だが、その表現力も進化を続ける。この日の戦況についても、こう振り返っている。

 

「(ワイルドナイツの固い防御力は)1週間準備してきたよりもすごく整ったディフェンスで、全員が立っていましたね。スペーシングも凄く良くて、穴を見つけるのが難しかった印象です。僕らのアタックも、ペナルティーでブツ切れになってしまう場面が多くて、特に(ワイルドナイツのFLラクラン・)ボーシェーらにプレッシャーを掛けられてリズムが作れなかったことが、自分たちらしいアタックが出来なかった理由だと思う」

 

王者の苦闘ぶりがよく判る説明だったが、同時にペナルティー数については、ワイルドナイツの接点でのファイトを称えるべきだろう。元来防御に長けたチームだが、最初に触れたように、コリージョンエリアでのアグレッシブさが印象に残った。個々の接点での1歩前に押し込むような、数値に表れない凄みで上回った。ここを、しっかりとゲームスコアに繋げられたのは、新人HCにとっても大きな収穫でもあった。

 

スクラムに関しては、連覇を続ける中でルーパスが、そこまでライバルを圧倒してきたエリアでもない一方で、ワイルドナイツも極端にスクラム重視のチームではなかった。その中で成功率で勝者が上回ったが、むしろスクラム回数の格差がこのワンサイドマッチを物語るための要因の一つのように感じた。これだけの相手ボールスクラムを与えたルーパスのプレー精度、そこには自分たちの問題と同時に、勝者のプレッシャーの厳しさもあっただろうが、ここまで苦しむとは考えていなかっただろう。スクラム自体に関しては、フィールドプレーに長けたPR稲垣啓太をベンチスタートに置いて、クレイグ・ミラー、ヴァルアサエリ愛というスクラムの強さ、重さが強みのメンバーをスタートに置いたワイルドナイツのベンチワークも正解だったのだろう。

 

 

 

 

相手22mライン突破を見ても、スタッツだけでは分からない明暗があった。ワイルドナイツが開始5分でこのレッドゾーンに侵入してスコア(PG)に結び付けていたのに対して、アタッキングチームのはずのルーパスは、驚くことに前半の22突破は0回に終わっている。これが、先にも触れたエリア別のボールポゼッションの数字にも垣間見えるのだが、手元のメモには「51minⓉ初22」と書き残してある。後半11分(51分)に東芝が初めて22mラインを突破したことを書き残したのだが、この待望の相手レッドゾーンでのファイトですら、ラインアウト→モール→ノックオン→相手スクラム→コラプシングという最悪の結末に終わっている。

 

繰り返しになるが、いまやアタックに強みをみせるチームが、ここまでミスからスクラムを相手に与え、ボールを動かしてもゴールラインに近づけなければ、たとえ連覇中の王者といえども勝利が遠のくことになる。会見では物静かに敗戦を認めたトッドさんだが、最後にこう付け加えている。

 

「我々は、リーグで一番学べるチームですから」

 

敗因の文字数が多くなったが、本来、この試合で語るべきは勝者の方だ。冒頭にも書いたように金沢新HCにとっては最良のスタートになった。常に自分の進化を旺盛に追求して、群馬・太田(現在は埼玉・熊谷)にやって来たコーチが、その記念すべき新たな一歩で王者を粉砕出来たことは称えるべきだろう。チームのカラーをしっかり継承しながらも、布巻峻介による接点と防御、堀江翔太のセットピース、ベリック・バーンズのアタックと、プレーヤーとしての高い経験値を持ち、若く、新たなコーチ陣たちの手腕もしっかりとパフォ―マンスに繋げながらの勝利の価値は重い。

 

フロントローの選考には触れたが、主将のHO坂手淳史もセット、機動力、接点のファイトと、控えの佐藤健次も含めた現行日本代表の若き「2番」たちを凌駕するパフォーマンスを披露。南アフリカ代表ダミアン・デアレンデ、日本代表ディラン・ライリーら主力CTBの欠場もあり起用されたビンス・アソ、谷山隼大というミッドフィールダーも、接点の強さで王者に重圧を掛けるなど、メンバリングでもベンチワークの勝利を感じさせた。

 

リーグワン初代王者という不変の称号を手にするワイルドナイツだが、その後3シーズンに渡り、有力候補に挙げられながら覇権奪還に失敗してきた。昨季は初めて「ファイナリスト」の称号も失い、4位に甘んじている。親会社といえるパナソニックは、12月8日に名門・野球部の来季限りの休部を発表。プロゴルフの男女トーナメントのスポンサーからも降りることが判明している。これは今年6月にホールディングス全体で1万人規模の人員削減を表明したことに直結する決定だが、運営形態は異なれどワイルドナイツへ注ぎ込まれる運営資金も、成績が残せなければいつまでも安泰ではないことも示している。

 

チームにとっても結果はどうしても残さなければならない空気感が漂っている中での、王者を圧倒しての開幕スタート。このインパクトのある〝一石〟が、新シーズンにどんな波紋を広げていくのか。寒気が本番を迎えようとしている列島に、どこまでリーグワンが熱気をもたらせるかが楽しみだ。

 

 

〝追加〟で、既にSNSで触れた観衆マターを備忘録代わりに付記させていただく。既読の方にはお許しいただきたい。

 

   ◇   ◇   ◇   

 

昨季王者の開幕戦は観衆3万2000あまり

「4万人プロジェクト」と掲げた数値には届かなかったが、単独チームでのこの埋まり方はそう悪くない。

 

当初から4万という数字自体が、そこそこハードルを上げた数字、つまりすこし背伸びするくらいに、どう近づけていくかという目標であり、昼過ぎまでの憂鬱な氷雨の中ではよく集めた印象。招待券も含めると大台を超えるチケットは出ていたが、実数が1万人近く足りない見込みも概算通りだった。それでもチームはやはり「4万人」という見出しが世の中に踊ることに価値を見出していた。

 

残念なのは、その集客活動の多くはチーム単独のものだったこと。実売、東京都に地元自治体、学校などへの招待、声がけなど涙ぐましい努力の、今季の結果が先に上げた数字だ。

 

ここに、リーグ挙げての更なる後押しがあれば、どこまで空席を埋められたのか…。

 

重きを置くべきは、リーグ自体やラグビーが世間さまにどこまでインパクトを感じさせることが出来るか。4万人プロジェクトはルーパスのためでもあるが、実はリーグ、日本ラグビーにとってもかなり重要な挑戦だった。そのための絶好のチャンスを今季も〝見逃し三振〟してしまったのが悔やまれる。

 

 

いよいよリーグワン開幕!

 

とはいえ、どこまでシーズンスタートが世間さまの中でインパクトがあったのか。そんな思いを巡らせながらの観戦は、港区北青山のブラックラムズ(昨季リーグ7位)vsサンゴリアス(同6位)へ。1試合を特定したオープニングマッチがない、つまりでディビジョン1、2、3の全13 カードが、この週末2日間で横並びでのスタートという中で、いつものように粛々とシーズンの幕が上がった。

 

試合を通じて頭に浮かんだ言葉は「patience」。どちらが忍耐強く自分たちのラグビーが出来るかがキーになると感じさせたが、目を見張る防御を最後まで続けられなかったチームが敗者となった。

 

結末は、昨季上位が終盤突き離して29-15で面目を保った。

実際「昨季成績(順位)」というモノが、どこまで意味があるのかという思いもあるが、このゲームを見ると、なかなか捨てたもんじゃない。サンゴリアスにとってはリーグワン発足4シーズンで初めて明け渡したトップ4の座の奪還を目指すシーズン。そしてブラックラムズには1度も乗り越えられない7位からのジャンプアップに挑む1年。だが、すこし大雑把に80分間の印象なら、昨季からどこまで進化したのかという点では勝者敗者共に「もう一声ほしい」という戦いぶりでもあった。

 

負けたラムズにとっては、後半途中からの防御崩壊は悔やまれるが、その一方で、アタッキングラグビーを標榜する対戦相手を、キックオフから60分近く好きなように攻めさせなかったのは、防御が伝統のこのチームにとっては、今季もここを強みに戦えるという確認は出来ただろう。個々のタックル、ブレークダウンでのファイトNo8リアム・ギルが、レッズ時代と変わらない真価を披露。同じ相手キャプテンでもある、かのサム・ケインも苦戦した理由に彼の名を挙げたほどのパフォーマンスだった。

 

その一方で、終盤猛攻に引っくり返された展開は、アタック面での物足りなさを感じさせた。SO中楠一期の狙いすましたキックからボールを奪い返して、いい形でアタックを仕掛けても、そのボールをフィニッシュに繋げられない。手元の大まかなメモで、後半の敵陣22mライン突破回数が勝者の6に対してラムズが1という現実が課題を象徴する。

 

勝者の方も、敗者同様に物足りなさを感じさせた初陣だった。

先に触れた通り、立ち上がりから相手のラッシュアップしてくる防御にプレッシャーを受けた。健在ぶりを見せつけたベテランSH流大は「考えていた通りブラックラムズのディフェンスが良かった」と、これも想定済みと語ったが、〝ヨミ通り〟にしては梃子摺る時間が長すぎた。激しいディフェンスに晒される中でも、果敢に仕掛けて、スピードで上回るのがこのチームの信条。だが、そこでスタンドを楽しませたのがゲーム終盤の20分だったというのは、展開上は劇的でも、シーズンを戦う中での不安材料も十分感じさせた。

 

すこし厳し目だが、頭に過ったのは「昨季から伸びているか?」という思い。チームにとってリーグワンでのワーストだった昨季から、どう立て直してきたかがこのゲームの1つの焦点だったが、残念ながらゲームを支配する上で重要な時間帯(立ち上がり20分)でのパフォーマンスは、昨季からの飛躍的な進化を感じさせるものではなかった。


すこし差し引いて考えてもいいのは、双方共通して、開幕戦ならではの精度、コンビネーションの低さを見せていたこと。本来は、開幕からシーズンのスタンダードを見るのが理想とはいえ、この30人が入り乱れて複雑な展開が刻々と進む競技では、シーズン序盤の完成度の低さは「あるある」でもある。

 

厳しく見積もると、昨季6位と7位の決戦は、両チーム共に、その順位に囚われたままのシーズンインだったように思える。サンゴリアスの小野晃征HCの「先ず勝てたことが収穫」という言葉が、まぁまぁ的を得ているように思える。  

 

勝敗という点では、残り20分程で4トライを畳み掛け、ボーナスポイントまで得た勝者に得るものはあったが、シーズンを見通してのパフォーマンスという点では、どちらに収穫があったか考える必要があったような開幕戦でもあった。

 

いすれにせよ、長いシーズンの最初の80分。レギュラーのリーグ戦に限れば、1360分という残されたゲーム時間で、どこまで精度を高め、強みを伸ばしていけるかが6位、7位から浮上出来るかのキーになると印象付けた80分間だった。

 

 

 

 

朗報が届いたのは今日、12月11日の午前10時1分。

リーグワンからのメールの表題はこう記されていた。

 

「NECグリーンロケッツ東葛」の譲渡決定について

 

ただの無機質なゴシック体の活字だが、幾何か誇らしげに見える。

この我孫子の古豪(創部40年はリーグでは古株ではないが…)が、チーム譲渡の方針を発表してから4か月。かなりスピード感のある決定だ。年明けかと思っていた発表が、直前とはいえリーグ開幕前に漕ぎつけたのは、なにより選手にとっては朗報だった。

 

既にリーグ、チーム等のリリースで説明されているが、発表のあらましを書き残しておくと、譲渡時期は新シーズン終了後の2026年7月。詳細は未確定の部分もあるが、受け入れ先のJR東日本側の説明によると、選手はもとより、現状の練習施設、ホストスタジアムの柏の葉なども含めてチームそのものの譲渡を受けるという。つまりグリーンロケッツは、いわゆる母体会社だけがNECからJR(東日本)へ変わり、それ以外は現行をそのまま継続することになる。今後の主要な検討事案としては、選手、スタッフの契約形態、チーム名称(愛称)などが挙げられる。

 

リリースから7時間後に都内ホテルで会見が開かれた。参加したのは東日本旅客鉄道(つまりJR東日本)喜勢陽一社長、日本電気株式会社(つまるところNEC)森田隆之社長、そしてリーグワン玉塚元一理事長。会見場に掲げられた「『NECグリーンロケッツ東葛』の新たな出発について」という文言が喜びを湛えている。

 

「グリーンロケッツ」という愛称については、会見に参加したJR東日本の喜勢社長が「グリーンは弊社の企業カラーでもある。グリーンロケッツという名前も、地域、ファンの皆さんから長きに渡り愛されているようなので、考えていきたい」という旨を語っている。「グリーン=◎」「ロケッツ=△継続の可能性も否定せず要検討」といったところか。「ロケッツ」が伝統的にNEC保有のスポーツチームに冠されてきたことにJR側が寛容であれば、この名称の継続使用の可能性は十分にある。地上を走る乗り物を生業にする企業としてロケットはそぐわないなどという了見の狭い主張はしないでほしいものだ。個人的には、No8箕内拓郎、FL浅野良太らを中心にした強烈なディフェンスを武器に2000年代初頭にタイトルを4度獲った名門の名前をおいそれとパトロンだけの都合で変えるべきではないと思うのだが…。

 

選手の契約形態について、同社長はJR東日本での社員契約、現行同様の嘱託契約(プロ契約)、出向(NEC等に勤務しながらのチーム参加)と、これまた柔軟な姿勢を語っている。NEC、JRでは、受け入れ先が決まったことで、これから来年7月まで、選手の希望などもヒアリングしながら個々の契約形態を決めていくが、現在も強化5競技を保有する新母体では、プロ契約の外国人選手も含めて受け入れは難しくないという。現在10~20億円と考えられるリーグワンチームの運営費も、JR側はここからどんな運営をしていくかを検討するとしながらも、譲渡と決めた時点で基本的には容認の方向だ。

 

現在、JR常磐線・天王台駅を最寄りとするNEC事業所内のグラウンド、クラブハウスについても、継続してJRが借り受けるような形態で使用を続ける。この事業所、ここまでの取材経験だと、NECが扱う先端科学技術の実験、研究を受け持つセクションもある機密性の高い施設でもあるが、関係者は「(従来よりも)すこし線を引くことになる」と、事業所施設とチーム施設の間にフェンス等の境界線を設ける見通しだ。

 

 

 

 

では、旧国鉄という公共性が重視される企業風土で、果たしてJRが事業化を掲げるラグビーリーグのチームを保有することに、どこまで価値があるのか。喜勢社長によると「ワン・フォー・オール オール・フォー・ワンというラグビーの精神は我が社の理念にも繋がるもの」と、その価値を認めている。旧国鉄時代のから現在のJR東日本レールウェイズが継承するラグビー部は創部100年の歴史を誇る。そしてJR東日本が、常磐線沿線地域の活性化を目指しこれまでも我孫子に大きな事業所を構えるNECと連携してきたことも大きな後押しになった。今季トップイーストC1位でB昇格を賭けた入替戦に挑むレールウェイズは品川で活動しているが、我孫子にチームを存続させるのも事業展開としてのメリットも感じてのものだ。

 

当面は、社業に取り組みながら強化を目指すレールウェイズと、チャンピオンシップラグビーを目指すグリーンロケッツという2段構えで活動することになりそうだが、リーグワンの現行規約では、リーグ内に同じ事業会社が複数チームを保有することは許されていない。万が一(は失礼か?!)レールウェイズの強化が進み、リーグワン参入となると、この2つのJRチームは事業形態(母体企業)の変更か統合という選択を迫られることになるが、レールウェイズが来季イーストリーグBに昇格しても、リーグワン参入は最速3シーズン後という現実を考えれば、喫緊の課題ではないということだろう。先ずはチームの受け入れがあり、その先どのようなチーム運営・強化、雇用形態になるか、段階的な修正を加えていくことになる。

 

諸問題は必ずあるだろうが、NEC上層部が「譲渡を決めた当初は、かなり難しいと思っていた」と漏らしたほど、譲渡先探しが難航すると思われていた。過去の楕円球の事例をみても、三洋電機→パナソニックのように企業同士の吸収・合併を除けば、置かれた状況は異なれど宗像サニックス、コカ・コーラと、他企業にチームが譲渡されたケースは日本ではほとんどない。それが、ほぼ倒産が現実的に考えられない有望企業が引き受けるという驚きの結末。会見での話を聞きながら、チームを手離すNECには恐縮ながら頭の中には「わらしべ長者」という言葉が何度も浮かんだ。

 

選手たちも、おしらく噂レベルでは諸々の情報が入っていたかも知れないが、この決定が正式に通達されたのは、発表当日だったという。開幕前に、大きなモチベーションが持てたのは何よりだが、夕方に開かれた緊急会見に参加したチームスタッフは「良かったし、新しい受け入れ先のためにもディビジョン1昇格という目標が出来た」と笑った。まだ譲渡先が不明瞭なタイミングで、チームはジャージーの左胸に4つの金色の星をプリントした。厳しい状況に置かれる中でも、自分たちの足跡をしっかりとまさに胸に刻みながら戦おうという気概が感じられた。

 

だが、この4つのタイトルを持つこともJR東日本の喜勢社長は受け入れるためのバリューだと会見でも語っている。この四つ星、JR常磐線沿線が拠点だったこと、同じグリーンがコーポレートカラーなど、数奇な偶然も相まって決まった巨大企業への譲渡。リーグワンの東海林一専務理事によると10社に近い企業が譲渡に関心を持つ中で、JR東日本が最も熱心に受け入れを検討し、NECとの当事者による話し合いで譲渡が決まったという。

 

実際には、企業側から手を挙げたのではなく、リーグワン側で譲渡の可能性、期待がありそうな企業等にアプローチしての〝関心〟だった。喜勢社長はJR東日本とNECのこれまでの関係性をチーム受け入れの大きな理由と語ったが、ここはビジネス界に精通するリーグワン玉塚理事長や東海林専務理事が、積極的に動いているという話も、ラグビー関係者からはオフレコで聞いていた。数週間前から、この企業の名前が浮上していたが、他にも某巨大インターネットビジネスを展開するグループや、スマホゲーム等で躍進するIT企業など共にスポーツチームも保有する組織へのアプローチもしていたが譲渡には至らなかったと聞くが、事業規模や保有社員数など企業としての容積を見れば、この譲渡劇はリーグ上層部のファインプレーと称えたい。

 

実は、12月2日に行われたリーグワン・メディアカンファレンスで、チーム広報及び出席したFL大和田立とは、近日中に譲渡がらみの思いを改めて聞きたいと相談をしていたが、その時点ではチームもこちらも受け入れ先が決まったとしても年明けかという認識だった。あまりに早い決定は、NEC、JR東日本、そしてリーグというステークホルダーが、選手のためにもリーグ開幕前に決めたいという思いもあった。そのため、単独インタビューは取り敢えずペンディングとして、どのような切り口のコラムを新たに書くかをこちら側で再度練り直すことに。ワイルドナイツとはまた異なる形でのチーム〝第2章〟のストーリーを描くのも楽しみだ。

 

NECグリーンロケッツ東葛としての最後のシーズンが間もなくキックオフを迎える。ディビジョン1昇格を決めて受け入れ先にもアピールをしたいが、そのための最大のライバルが現在リーグ唯一の電鉄会社というのも運命的でもある。

 

最後に、先にも触れたチーム名の独断を。定番なら「JR東日本グリーンロケッツ東葛」、オーナーが謙虚さをみせれば「東葛グリーンロケッツJR東日本」。東日本と東葛という地名が並ぶのを避けると、こんなところか。受け入れ企業がどんな価値観かはこれからだが、国内でこれだけ知名度のある企業もないのは間違いない。いっそのこと、企業名を取っ払った「東葛グリーンロケッツ」で通したほうが、企業としてのキャパシティの大きさと新しいチームというイメージ発信、そして何より格好いいと思うが、どうだろうか。

 

 

 

101回目のプロポ…否伝統の一戦。

すこし簡単に。

事前にSNSで呟いたように、紫紺がFWに拘り、過去100回と変わらずの緊迫の80分を勝者として終えた。

 

スクラムの苦闘は、神鳥裕之監督も「思っていたよりも圧力を掛けられなかった」と認めたが、それでも八幡山のフィフティーンは臆せずFWに拘った。開始直後のマイボールラインアウト。相手陣10mラインよりも手前だったがモールを組んで10mを押し込んだ。モール以外にも選択肢があっただろうが、迷いはなかった。

 

予断の許されない展開は続いたが、あの8人のパックを観て、なんだか幾何かの安心感も感じ取ったゲームでもあった。

 

その後も、何度もモールを組みじわりじわりと押し続ける。明治伝統の「前へ」をこのチームとして体現するプレー。前半31分には、ラインアウトからのモールで一度はサイドを突きながら、リモールを組んで、更にサイドを突いたFL最上太尊が、この試合のチーム初トライを奪い取った。

 

神鳥監督が振り返る。

 

「帝京戦を前に、特に学生たちが中心になって自分たちの強みというのを、しっかりと話し合った。答えとしてはね、明治はやはりFW。ここ中心にシンプルに戦うんだと。そういう戦いをすることでBKも生きる。帝京戦あたりから、そういう考えを皆が同じ共通理解の下で戦う準備が出来てきたというのが、今日の試合でも出たと思う。これはしっかり選手権まで持って行って、戦いたいと思います」

 

指揮官も指摘したように、帝京戦が選手を覚醒させた。シーズン開幕戦で筑波大に敗れ、帝京戦前の慶大との戦いは終了目前に18フェーズの猛攻を受けながら、相手の判断ミスで2点差で逃げ切った。チームは同じ方向に顔を向けているように見えても、個々に見ているページが異なるようにバラバラだった。それが、シーズン最強の真紅のジャージーとの勝負で一つになった。敵陣深く攻めこんだ後半24分の相手ペナルティー。PGでも、いまや大学屈指の選手が並ぶBKでもなく、FW勝負でリードを奪うトライを捥ぎ取り、ノーサイド目前の逆転決勝ペナルティートライにも結び付けた。

 

 

 

 

12月の第一日曜日も、相手の日本代表FB矢崎由高に華麗なフットワークと度肝を抜くスピードでスコアされても、愚直に、一貫してFWが前に出ることを前提とした戦いを貫いた。全てがFW一辺倒の勝負はしない。だが、FWが前に出ることで相手防御に重圧をかけ、2次、3次フェーズにモメンタムを作り出した。紫紺がマークした3トライ中2つは最上、つまりFWで仕留め、残り1トライはCTB東海隼が決めたが、それもPRの田代大介が相手のSO服部亮太のキックをチャージしてのもの。売り出し中の若き司令塔のキックモーションの大きさも頭に入れて、愚直に走り続けた巨漢の成果と称えていい。

 

白熱の戦いで、観戦した誰もが「?」となったプレーもあった。紫紺が18-16と追い上げられて迎えた後半27 分。再び服部にチャージ―をかけてのミスキックで掴んだ敵陣22mライン内でのラインアウト。モールを再び10m押し込んでの右展開で、パスを受けたFB古賀龍人が手前に弾いたボールを自ら好捕してグラウンディングしたが、レフェリーは古賀の捕球とほぼ同時にホイッスルを吹いてアドバンテージ解消による反則のジェスチャーをしていたのだ。

 

紫紺の選手が一斉にグラウンディングした位置を指差してトライだと訴えたが、ジャッジはそのまま紫紺のPKに。その場で、オンライン中継の画像を再生してもラインアウト→モール→右展開と反則は見当たらない。古賀が弾いたボールに他の誰かが触れていればトライは認められなかったはずが、それも確認出来ない。試合後の会見で、このシーンについてCTB平翔太主将に確かめると「レフェリーに確認したけれど、あれはトライだったということでした」というやり取りがあったという。その後、紫紺がモールからトライを決めたために大事にはならなかったが、レフはトライを決めた紫紺FW、そしてスコアラーの最上に感謝するしかないだろう。

 

このミスジャッジについては試合中からSNSなどで物議を醸していたようだが、レフェリーを詰る声に一言返す言葉があるとしたらこんなものになる。

 

「文句があるならアナタが笛を吹けばいい」

 

レフェリーに様々な意見があるのは周知のことだ。この試合に限らず、首をひねるようなジャッジも多々あるのは間違いない。だが、希望者も限られる中で毎週末の試合を、多くのレフェリーが全国のグラウンドに赴き、正直有難みは感じ難い〝経費〟だけで自分の週末を犠牲にし続けている。どんなにいいジャッジをしても、レフェリーが絶賛されるようなシーンはほとんどなく、何かミスや不明瞭な笛があれば、とりわけこの匿名性が大手を振るネット時代は容赦ない罵詈雑言が浴びせられる。

 

今回のケースでも「何故TMOを導入してないんだ」という主催者側へのイチャモンは正当性があるかも知れない。だが、ほとんど無償に近い待遇で、賞賛されることもほとんどない中で鍛錬を続ける31人目のプレーヤーを吊し上げる権利は誰にもない。

 

ここからは個人的な価値観に基づいた主張になるが、プロ化が進んだことによりTMO等の導入でジャッジの正確性、厳密さがさらに求められる時代ではあっても、ミスは起こり得るものだ。ミスもゲームの内で、それを楽しみたい。レフェリー本人は、ミスがあれば、そんな楽しむような心境ではないだろう。だが、レフェリーでも選手でもない観戦者は、ボールゲームを楽しめばいいのだ。

 

但し、忘れてはいけないのはミスは間違いなくミスで、弁解のしようがないということ。レフェリーはあの笛で、今後は同じミスは犯さないはずだ。今回、あまりにも明らかなものだったこともあるかも知れないが、その場でレフェリーが選手にミスを認めたのは、むしろファインプレーだったと解釈したい。あの場面で頑なに四角いものを丸だと主張しても、それは不当なジャッジをされた側にとってもフラストレーションや不信感、憤りだけを募らせることになる。確かに、あのジャッジ直後のラインアウトでのスローミスは心理的な動揺を感じさせた。だが、あの状況の中での咄嗟の判断でミスを認めるという最上のジャッジをしたと感じている。

 

再びチームに眼差しを向けると、神鳥監督にとっても現役部員にとっても初体験の優勝で対抗戦を乗り越えた。1位の〝ご褒美〟で、次のゲームは2週間後の関西学院大(関西3位)と福岡工大の勝者と決まった。帝京に続き早稲田を倒したことで、選手権制覇という大きなロードマップは見えてきたが、この日のスクラムやプレー精度では宿題も残している。神鳥監督が「接点とラインアウトモールの部分、FWの頑張りとBKのディフェンスという本当にシンプルな部分を80分間やり続けられたところが最後上回れたかなと思います。ただ、ここがゴールじゃありませんので、今日一日喜んで、明日からしっかり気持ちを切り替えて選手権を頑張っていきたい」と語るように、頂点に辿り着くためにはまだまだ磨き込む余地はある。

 

敗れたアカクロも、勝者と十分渡り合えるポテンシャルは証明した。精度の粗さはこのチームらしくないが、来週から始めるノックアウトトーナメントを勝ち上がりながらどこまで修正しているかが、敗れた真紅と紫紺にキャッチアップする鍵になる。

 

 

 

 

最後にスタンドの話を。終了近くのアナウンス「観客数は39084人です!」に歓声が沸いたが、個人的にはすこし肩が落ちる数字だった。事前に協会サイドから聞いた見通しどおりの数字ではあったが、どちらも勝てば対抗戦1位という実質上の優勝決定戦だったが、昨季の40544人に届かなかった。最近5シーズンでは2番目の入りではあったが、今でも必ず白熱の展開を見せる伝統の一戦も、コクリツという舞台を埋めるまでの集客力は無くなってしまったのか。

 

今季唯一の桜のジャージーの国立での試合もかろうじて4万台。リーグワンの開幕戦と呼んでいい来週、味の素スタジアムでのブレイブルーパスvsワイルドナイツも、現状4万に届かない見通しと聞く。

 

この日の見応えのある80分でも、茶の間や新橋の居酒屋に響かないとしたら、何かを変えていくことも必要だと考えるのが健全な判断だと思えるが、残念ながら楕円球の周辺からはそんな声は聞こえてこない。

 

 

 

12月3日に行われた2027年の〝ドロー〟についてのコラムをアップした。

 

この案件、結構「タラレバ」のハナシが多くなる。どう書くか――すこし悩んだ末、あまり生真面目の書くよりも、選手には申し訳ないが、すこしお遊びのマインドで書こうとキーボードを叩き始めた。

 

その結果が「プールB2位狙い」というものに帰結したのだが、皆さん2年後の戦いをどう考え、読んでいるのでしょうか?

 

 

 

 

6プールからのノックアウトトーナメントというフォーマット自体、いろいろな所に不具合がありそうだ。次回大会では微調整やフォーマットの見直しもあるかも知れないが、コラムでも触れた通り日本のドローについては、結構上手い事組まれたものだ。オーストラリアとの試合が与し易しでも、次の相手はイングランドが濃厚だ。スコットランドという難敵の後は日本が接戦を演じたフィジーないしウェールズ。 結局は「どこも同じ」に帰結するようだが、やはりベスト16越えは果たしたい。

 

 

 

 

JRFUおよびエディーは2019年の8強という過去最高位越えを唱えるが、前回(2023年)のプール戦敗退が起こした〝潮が引くような〟楕円球への関心度の減退を考えると、8強に辿り着くことの価値は軽視できないだろう。結果的に「ああ、前々回と同じなんだね」という、あまりパッとしない印象だったとしても、「またベスト8行けなかったんだ」と無関心さが増長してしまうより遥かにいい。もし16強を突破して8強越えに挑むなら、賞味期限1週間だったとしても日本全土に広がる関心と期待感という波紋は価値のあるものではないだろうか。

 

ま、御託を並べても所詮すべては憶測の世界のはなしだ。エディーも力説するように、目の前のゲームに集中するようなマインドで、まだまだトップ10には届かない桜のジャージーを、2003年のオーストラリアで命名されたBrave Blossomsに仕上げることが優先事項になる。