▲せっかくの好ゲームも、日本が誇るフットボールスタジアムはこの

観衆。〝カラオケ〟国歌斉唱も、ノンテストだったからだと信じたい…

 

 

マオリ第2戦のおさらいをアップしました。

 

初戦は個人、2戦目は課題の修正、進化とコラムをキャラ化出来たのは幸いだったが、いちばん平たくいえば、どの新チームでも取り組むだろう戦い方、個々のスキルのブラッシュアップと実戦慣れが、3戦目でパフォーマンスに繋がって来たと解釈してもいい。

 

「超速」を意識するあまり、若干暴走気味だったイングランド戦、マオリ第1戦から、ようやくゲームメーカーが、あるべき手綱捌きをしたゲームと捉えてもいいかも知れない。

 

 

 

 

「実践と修正」。そんな戦いが続く中で、コラムでは前回に引き続き持ち上げてしまったティアナン、そして若い矢崎と、次戦代選手が早くも輝き始めているのが、新しもの好きなエディーらしい。

 

コラムでは書き込まなかったが、ティアナンは試合後の囲みで「いつもと違うポジションで…」とNo8での途中出場を表現した。「?」と直感したのは、神戸であれだけプレーした(もちろん環太平洋大でも)ポジションを、何故こう語ったのか。言い間違えじゃなければ、日本代表の活動の中では、ティアナンは自分を「オープンサイドの選手」と認識しているからだろう。

 

そうなると、想像力はティアナン以外の選手、その起用法へと広がっていく。現有メンバーを見ると、新生エディージャパンのバックローは#6リーチマイケル、#7ティアナン・コストリー、そして〝帰国〟したばかりの#8テビタ・タタフというのがベストチョイスか。

 

 

 

 

そこに、オープンのエキスパート山本凱やLOも兼ねるアマナキ、そしてマキシらが絡んでくる。もちろん、その〝外周〟には、参加辞退中のピーター〝ラピース〟が#7、自らの強靭さが怪我を招いている?ガンちゃんの#6、LOとのユーテリティーでの#8ジャック、そして充電中の姫野和樹と、なかなか厚みのあるバックローが編成されることになる。

 

こういう流れだと、マイケルの4番チャレンジも現実味が出てきたりする。あとは、ここに60か月ルールーの陰で、どんな隠し球が潜んでいるのか。スピードへの順応がOKなら、粗さはあるがカイポウリのフィジカルなんかも魅力だが…。

 

バックローと共に興味深いのは、やはり司令塔争いだ。コラムでも触れたように、実績では松田力也が軸になりそうだが、贅沢言うともう1枚、相手が嫌悪感を感じる#10が欲しい。頭の中には有力候補はいるが…。そこに山沢拓也という特殊な存在が絡んでくる。エディーのプレースキッカーの起用法を見ても、矢崎由高への投資はこの先もありそうだ。まだまだ「不動の#15」という存在ではないが、松島幸太朗の対抗馬という位置に、残り3年間でどこまで肉迫するのか。こんな構図が現実化すると、山沢のFBでの起用は限定的になっていく可能性も出てくることになる。ここのバランスを上手く組み合わせないと、各々が中途半端な役割、パフォーマンスに終始するリスクもあるかも知れない。

 

ゲームコントロール、防御と修正力を見せて結果を掴んだ新生日本代表だが、サマーシリーズで残された2試合の勝敗は重要な意味を持つ。

 

ラグビー村を離れれば、失礼ながらジョージアは「どんな国?」レベルの認識だろう。そしてイタリアも、世界のラグビーの中で注視されていることは、〝村外〟では知られていない。せいぜいい「サッカーの強豪」くらいだ。現実は、鈴鹿で奮闘するキアナンさんが攻撃力を磨き上げ、新任のゴンサロが、さらにティア1で渡り合える戦闘集団に鍛え上げている強豪だ。

 

だが、このあまり認知度の高くない2か国に連敗したとしたら、世論としてのイメージはなかなか上がっていかないだろう。

「鳴り物入り」で復帰した10年前の名将が、5年前には世界のトップ8まで勝ち上がったチームを、「強豪国」とは認識されていないチーム相手に勝てなかった――。こんなストーリーは回避したいものだ。

 

エディーのことだ。マオリ第2戦のように、若手への投資をアピールしながらも、あのベンチメンバーのように、勝つためのスパイスを、どこかで利かせてくるだろう。そんな観点でも、杜の都、北の大地でのテストシリーズに注目したい。

 

 

 

 

いよいよ勝負のマオリ戦第2ラウンドが近づいてきた。

試合後のコラムの前打ち代わりに、前日、前々日の動きをお知らせしておこう。

 

前日練習は、両雄ともこのシリーズの定番となった試合会場を使わずに、XVが宮崎、そしてマオリは名古屋の宿舎で。直接覗いたマオリは、なんと名古屋市内のホテルにあるわずか1面のテニスコートで! 終始和やかな雰囲気で、当初は開始15分だけ公開としていたものを小一時間のメニュー全てをオープンにして行った。とはいえ、内容はテニスボールキャッチやハカの確認など。しかし、調整レベルの内容とはいえ、合間合間に何度もハドルを組んで、チームの一体感だけはしっかりと確認し続けていたのが印象に残る。

 

 

 

 

事前には9:30から豊田スタジアムでの練習を組んでいたマオリだが、日本メディアに変更が知らされたのは前日21:25のこと。どうやらJRFUに変更が届いたのも20時台だったようなので、本当に急変ということだったようだ。とばっちりで、豊田市の宿から早朝の名古屋に移動してきた取材陣もいたが、ロス・フィリポHCは、このドタ変をこう説明している。

 

「今週はかなり多忙になっていた。昨日も東京からこちらに来て、移動の時間もすごく長かった。なので今日わざわざスタジアムに行って、長い時間またバス乗るよりも、ここでしっかりと自分たちがやることをクリアにして、過ごすほうがいいと感じました」

 

 

▲ホントにテニス練習していたマオリの人たち

 

 

確かに、名古屋の街中の、世界的に知られるゴージャスなホテルHから、酷暑の中を往復2時間かけて試合前日にスタジアムへ行くことのリスクは間違いなくある。そもそも、名古屋に泊まるのもいかがなものかだが…。豊田の街中にも、テストマッチクラス(かろうじて)のホテルが2軒ある。以前だとスコットランドなんぞは、この2軒をジャパンとシェアして宿泊していたが、マオリサイドはホストであるJRFUが名古屋の「名立たる」ホテルと、世界的には無名の地元ホテルを紹介すると、前者を選んだそうな。まぁ、滞在経験なければ、ある程度想像できるほうの高級ホテルを選んじゃうか。

 

ロスHCの後に取材に応じたCTBラメカ・ポイヒピ主将には、第1ラウンドについて感じたことをぶつけてみた。

 

よ 「先週はXVに序盤戦でかなり攻められながら6連続トライで快勝しています。彼らは新しく集められた、とても若いチームなので、試合前の分析というよりも、試合をする中で彼らの戦いぶりをしっかりと読み取り、対応出来たのでしょうか」

 

 

ラ 「ええ、確かに日本チームはスピードもあって、試合の中で何をするかがすごく明確にあった気がします。そのなかで、自分たちがしっかり対応出来ていたかなという実感はありますね」

 

 

 

 

80分という時間の中で、相手がどう戦ってくるかを理解して、対応していく。NZの選手が最も長けた部分だ。第1ラウンドでも、実際にはあの編成で初めてのゲームになるXVに対して、10数分の時間を追うごとに、そのラグビースタイル、プレー傾向、そしておそらく「穴」も解析したからこそ、モールからのスコア、大外を崩したラインブレークを頻発させたのだろう。この能力があるからこそ、次戦もXVにとっては容易じゃないゲームになる。

 

で、迎え撃つXVは宮崎から飛んできて、麻田一平スキルコーチ、PR三浦昌悟、そしてハルことCTB立川理道という若干三河臭の強い編成で、この日は用がない試合会場入り。ハルには、代表に戻って来た思いと、若いチームだからこそあるだろう自らが果たすべき役割を聞いた。

 

「本当に代表に戻って来れて嬉しい気持ちもありますし、その中でも矢崎なんかは15も下ですし、かなり年齢の差ありますけれど、練習も含めてハードワークするというところは間違いなく自分もやらないといけない仕事だと思うし、ピッチ以外でもしっかりサポート出来る事はあると思っているので、そういうところでも自分の役割というのは求められているのかなと思っています」

 

 

▲灼熱の豊田スタジアムでは会見はあっても、前日練習はナシ💦

 

 

追加招集としてチームに合流したハルだが、実は事前にエディーとは話し合いがもたれていたという。リーグワン終盤にハルが怪我を抱えたこともあり、招聘が見送られてきたが、離脱選手が生じたタイミングもあり、今回の合流になった。

 

話は、1日前のオンライン会見に遡る。SH齋藤直人、HO原田衛両キャプテンを従え宮崎からオンライン会見を行ったエディーには、先ずあらためてこのXVによる2試合の位置づけ、何にプライオリティーを置いた試合、メンバー選考なのかを聞いた。

 

「若手の選手たちにチャンスを与えるというところがメインになります。また、ジャパンからもインターナショナルのキャリア、国際的なテストマッチプレーヤーとして活躍するキャリアをスタートしたばかりの選手も多いという点と、リーグワンではなかなかゲームタイムを得られなかった選手を起用したい目的もありました。原田はまだ国際試合の経験をスタートしたばかりだし、齋藤は所属チームでのゲーム時間が少なかった。選手それぞれで、プレー時間を増やすことも一つの目的です」

 

ま、一言でいえば「投資」の時間ということだ。だが、この会見でエディーにもう一件聞きたかったことがベテランCTBの招聘についてだった。

 

 

▲スタジアム前の温度計…見るだけで汗がにじむ

 

 

よ 「久しぶりに代表に立川理道を呼んだが、若い選手揃いの平均年齢をすこし上げる以外に何を期待しているのか」

 

エ 「立川については、若手のロールモデルとしてプレーしてほしいという思惑もあります。 2015年も一緒にやりましたが、プロ意識が高く、真剣にラグビーに取り組んでいる姿勢をとてもよく覚えています。所属するスピアーズでも優勝の経験をしていますし、若手にはこういう経験値の高い選手から学ぶ点は多いと思っています」

 

コーチというのはつくづく好き嫌いがあるもんだと感じさせる。もちろん、それでいいのだが、前体制でもハルの追加招集はあったが、なんだか期待感はさっぱりという印象だった。エディー体制で呼び戻されたハルだが、指揮官の思惑とは裏腹に、期待に応えられないことだってあり得るだろう。だが、U20日本代表時代から注目され、天理大4年の大学選手権決勝では、あの帝京大を華麗なフラットラインで追い詰めた男だ。ラグビーの能力以外でも、誰からも慕われるこのリーダーを、こういう期待感に満ちた言葉で歓迎するのがエディーらしい。

                                            

指揮官は、合宿でのこんなエピソードも語っている。

 

「若手でいえば、例えば矢崎に関してはジェネレーションギャップがどうしてもあるようで、先日の夕食の時に、名前は忘れたが昔のおもちゃの話題になったときに、彼だけわかっていなかったなんて話になったんです。こういう時に、ハルみたいなベテランが若手にとっていい影響があると期待しています」

 

孤立しがちな新世代の選手を、軽くイジリながらでも、包容力を持ってチームへと馴染ませていくような芸当が出来るのが、ハルのような存在だ。FWではリーチマイケルのような存在はいたが、BKは残念ながら、そんな包容力や豊富な経験値を持ったリーダーが不在だった中で、ハルの加入には意味がある。彼の存在が、若いジャパンに相乗効果、化学変化を起こすことをエディーは期待しているのだ。

 

本人のためにも(かな?)、ここでは具体的には触れないが、当然、2015年以降、なかなか代表に定着できなかったマイナス点も明らかにある。それが、過去に強豪ACTブランビーズでの挑戦も、敢え無く1シーズンで終わった理由の一つだろう。だが、その一方で、チームの最年長としてスピアーズを引っ張る中で、課題を克服しようというチャレンジも続けてきたのが立川理道だ。

 

果たして追加招集の34歳が、この先、どこまでファーストチョイスのメンバーに食い込めるかはハル次第だろう。だが、エディーはこんな思惑を語っている。

 

「ハルは10と12両方での起用を考えています。どちらでも活躍できると思うが、我々のやりたいラグビーに、どれだけ順応できるかを見たいのです。ジャパンとジャパンXVの1試合ずつを経て、いま10番のポジションのオプションには、李、山沢、松田、立川と選手層が厚くなっている印象です。2試合で4枚にまで層を厚くできている。非常に喜ばしいことですし、今後は各ポジションでこういった選手層をどんどん厚くしたい。オプションがあるとセレクションはとしても難しいものになるけれど、それは喜ばしいことですから、それぞれの選手の強みを生かしながら、困難になっていけばいいと思います」

 

こんな争いが増えれば増えるほど、第2次エディージャパンがブーストされていくことになる。まずは、マオリ第1ラウンドの学びから、どこまでブースト出来ているかに期待したい。

 

 

▲会見での3人の表情と姿が、このゲームをどう受け止めているかを物語っている…

 

 

 

午前中にはアップしているので手短に。

 

マオリとの第1ラウンドをすこしまとめた。

編成は変われど、チームの仕上がりや戦闘能力はイングランド戦からの延長戦上にある。ここらレベルの相手と、そう安々と目に見える結果が出るのでもないのは当たり前。イングランド戦コラムから〝切り口〟を変えたものをと考える中で、こんな内容に。

 

 

 

 

本来なら、豊田での第2ラウンドを終えてという内容ではあるが、あまりにも見事にノンキャップ、イングランド戦初キャップ組がインパクトを残したことで、このタイミングでかこうという判断。

 

目線を変えれば、「個」としてのパフォーマンスに見るべきものがあった一方で、「組」としては、まだまだ。彼ら〝チルドレン〟のパフォーマンスも断片的だったという評価に止まる。生みの苦しみはいつまで続くのか。

 

そんな中では、時間がかかるものと決めつけていたスクラムには感心させられる。コラムでもすこし触れたように、8人のパック、つまりフラットで低い位置で組むフォルムとセットアップ、そしてギリギリ突っかける速いヒットが、いまのところはアーリーエンゲージを回避している。ここは、オーウェンの落とし込みなのか。断片的には、セッション以外の時間も相当密度の高い、いや密着度の高い絆を築いているとも聞く。

 

マオリ2戦目で、どこまで進化を見せることが出来るのか。初戦を見る限り、キャップ数=テスト経験値は似たようなものだが、しっかりとスコアに持っていくノウハウと状況に応じた判断力では、遥かに上の相手だ。モールからのバリエーション1つとっても、XVにやってほしいような仕留め方もみせた。

 

最後に個人的な意見を。ここ10年以上のこだわりではあるが、モールには、あまり拘り過ぎないのがいい。確かに確度の高い得点源かも知れないし、日本選手の細かさが、相手に優位に立てる術かも知れないが、所詮つまらないし、超速でもない。マオリが一本獲った、モールを組んだ瞬間、一気にピッチ内側にアングルをかけて、その流れのままFLビリー・ハーモンが同じ方向に切れ込むトライのような技があれば、話は別物になるのだが。

 

土曜のトヨタは、あのデカい器での収穫が不安でもあるが、まずは今宵のメンバーから注目したい。すこし経験値の高いめんばーを入れ込めば、スコアは改善されるかも知れないが、やはり〝投資〟重視でいいのではないだろうか。大事なのは3年後のリターンなのだから。

 

▲会見に出席したキッドウェルAC。リーグ仕込みのタ

クルが炸裂すれば、マオリ撃破も見えてくるのだが…  

 

 

桜とマオリの勇者が相まみえるまで半日あまり。イングランド戦同様に、試合後のコラムを用意するが、今回も〝前打ち〟という位置づけで決戦前の情報をお伝えしておこう。

 

前々日のメンバー発表、前日のキャプテンズランに伴い、それぞれコーチ、選手が取材に応じて、勝利への思いを語っている。ちなみに、両チームとも試合会場での前日練習はなし。いつもとは異なるやり方だが、昨秋のフランスでも、試合会場の都合だったが、同じパターンもあった。これから、こんなテストマッチも出てくるかもしれない。

 

メンバー発表に伴い、ジャパンXVはエディーさん、そしてHO原田衛、SH齋藤直人の共同主将、マオリはロス・フィリポHC、お馴染みFLビリー・ハーモン主将と、初選出のベンチメンバー、CTBタナ・トゥハカライナ、そして前日会見には日本がデイビッド・キッドウェルACとFL下川甲嗣、マオリは元NECのグレッグ・フィ―クACと、これまたベンチスタートの21歳、SOラメカ・ポイヒピが取材に応じている。

 

先ず、前々日のメンバー発表会見。宮崎からのオンラインでのエディーの言葉から紹介するが、メンバーを見て最も「!」と感じたポジションについて聞いてみた。

 

よ 「リザーブにバックローがいないが、どんな思惑か」

 

エ 「本橋拓馬を今後4番ないし6番ということで考えています。そちらも試してみたいと思います。もちろん福岡で6番も練習させていますが、まだまだ若い。今後のキャリアとしてどういう方向に行くのかまだ定まらないところはある。でも、本人の強みであるキャリーやタックルの強さで、この2つのポジションの役割で重要だと考えています」

 

 

 

 

ベンチから何分に投入されるかは試合展開次第だが、この潜在力抜群の22歳が、どこまでブラインドサイドとして機能出来るかは見物だ。もし、彼がエディーの期待に応える資質を見せるとすると、このポストでは、エディンバラに飛び立ったU20日本代表石橋チューカと共に〝ポストリーチ〟を争うことになる。

 

もう1人、個別選手について聞いてみたのは「10」の起用について。

 

よ 「山沢を今回SOで使っているが、FB専従ではなく、やはり併用なのか」

 

エ 「その通りで、10番、15番の選手だと思っています。代表スコッドには15番でセレクションしていますが、練習中にSOに入った時に非常にシャープな動きをしているのも見ています。ですから、今週末の試合では、SOでプレーするいい機械です」

 

イングランド戦後のコラムでも書いたが、あの自陣からの仕掛けで駆使したステップとスペース感覚を見てしまうと、ボールをより持てる機会が多い10番で、この閃きを使いたい誘惑は当然のことだろう。

 

エディーさん、会見では「ジャパンXVというのは、日本代表ではないので、全く違うチームと考えていますし、我々としてはもう一度スタートする、再スタートという風に捉えています」とは語るが、選手にとっては、どこまでエディーにパフォーマンスを認めさせるかという観点では先週の国立のゲームとそう違いはない。金曜日に対面で取材に応じた下川は、こんな思いを語っている。

 

「 当然 日本代表の試合ではないですが、やはりこの試合でのパフォーマンス(をしっかり見せたい)とか、イングランド戦に出てないメンバーはハングリーな気持ちを持っている。自分自身もそういう気持ちで臨みたい」

 

すでに世界の舞台を経験する下川だが、まだまだ和製バックローとしては〝期待の若手〟の位置づけだ。この原石が、エディーの唱える「超速」をどう解釈し、パフォーマンスするのかも興味深い。

 

「ワークレートのところで強みをみせたい。まだフィジカリティでは同じポジションの選手の中でも劣る部分もあると思いますが、プレーの反復、連続性だったり、しつこさというところで日本人バックローとして勝負していきたいし、エディーさんからも、1つのプレーで終わるんじゃなくて、すぐに起き上がって次の仕事を見つけてそこに動き出すというところを言われています」

 

 

 

 

将来性は抜群の一方で、それぞれのポジションの中でも日本選手には激戦区だ。土曜の夜の6番のワークレートと献身さに注目してほしい。

 

では、対戦相手のマオリは、日本をどう見ているのか。今は亡き清涼飲料水チームでコーチ経験もあるフィリポHCのジャパン(XV)も、前々日のオンラインでこんな印象を語っている。

 

「イングランド戦を振り返ると、とてもいいチームになっている印象を受けます。もちろん新しいコーチ、新しいスタイルというのを身につけていく時期だと思うので、大変な時期かも知れないが、後々世界で戦える選手がどんどん出てくるのかなという印象です。とても流れのあるプレーをしていたので、イングランドが苦しめられる場面もあった印象です。なので、我々もあまり 勢いを与えてしまうと危険だなと警戒をしています」

 

多分に社交辞令があったとしても、あまり走らせないという日本チームと戦う上での鉄則は十分に心得ている。その一方で、歴代のマオリの戦いぶりを考えると、個々のスキル、判断力を生かして防御を崩すと、一気にフィニッシュまで持っていく奔放さ、アグレッシブさを持ち併せたチームだ。もし、ノーガードの打ち合いのような展開になったとすれば、このビジターの土俵で相撲を取るリスクも十分にある。

 

 

 

 

2日間の会見の中で、いいヒントだと期待したいのは下川の言葉だった。

 

「基本的に自分たちのベースになるところは先週と変わらない。ただ明日の試合では、セットピースのところ、起点のところでゲームに勢いをつけるところを、1週間かけてやってきました。FWとしてはセットピースのところに時間を割いて、ウォークスルーだったりグラウンド外でもやりましたし、その部分は明日の試合 しっかりと結果を残したい」

 

イングランド戦でも成功率100%だったスクラム、ラインアウトは継続して強みにしたいという思惑だが、同時にマオリの奔放さを好きなように発揮させないためには、セットでどこまで重圧を掛けられるかが勝負だ。相手より長身のセカンドローを配していたイングランド戦とは高さに差があるぶん、リスクはあるが、先日アップしたコラムでも触れたように、22日のファーストラインアウトのように、セットアップの早さも駆使して、スピードとタイミングで勝負できれば面白い展開も期待できる。

 

会見で、選手以上に質問を楽しみにしていたのは、金曜日の会見に対面で参加したデイビッド・キッドウェルACだ。リーグラグビー選手として母国NZのW杯制覇などの実績を持ち、引退後もリーグの世界でコーチを続けてきた。写真からもお判りだろうが、マオリの地を引き、リーグのマオリ代表でもプレーしている。そして、昨秋のW杯フランス大会で日本も完敗したアルゼンチ代表のディフェンスコーチとしてチームのトップ4入りに貢献。大会後にオーストラリアのリーグチームからコーチ就任のオファーもあったが、エディーの誘いを受けて日本にやって来た。

 

イングランド戦での失トライ8は、防御面ではいただけないが、ここはまだ相当に熟成途中。タックルのエキスパートは、「超速」というコンセプトの中でのディフェンスについて、こんな話をしてくれた。

 

「自分たちのディフェンスアイデンティティーというのは、相手の攻撃をスローダウンさせて、 自分たちのディフェンスラインを早くセットするというものです。我々はツーメンタックルとフィニッシュ・オン・トップというのを重点的に取り組んでいます」

 

フィニッシュ・オン・トップは、タックルした選手が倒した相手の上に乗るような形で倒れることで、相手の速い球出しを阻止しようというスキルだ。ツーメンタックル、いわゆるダブルタックルはいまや定番のプレーではあるが、このタックルのスペシャリストは、日本選手の資質をすでに読み取り始めている。こんなやり取りをしてみた。

 

よ 「日本にはリーグラグビー選手のようなスーパーフィジカルな選手はいないが、今までのコーチングと違うものを落とし込んでいるのか」

 

キ 「日本人選手は、フィジカルになれる選手が多いと思います。テクニックは持っているのです。そのスキル、テクニックがある中で、いかに疲労の中でタックルをリピート出来るかに一番 フォーカスしています。日本人選手はすごく足腰が強いというのを実感しているので、その足をいかに活かせることができるかですね。出来るだけ足を、相手に接近させて肩をぶつけるというところをやっています。付け加えると、日本選手には自分たち出来るんだという信念を持って欲しい。その信念を持って、自分たちでどんどん前へと前進出来ることを、みんなに理解してもらいたいのです」

 

日本人選手の足の短さも、ラグビーで役に立つのだと、あらためて感心させられたが、キッドウェルACは、さらに資質を指摘している。

 

「菅平(トレーニングスコッド合宿)から6週間半、朝6時からのトレーニングを続けてきましたが、日本人選手がすごくいいマインドセットで、毎日朝早くてもちゃんと時間通りに来てやっている。皆、上達するための高い向上心と、エナジーを持ってやっているので、私も楽しく コーチングをしながら、一つずつ基礎を落とし込んでいます」

 

日本人の勤勉さを指摘するコーチは、これまでも沢山いたが、〝究極の弱点〟ともいえるタックルの領域でも、日本選手特有の持ち味が生かされるのなら、興味深い〝化学変化〟もあるかも知れない。

 

ゲーム自体はテストマッチではないが、経験値という観点で先発15人の総(代表)キャップ数を比べると、XVの51に対してマオリは70(手元集計なので誤差あればゴメン)。ほぼイコール状態と捉えるのが適切だが、詳細を見るとマオリのキャップ数は、#1ジョー・ムーディーの57Cがその大半を占めている。つまり、ほぼノンキャップに近いビジターに、1人平均3.4Cのヤングジャパンが挑むことになる。経験値の優位性を出したい一方で、相手は来日直前までSRPで熱戦を繰り広げていたメンバーたちだ。体のフィットという点では万全だろう。厳しい戦いの中で、もし、リーグ仕込みのタックルがマオリ特有の奔放なアタックに楔を討つことが出来れば、興味深い展開になるのだが。

 

イングランド戦もだったが、今回のノンテストも、チケット販売という戦いは、やや苦戦という見通しだ。良ければ15000を超える席が埋まるが、伸びが無ければ10000そこそこの恐れもある。続く三河での巨大スタジアムも然り。

 

ここで、一発快勝でもできれば、豊田、そして仙台、札幌で再開されるテストマッチにも弾みになるはずだが…。

 

 

 

ラグビーファン、関係者の目線が桜のジャージーに注がれるタイミングながら、ブレイブルーパスの復活を、ピッチの外にいるGM目線で語っていただいた。

 

生まれ出ずる時からのルーズさでこんなタイミングになってしまったが、そこには前後編に広がってしまったボリュームも影響した。書くに至ったモチベーションは、GM目線というより薫田目線といったほうが適切かも知れない。

 

この輝かしい足跡も残してきた勝負師が、チーム&親会社の低迷とも向き合いながら、選手に何を求め、何を整え後押ししてきたのか。こんな薫田真広の仕事をすこし書き残しておきたかった。

 

 

 

 

 

 

 

結果的に、予定していた時間を遥かに超えたインタビューとなったが、このボスらしさを感じさせられる話が続いた。そして、あらためてこのチームが残してきた足跡、そして一度は地に堕ちながらも守り続けている伝統と矜持を再認識させられた。

 

「リーグワン」という変革期に、多くのチームが組織、強化体制を刷新する中で、ブレイブルーパスのように、自分たちの築き上げてきた価値観や文化を、どこまで残していけるのか。一部のチームは、そこが根こそぎ失われてしまうのではないかという危惧がある中で、こんなチームが覇権を取り戻したことに価値がある。

 

もちろん、大半のチームはそんな栄光の歴史を持てていないという現実もあるのだが、それでも10年、数十年とチームが続けば、悪しきものもあるだろうが、良き文化、伝統は必ずある。そこを、どう新しい体制の中で残していけるかは、やはり薫田GMのようなチーム側のマネジメントが欠かせない。

 

薫田エンマ帳の中身をお知らせ出来なかったのは残念だが、そこには、こちらも感心するような細目が数値化され、蓄積されている。コラムでは省いたが、この数字が、選手の成長、進化を促すのと同時に、選手にチーム内でプレーを続けないという選択、決断をさせるためにも重要な役割を担う。完全プロ化はかなりSFの領域にしても、プロ的なアプローチでチーム作りが進む中では、このエリアは実はかなり意味のあるものだ。

 

 

 

 

この数値化に関しては、おそらく薫田GMだけが取り組んでいるものでもないし、最新のものでもないかも知れない。どのチームでも選手評価は、様々な取り組みが進んでいるはずだ。ここでは「優勝」という成功の中で、薫田GMの仕事として紹介している。このような選手評価はこれからも進化し、新たなシステムや考え方が、それぞれのチームで採用されていくだろう。グラウンドでのパフォーマンスとは離れたフィールドの〝ゲーム〟なので、脚光を浴びるのは限定的だが、もしかしたらサンバーメトリックスのような、時代を先駆け、従来とは異なる視点から選手を見つめ、評価するシステムが生まれるかも知れない。

 

話がブレイブルーパスの勝利から脇道に逸れたが、この優勝で、リーグの活性化が更に高まるのは歓迎するところだろう。新たなフェーズに入った日本ラグビーの中で、伸びしろばかりのチームが並んでいるからこそ、地殻変動の余地は十分にある。だが、その中で、ルーパスとGMがこだわり続けた《自分たちの足跡の先に進んでいけるチームを作っていけるのか》はすべてのチームにとって大きな挑戦になる。