▲会見に出席したキッドウェルAC。リーグ仕込みのタ
ックルが炸裂すれば、マオリ撃破も見えてくるのだが…
桜とマオリの勇者が相まみえるまで半日あまり。イングランド戦同様に、試合後のコラムを用意するが、今回も〝前打ち〟という位置づけで決戦前の情報をお伝えしておこう。
前々日のメンバー発表、前日のキャプテンズランに伴い、それぞれコーチ、選手が取材に応じて、勝利への思いを語っている。ちなみに、両チームとも試合会場での前日練習はなし。いつもとは異なるやり方だが、昨秋のフランスでも、試合会場の都合だったが、同じパターンもあった。これから、こんなテストマッチも出てくるかもしれない。
メンバー発表に伴い、ジャパンXVはエディーさん、そしてHO原田衛、SH齋藤直人の共同主将、マオリはロス・フィリポHC、お馴染みFLビリー・ハーモン主将と、初選出のベンチメンバー、CTBタナ・トゥハカライナ、そして前日会見には日本がデイビッド・キッドウェルACとFL下川甲嗣、マオリは元NECのグレッグ・フィ―クACと、これまたベンチスタートの21歳、SOラメカ・ポイヒピが取材に応じている。
先ず、前々日のメンバー発表会見。宮崎からのオンラインでのエディーの言葉から紹介するが、メンバーを見て最も「!」と感じたポジションについて聞いてみた。
よ 「リザーブにバックローがいないが、どんな思惑か」
エ 「本橋拓馬を今後4番ないし6番ということで考えています。そちらも試してみたいと思います。もちろん福岡で6番も練習させていますが、まだまだ若い。今後のキャリアとしてどういう方向に行くのかまだ定まらないところはある。でも、本人の強みであるキャリーやタックルの強さで、この2つのポジションの役割で重要だと考えています」
ベンチから何分に投入されるかは試合展開次第だが、この潜在力抜群の22歳が、どこまでブラインドサイドとして機能出来るかは見物だ。もし、彼がエディーの期待に応える資質を見せるとすると、このポストでは、エディンバラに飛び立ったU20日本代表石橋チューカと共に〝ポストリーチ〟を争うことになる。
もう1人、個別選手について聞いてみたのは「10」の起用について。
よ 「山沢を今回SOで使っているが、FB専従ではなく、やはり併用なのか」
エ 「その通りで、10番、15番の選手だと思っています。代表スコッドには15番でセレクションしていますが、練習中にSOに入った時に非常にシャープな動きをしているのも見ています。ですから、今週末の試合では、SOでプレーするいい機械です」
イングランド戦後のコラムでも書いたが、あの自陣からの仕掛けで駆使したステップとスペース感覚を見てしまうと、ボールをより持てる機会が多い10番で、この閃きを使いたい誘惑は当然のことだろう。
エディーさん、会見では「ジャパンXVというのは、日本代表ではないので、全く違うチームと考えていますし、我々としてはもう一度スタートする、再スタートという風に捉えています」とは語るが、選手にとっては、どこまでエディーにパフォーマンスを認めさせるかという観点では先週の国立のゲームとそう違いはない。金曜日に対面で取材に応じた下川は、こんな思いを語っている。
「 当然 日本代表の試合ではないですが、やはりこの試合でのパフォーマンス(をしっかり見せたい)とか、イングランド戦に出てないメンバーはハングリーな気持ちを持っている。自分自身もそういう気持ちで臨みたい」
すでに世界の舞台を経験する下川だが、まだまだ和製バックローとしては〝期待の若手〟の位置づけだ。この原石が、エディーの唱える「超速」をどう解釈し、パフォーマンスするのかも興味深い。
「ワークレートのところで強みをみせたい。まだフィジカリティでは同じポジションの選手の中でも劣る部分もあると思いますが、プレーの反復、連続性だったり、しつこさというところで日本人バックローとして勝負していきたいし、エディーさんからも、1つのプレーで終わるんじゃなくて、すぐに起き上がって次の仕事を見つけてそこに動き出すというところを言われています」
将来性は抜群の一方で、それぞれのポジションの中でも日本選手には激戦区だ。土曜の夜の6番のワークレートと献身さに注目してほしい。
では、対戦相手のマオリは、日本をどう見ているのか。今は亡き清涼飲料水チームでコーチ経験もあるフィリポHCのジャパン(XV)も、前々日のオンラインでこんな印象を語っている。
「イングランド戦を振り返ると、とてもいいチームになっている印象を受けます。もちろん新しいコーチ、新しいスタイルというのを身につけていく時期だと思うので、大変な時期かも知れないが、後々世界で戦える選手がどんどん出てくるのかなという印象です。とても流れのあるプレーをしていたので、イングランドが苦しめられる場面もあった印象です。なので、我々もあまり 勢いを与えてしまうと危険だなと警戒をしています」
多分に社交辞令があったとしても、あまり走らせないという日本チームと戦う上での鉄則は十分に心得ている。その一方で、歴代のマオリの戦いぶりを考えると、個々のスキル、判断力を生かして防御を崩すと、一気にフィニッシュまで持っていく奔放さ、アグレッシブさを持ち併せたチームだ。もし、ノーガードの打ち合いのような展開になったとすれば、このビジターの土俵で相撲を取るリスクも十分にある。
2日間の会見の中で、いいヒントだと期待したいのは下川の言葉だった。
「基本的に自分たちのベースになるところは先週と変わらない。ただ明日の試合では、セットピースのところ、起点のところでゲームに勢いをつけるところを、1週間かけてやってきました。FWとしてはセットピースのところに時間を割いて、ウォークスルーだったりグラウンド外でもやりましたし、その部分は明日の試合 しっかりと結果を残したい」
イングランド戦でも成功率100%だったスクラム、ラインアウトは継続して強みにしたいという思惑だが、同時にマオリの奔放さを好きなように発揮させないためには、セットでどこまで重圧を掛けられるかが勝負だ。相手より長身のセカンドローを配していたイングランド戦とは高さに差があるぶん、リスクはあるが、先日アップしたコラムでも触れたように、22日のファーストラインアウトのように、セットアップの早さも駆使して、スピードとタイミングで勝負できれば面白い展開も期待できる。
会見で、選手以上に質問を楽しみにしていたのは、金曜日の会見に対面で参加したデイビッド・キッドウェルACだ。リーグラグビー選手として母国NZのW杯制覇などの実績を持ち、引退後もリーグの世界でコーチを続けてきた。写真からもお判りだろうが、マオリの地を引き、リーグのマオリ代表でもプレーしている。そして、昨秋のW杯フランス大会で日本も完敗したアルゼンチ代表のディフェンスコーチとしてチームのトップ4入りに貢献。大会後にオーストラリアのリーグチームからコーチ就任のオファーもあったが、エディーの誘いを受けて日本にやって来た。
イングランド戦での失トライ8は、防御面ではいただけないが、ここはまだ相当に熟成途中。タックルのエキスパートは、「超速」というコンセプトの中でのディフェンスについて、こんな話をしてくれた。
「自分たちのディフェンスアイデンティティーというのは、相手の攻撃をスローダウンさせて、 自分たちのディフェンスラインを早くセットするというものです。我々はツーメンタックルとフィニッシュ・オン・トップというのを重点的に取り組んでいます」
フィニッシュ・オン・トップは、タックルした選手が倒した相手の上に乗るような形で倒れることで、相手の速い球出しを阻止しようというスキルだ。ツーメンタックル、いわゆるダブルタックルはいまや定番のプレーではあるが、このタックルのスペシャリストは、日本選手の資質をすでに読み取り始めている。こんなやり取りをしてみた。
よ 「日本にはリーグラグビー選手のようなスーパーフィジカルな選手はいないが、今までのコーチングと違うものを落とし込んでいるのか」
キ 「日本人選手は、フィジカルになれる選手が多いと思います。テクニックは持っているのです。そのスキル、テクニックがある中で、いかに疲労の中でタックルをリピート出来るかに一番 フォーカスしています。日本人選手はすごく足腰が強いというのを実感しているので、その足をいかに活かせることができるかですね。出来るだけ足を、相手に接近させて肩をぶつけるというところをやっています。付け加えると、日本選手には自分たち出来るんだという信念を持って欲しい。その信念を持って、自分たちでどんどん前へと前進出来ることを、みんなに理解してもらいたいのです」
日本人選手の足の短さも、ラグビーで役に立つのだと、あらためて感心させられたが、キッドウェルACは、さらに資質を指摘している。
「菅平(トレーニングスコッド合宿)から6週間半、朝6時からのトレーニングを続けてきましたが、日本人選手がすごくいいマインドセットで、毎日朝早くてもちゃんと時間通りに来てやっている。皆、上達するための高い向上心と、エナジーを持ってやっているので、私も楽しく コーチングをしながら、一つずつ基礎を落とし込んでいます」
日本人の勤勉さを指摘するコーチは、これまでも沢山いたが、〝究極の弱点〟ともいえるタックルの領域でも、日本選手特有の持ち味が生かされるのなら、興味深い〝化学変化〟もあるかも知れない。
ゲーム自体はテストマッチではないが、経験値という観点で先発15人の総(代表)キャップ数を比べると、XVの51に対してマオリは70(手元集計なので誤差あればゴメン)。ほぼイコール状態と捉えるのが適切だが、詳細を見るとマオリのキャップ数は、#1ジョー・ムーディーの57Cがその大半を占めている。つまり、ほぼノンキャップに近いビジターに、1人平均3.4Cのヤングジャパンが挑むことになる。経験値の優位性を出したい一方で、相手は来日直前までSRPで熱戦を繰り広げていたメンバーたちだ。体のフィットという点では万全だろう。厳しい戦いの中で、もし、リーグ仕込みのタックルがマオリ特有の奔放なアタックに楔を討つことが出来れば、興味深い展開になるのだが。
イングランド戦もだったが、今回のノンテストも、チケット販売という戦いは、やや苦戦という見通しだ。良ければ15000を超える席が埋まるが、伸びが無ければ10000そこそこの恐れもある。続く三河での巨大スタジアムも然り。
ここで、一発快勝でもできれば、豊田、そして仙台、札幌で再開されるテストマッチにも弾みになるはずだが…。