▲会見に出席したキッドウェルAC。リーグ仕込みのタ

クルが炸裂すれば、マオリ撃破も見えてくるのだが…  

 

 

桜とマオリの勇者が相まみえるまで半日あまり。イングランド戦同様に、試合後のコラムを用意するが、今回も〝前打ち〟という位置づけで決戦前の情報をお伝えしておこう。

 

前々日のメンバー発表、前日のキャプテンズランに伴い、それぞれコーチ、選手が取材に応じて、勝利への思いを語っている。ちなみに、両チームとも試合会場での前日練習はなし。いつもとは異なるやり方だが、昨秋のフランスでも、試合会場の都合だったが、同じパターンもあった。これから、こんなテストマッチも出てくるかもしれない。

 

メンバー発表に伴い、ジャパンXVはエディーさん、そしてHO原田衛、SH齋藤直人の共同主将、マオリはロス・フィリポHC、お馴染みFLビリー・ハーモン主将と、初選出のベンチメンバー、CTBタナ・トゥハカライナ、そして前日会見には日本がデイビッド・キッドウェルACとFL下川甲嗣、マオリは元NECのグレッグ・フィ―クACと、これまたベンチスタートの21歳、SOラメカ・ポイヒピが取材に応じている。

 

先ず、前々日のメンバー発表会見。宮崎からのオンラインでのエディーの言葉から紹介するが、メンバーを見て最も「!」と感じたポジションについて聞いてみた。

 

よ 「リザーブにバックローがいないが、どんな思惑か」

 

エ 「本橋拓馬を今後4番ないし6番ということで考えています。そちらも試してみたいと思います。もちろん福岡で6番も練習させていますが、まだまだ若い。今後のキャリアとしてどういう方向に行くのかまだ定まらないところはある。でも、本人の強みであるキャリーやタックルの強さで、この2つのポジションの役割で重要だと考えています」

 

 

 

 

ベンチから何分に投入されるかは試合展開次第だが、この潜在力抜群の22歳が、どこまでブラインドサイドとして機能出来るかは見物だ。もし、彼がエディーの期待に応える資質を見せるとすると、このポストでは、エディンバラに飛び立ったU20日本代表石橋チューカと共に〝ポストリーチ〟を争うことになる。

 

もう1人、個別選手について聞いてみたのは「10」の起用について。

 

よ 「山沢を今回SOで使っているが、FB専従ではなく、やはり併用なのか」

 

エ 「その通りで、10番、15番の選手だと思っています。代表スコッドには15番でセレクションしていますが、練習中にSOに入った時に非常にシャープな動きをしているのも見ています。ですから、今週末の試合では、SOでプレーするいい機械です」

 

イングランド戦後のコラムでも書いたが、あの自陣からの仕掛けで駆使したステップとスペース感覚を見てしまうと、ボールをより持てる機会が多い10番で、この閃きを使いたい誘惑は当然のことだろう。

 

エディーさん、会見では「ジャパンXVというのは、日本代表ではないので、全く違うチームと考えていますし、我々としてはもう一度スタートする、再スタートという風に捉えています」とは語るが、選手にとっては、どこまでエディーにパフォーマンスを認めさせるかという観点では先週の国立のゲームとそう違いはない。金曜日に対面で取材に応じた下川は、こんな思いを語っている。

 

「 当然 日本代表の試合ではないですが、やはりこの試合でのパフォーマンス(をしっかり見せたい)とか、イングランド戦に出てないメンバーはハングリーな気持ちを持っている。自分自身もそういう気持ちで臨みたい」

 

すでに世界の舞台を経験する下川だが、まだまだ和製バックローとしては〝期待の若手〟の位置づけだ。この原石が、エディーの唱える「超速」をどう解釈し、パフォーマンスするのかも興味深い。

 

「ワークレートのところで強みをみせたい。まだフィジカリティでは同じポジションの選手の中でも劣る部分もあると思いますが、プレーの反復、連続性だったり、しつこさというところで日本人バックローとして勝負していきたいし、エディーさんからも、1つのプレーで終わるんじゃなくて、すぐに起き上がって次の仕事を見つけてそこに動き出すというところを言われています」

 

 

 

 

将来性は抜群の一方で、それぞれのポジションの中でも日本選手には激戦区だ。土曜の夜の6番のワークレートと献身さに注目してほしい。

 

では、対戦相手のマオリは、日本をどう見ているのか。今は亡き清涼飲料水チームでコーチ経験もあるフィリポHCのジャパン(XV)も、前々日のオンラインでこんな印象を語っている。

 

「イングランド戦を振り返ると、とてもいいチームになっている印象を受けます。もちろん新しいコーチ、新しいスタイルというのを身につけていく時期だと思うので、大変な時期かも知れないが、後々世界で戦える選手がどんどん出てくるのかなという印象です。とても流れのあるプレーをしていたので、イングランドが苦しめられる場面もあった印象です。なので、我々もあまり 勢いを与えてしまうと危険だなと警戒をしています」

 

多分に社交辞令があったとしても、あまり走らせないという日本チームと戦う上での鉄則は十分に心得ている。その一方で、歴代のマオリの戦いぶりを考えると、個々のスキル、判断力を生かして防御を崩すと、一気にフィニッシュまで持っていく奔放さ、アグレッシブさを持ち併せたチームだ。もし、ノーガードの打ち合いのような展開になったとすれば、このビジターの土俵で相撲を取るリスクも十分にある。

 

 

 

 

2日間の会見の中で、いいヒントだと期待したいのは下川の言葉だった。

 

「基本的に自分たちのベースになるところは先週と変わらない。ただ明日の試合では、セットピースのところ、起点のところでゲームに勢いをつけるところを、1週間かけてやってきました。FWとしてはセットピースのところに時間を割いて、ウォークスルーだったりグラウンド外でもやりましたし、その部分は明日の試合 しっかりと結果を残したい」

 

イングランド戦でも成功率100%だったスクラム、ラインアウトは継続して強みにしたいという思惑だが、同時にマオリの奔放さを好きなように発揮させないためには、セットでどこまで重圧を掛けられるかが勝負だ。相手より長身のセカンドローを配していたイングランド戦とは高さに差があるぶん、リスクはあるが、先日アップしたコラムでも触れたように、22日のファーストラインアウトのように、セットアップの早さも駆使して、スピードとタイミングで勝負できれば面白い展開も期待できる。

 

会見で、選手以上に質問を楽しみにしていたのは、金曜日の会見に対面で参加したデイビッド・キッドウェルACだ。リーグラグビー選手として母国NZのW杯制覇などの実績を持ち、引退後もリーグの世界でコーチを続けてきた。写真からもお判りだろうが、マオリの地を引き、リーグのマオリ代表でもプレーしている。そして、昨秋のW杯フランス大会で日本も完敗したアルゼンチ代表のディフェンスコーチとしてチームのトップ4入りに貢献。大会後にオーストラリアのリーグチームからコーチ就任のオファーもあったが、エディーの誘いを受けて日本にやって来た。

 

イングランド戦での失トライ8は、防御面ではいただけないが、ここはまだ相当に熟成途中。タックルのエキスパートは、「超速」というコンセプトの中でのディフェンスについて、こんな話をしてくれた。

 

「自分たちのディフェンスアイデンティティーというのは、相手の攻撃をスローダウンさせて、 自分たちのディフェンスラインを早くセットするというものです。我々はツーメンタックルとフィニッシュ・オン・トップというのを重点的に取り組んでいます」

 

フィニッシュ・オン・トップは、タックルした選手が倒した相手の上に乗るような形で倒れることで、相手の速い球出しを阻止しようというスキルだ。ツーメンタックル、いわゆるダブルタックルはいまや定番のプレーではあるが、このタックルのスペシャリストは、日本選手の資質をすでに読み取り始めている。こんなやり取りをしてみた。

 

よ 「日本にはリーグラグビー選手のようなスーパーフィジカルな選手はいないが、今までのコーチングと違うものを落とし込んでいるのか」

 

キ 「日本人選手は、フィジカルになれる選手が多いと思います。テクニックは持っているのです。そのスキル、テクニックがある中で、いかに疲労の中でタックルをリピート出来るかに一番 フォーカスしています。日本人選手はすごく足腰が強いというのを実感しているので、その足をいかに活かせることができるかですね。出来るだけ足を、相手に接近させて肩をぶつけるというところをやっています。付け加えると、日本選手には自分たち出来るんだという信念を持って欲しい。その信念を持って、自分たちでどんどん前へと前進出来ることを、みんなに理解してもらいたいのです」

 

日本人選手の足の短さも、ラグビーで役に立つのだと、あらためて感心させられたが、キッドウェルACは、さらに資質を指摘している。

 

「菅平(トレーニングスコッド合宿)から6週間半、朝6時からのトレーニングを続けてきましたが、日本人選手がすごくいいマインドセットで、毎日朝早くてもちゃんと時間通りに来てやっている。皆、上達するための高い向上心と、エナジーを持ってやっているので、私も楽しく コーチングをしながら、一つずつ基礎を落とし込んでいます」

 

日本人の勤勉さを指摘するコーチは、これまでも沢山いたが、〝究極の弱点〟ともいえるタックルの領域でも、日本選手特有の持ち味が生かされるのなら、興味深い〝化学変化〟もあるかも知れない。

 

ゲーム自体はテストマッチではないが、経験値という観点で先発15人の総(代表)キャップ数を比べると、XVの51に対してマオリは70(手元集計なので誤差あればゴメン)。ほぼイコール状態と捉えるのが適切だが、詳細を見るとマオリのキャップ数は、#1ジョー・ムーディーの57Cがその大半を占めている。つまり、ほぼノンキャップに近いビジターに、1人平均3.4Cのヤングジャパンが挑むことになる。経験値の優位性を出したい一方で、相手は来日直前までSRPで熱戦を繰り広げていたメンバーたちだ。体のフィットという点では万全だろう。厳しい戦いの中で、もし、リーグ仕込みのタックルがマオリ特有の奔放なアタックに楔を討つことが出来れば、興味深い展開になるのだが。

 

イングランド戦もだったが、今回のノンテストも、チケット販売という戦いは、やや苦戦という見通しだ。良ければ15000を超える席が埋まるが、伸びが無ければ10000そこそこの恐れもある。続く三河での巨大スタジアムも然り。

 

ここで、一発快勝でもできれば、豊田、そして仙台、札幌で再開されるテストマッチにも弾みになるはずだが…。

 

 

 

ラグビーファン、関係者の目線が桜のジャージーに注がれるタイミングながら、ブレイブルーパスの復活を、ピッチの外にいるGM目線で語っていただいた。

 

生まれ出ずる時からのルーズさでこんなタイミングになってしまったが、そこには前後編に広がってしまったボリュームも影響した。書くに至ったモチベーションは、GM目線というより薫田目線といったほうが適切かも知れない。

 

この輝かしい足跡も残してきた勝負師が、チーム&親会社の低迷とも向き合いながら、選手に何を求め、何を整え後押ししてきたのか。こんな薫田真広の仕事をすこし書き残しておきたかった。

 

 

 

 

 

 

 

結果的に、予定していた時間を遥かに超えたインタビューとなったが、このボスらしさを感じさせられる話が続いた。そして、あらためてこのチームが残してきた足跡、そして一度は地に堕ちながらも守り続けている伝統と矜持を再認識させられた。

 

「リーグワン」という変革期に、多くのチームが組織、強化体制を刷新する中で、ブレイブルーパスのように、自分たちの築き上げてきた価値観や文化を、どこまで残していけるのか。一部のチームは、そこが根こそぎ失われてしまうのではないかという危惧がある中で、こんなチームが覇権を取り戻したことに価値がある。

 

もちろん、大半のチームはそんな栄光の歴史を持てていないという現実もあるのだが、それでも10年、数十年とチームが続けば、悪しきものもあるだろうが、良き文化、伝統は必ずある。そこを、どう新しい体制の中で残していけるかは、やはり薫田GMのようなチーム側のマネジメントが欠かせない。

 

薫田エンマ帳の中身をお知らせ出来なかったのは残念だが、そこには、こちらも感心するような細目が数値化され、蓄積されている。コラムでは省いたが、この数字が、選手の成長、進化を促すのと同時に、選手にチーム内でプレーを続けないという選択、決断をさせるためにも重要な役割を担う。完全プロ化はかなりSFの領域にしても、プロ的なアプローチでチーム作りが進む中では、このエリアは実はかなり意味のあるものだ。

 

 

 

 

この数値化に関しては、おそらく薫田GMだけが取り組んでいるものでもないし、最新のものでもないかも知れない。どのチームでも選手評価は、様々な取り組みが進んでいるはずだ。ここでは「優勝」という成功の中で、薫田GMの仕事として紹介している。このような選手評価はこれからも進化し、新たなシステムや考え方が、それぞれのチームで採用されていくだろう。グラウンドでのパフォーマンスとは離れたフィールドの〝ゲーム〟なので、脚光を浴びるのは限定的だが、もしかしたらサンバーメトリックスのような、時代を先駆け、従来とは異なる視点から選手を見つめ、評価するシステムが生まれるかも知れない。

 

話がブレイブルーパスの勝利から脇道に逸れたが、この優勝で、リーグの活性化が更に高まるのは歓迎するところだろう。新たなフェーズに入った日本ラグビーの中で、伸びしろばかりのチームが並んでいるからこそ、地殻変動の余地は十分にある。だが、その中で、ルーパスとGMがこだわり続けた《自分たちの足跡の先に進んでいけるチームを作っていけるのか》はすべてのチームにとって大きな挑戦になる。

 

 

 

すこし時差アリでイングランド戦のおはなし。

 

エディーのことだから、ここで一発サプライズを起こしたかっただろうが、如何せん「時間」の限界はあった。菅平の予備軍合宿などでゲーム理解を促進させるなどの工夫もしたが、相手も良すぎた。昨秋のフランス同様、各国が日本戦へ向けた準備をそれなりにしっかりとしてくると、やはり容易に足元を掬うような勝利や善戦はない。

 

 

 

 

日本が鮮やかなテンポで仕掛けた、あの序盤戦ですら、ミッチェル&スミスの赤薔薇HB団は冷静さを失わず、日本のラグビーを観察し、ボールを手にしてからは、いとも容易くゴールラインを陥れていた。コラムでは「14分」と書いたが、キックオフ10分あまりで、イングランドのコンピュータは勝利の試算をほぼ終えていたのだろう。

 

その中で、サプライズがあるとすれば、コラムで書いた通りセットピースの安定感。スクラムには賛否あるものの、壊滅的な崩壊はなく、互いにペナルティーを奪い合うレベルで、十分に善戦と称えていい。あのキャップ数なら尚更だ。

 

裏話になるが、惜しまれるのは宮崎でインタビューを相談したヴィクター・マットフィールド、オーウェン・フランクスが、時間を取れなかったこと。この2人に、セットピースの課題と可能性、そして彼らの目には、プレーしたチームとは全く異質の日本代表といチームがどう映るのかを聞いてみたかった!

 

接点でみれば、日本らしいいとも容易くブレークを許すシーンもあったが、ジェネラルな〝遣り合い〟は悲観するレベルじゃない。もちろん「あれだけ海外勢が出ていれば」という指摘はその通りだが、スクラム、ブレークダウンなど相手と接触するチュエーションには、間違いなくリーグワンでの恩恵はあるだろう。ただし、日本は相手と接触を極力減らすラグビーをしなくてはならないが…。

 

「新しい力」はやはりポジティブに受け止めたい。だいぶ贔屓が強いが、やはりティアナン・コストリー。スピードは期待通りだったのに加えて、彼が宮崎の1vs1のインタビューで力説していた「コンタクト、防御での貢献」では、及第点以上のパフォーマンスだった。インタビューでも、イングランドというフィジカルチームにいいコンタクトを見せることが大事と話し合っていたが、その通りのパフォーマンスを見せた。

 

宮崎でのコラムをアップした後、ティアナンを日本に呼び、神戸への道筋をつけた環太平洋大の小村淳監督から電話がかかってきた。

 

「ティアナンの記事、ありがとうございました。アイツも励みになると思います」

 

「いや、彼を特別視したわけじゃなく、彼自身のパフォーマンスが、書かせた記事だから」

 

こんなやりとりをしたが、あのゲームでも「書くべき正当性を持った選手」だったのは間違いない。一方で、同じ土曜日にトゥイッケナムで戦った世界王者をみると、キャップ5のEvan Roosに深緑の背番号8が託されていた。191㎝、109㎏のサイズは、かの国では小兵かも知れないが、スピードに乗ったサイドアタック、防御での運動量で、従来のボカの8番とは異質のパフォーマンスをみせた。「新しいNo8、バックローの可能性」。こんな言葉が頭に浮かぶのと同時に、このトレンドが本物なら、テストラグビーというステージの上で、ティアナンの価値にもいい変化があるだろうと感じていた。

 

ティアナン以外に可能性を感じさせたのは、同じくテストデビューのHO原田衛。コラムでも書いた通り、マイケル、ワーナーという日々ボールを投げ込んでいる相手がいたのは幸運だが、それも含めてイングランド相手にスロー100%は評価すべきだろう。堀江翔太が抜けた「2」を見れば、(翔太もだが)その多くの候補が3列上がりでスローイングに大きな課題を持つ選手が並ぶ。だが、日本がワンステージ上の戦いをするには、従来のスローイング精度では不十分なのは明らかだ。確かにサイズはいまの「8強」レベルじゃないが、超速に見合う機動力とスローで考えれば、この2番の国際舞台での投資は価値がある。

 

注目の矢崎由高については、コラムで触れた通り。彼のポテンシャルを考えれば、あの幻のトライという見せ場も含めて、せいぜい肩慣らし程度のパフォーマンスだろう。肩書と目新しさで騒ぎたくなる心理はわかるが、このゲームでは「才能」の#15より、「エフォート」で魅せた#11根塚洸雅が際立っていた。サイズも含めて、これからも熾烈なサバイバルを強いられるが、彼のワークレートがアウトサイドBKのスタンダードになれば、ジャパンもワンステージ上のチームに成熟する。

 

SH藤原忍も素晴らしかった。ゴール前ラックから簡単に開いてSHに飛び込まれたのは、FWとのコミュニケーション不足を露呈したが、次のプレーを予知する頭脳も含めて「超速」への可能性を秘めた9番。防御でも十分ファイトしていたが、あと1枚厚みをつければテストSHとして十分いける。

 

 

いよいよ決戦がカウントダウンに。両チームが会場の国立競技場で前日練習を行った。いつものように試合後にコラムを上げるので、まずはその前打ちとしてプレマッチの情報を提供しておこう。

 

テストマッチのルーティンに倣い、両チームとも時間限定の公開。先ず午前中に登場したのはイングランド。20分の公開の中で、10分以上の時間をかけてグラウンドで都合4度のハドルを組み、そこからグリッドでのドリルなど基本的なメニューのみを公開した。

 

練習後の会見までに要した時間が小一時間にも満たなかったことを考えると、調整にもならない程度のメニューで終えたと推察出来る。その会見には、ベテランPRダン・コールが現れた。代表キャップ112を誇るダンさんだが、当然のことながら2年前まで、自分たちのHCだったエディーのことは熟知している。そんなベテランだからこそ、こんなことを聞いてみた。

 

 「ご存知のように、エディーは対戦相手に『いつもと違う』と感じさせる何かを仕掛けて、動揺させてくる。どんなことをケアする試合になるのか」

 

いかめしい顔で、ダンさんこんな〝対策〟を語ってくれた。

 

「確かにエディーは予想しない、いままでないような状況を作り出すことは良く知っています。日本はすこし驚くようなことをして来るかも知れない、そうじゃないかも知れないと念頭に置きながら、やはりイングランド代表としての自分たちの準備をしてきました。どうやってゲームをコントロールするか、自分たちのプレーが出来るかに着目した練習をしてきたのです。いずれにせよ、明日エディーが何か新しいことをするにしてもしなくても、監督、コーチ陣もメンバーもかなり新しい。そういう意味では、何もかもが自分たちには、これまでに経験していないことになる」

 

 

 

 

ここら辺の〝自分たちのラグビー〟を迷わず貫くという考え方は、ワールドカップをはじめテストラグビーでは鉄則でもあるが、火曜日に先手を打ってメンバーを発表したスティーブ・ボーズウィックHCも、その日の会見で何度も強調していたことだ。「エディーの陽動に動揺しない」は、イングランドチームで共有されているのだろう。そんな状況の中で、いかにイングランドにイングランドのプレーをさせないか、やり通されるかは、勝負の大きなポイントになる。

 

イングランドが公開した20分。実はスタート前から「ピッチ上で3回ハドルを組むだけのメニュー」という情報はあったのだが、グラウンド中央で、HCも含めた全員でハドルを組むと、ゴール前右サイド、中央付近、逆陣地の22mライン付近と選手でハドルを組むことに10分以上を使っていた。

 

この〝儀式〟について、練習後にダンさんはこう説明している。

 

「自分たちは、この競技場でプレーしたことないので、フィールドの感触を得たいと思っていた。そういうことを理解した上で、キャプテンのジェイミーがいろいろなシナリオを考えてみようと提案して、それに基づいて、ここでタックルされたら、どうディフェンスするのか、ここでこういうことが起きたらこうしようとか、いろいろなチームの戦術を考えながら3つの場所を選んで話をしたんです」

 

この言葉からも、「慌てず、騒がず、粛々と自分たちの約束事を履行する」イングランドチームのマインドが読み取れた。

 

昼過ぎに姿を現したジャパンも、公開した15分あまりの多くは、水の入ったトレーニング用のビニールバッグを持ち上げるなどのウォームアップに終始した。異変が見られたのは、メニューではなく、メンバーが着たウェアだ。身に着けたのは、試合用のファーストジャージー。会見に応じたニール・ハットリ―・コーチングコーディネーターは、こんな思惑を明かしている。

 

 

 

 

「選手が、明日このジャージー着るのが初めてといのを避けるために、この機会でファーストジャージーを着る感触を掴んでもらったのです。選手が明日、いい形でプレーできるための一番いい状態でチャンス与えるという意味で、今日もあのジャージーを着せたのです。マッチジャージーを今日来たことで、練習前のロッカーでも何人かの選手に笑顔があったし、誇りに思っていることは我々にも手に取るように分かりました。ジャージーを着る意味を、身を持って実感してもらえるのかなと思います。この経験に関してはエディーと過去にもやったことがあります」

 

23人の登録メンバー中8人がノンキャップ。1桁キャップの選手も8人だ。そんなテストマッチの経験の浅いメンバーで戦うための工夫がプラスに働くのかも見物になる。

 

ニールさんは、現役時代は主にロンドンアイリッシュでPRとして活躍。現役引退後はコーチとなり、2019年RWC日本大会ではエディーのアシスタントとしてチームの準優勝を支えた。エディーがオーストラリア代表HCに復帰した昨年も、右腕としてフランス大会にも参加するなど、指揮官の信頼は厚い。3度目のコンビとなった今回は、コーチングコーディネーターとしてコーチを統括するポストに就くが、スクラム、ディフェンスコーチとしても手腕を振るう。

 

 

 

 

ニールさんにとっては母国の代表との戦いになるが、何度も触れてきたように、コーディネーターにも選手にも相当にタフなゲームになるだろう。昨秋のニースでも完敗に近い敗戦を喫した相手だが、今回も十分な経験値と実力を持ち併せた布陣を用意した。先発15人の総キャップ数は日本の169に対してイングランドは522。エディー自身がワールドカップの優勝争いに必要な経験値として600~800キャップが必要と指摘してきたことを踏まえると、イングランドは早くもその領域に近づいている。

 

その脅威を、ポジション毎に書き出しておこう。

 

1列から見ると、ルースヘッドのべヴァン・ロッドこそ5キャップだが、HOジェイミー・ジョージとタイトヘッドのダンさんは合わせて202キャップと、2人だけでジャパンの先発15人のキャップを上回る。この強烈な実績を持つ1列の重圧を、実質上初キャップに近い桜のフロントローがどこまで踏ん張れるかが、ゲームの行方を占う第1歩。もし、最低限の踏ん張りが出来れば、先行きに期待が持てる。

 

2列も12キャップのジョージ・マーティンに対して81キャップのマロ・イトジェ。そして3列でも、今年デビューのFLチャンドラー・カニンガムサウス4キャップの他は、35キャップのFLサム・アンダーヒル、30キャップのNo8ベン・アールと、キャップ数以上に主力に定着する凶暴な2人を投入している。若いカニンガムサウスだが、フィジカルの高さには秘められたポテンシャルが籠る。このゲームでも大暴れの可能性は十分にある危険な存在だ。フロントファイブの重さと圧力の後に、破壊力抜群のバックローと、どのエリアからも強烈な第2波が、ジャパンに襲い掛かる。

 

BKは、1桁キャップはWTBトニー・フリーマン、イマニュエル・フェイワボソ、FBジョージ・ファーバンクのアウトサイド3人。CTBに62キャップのヘンリー・スレードを入れてBKラインを引き締める。SHアレックス・ミッチェル、SOマーカス・スミスのHB団は合計47キャップだが、RWC、6Nと経験値のあるコンビで固めた。

 

勝負の最初のポイントは、繰り返すが、ジャパンの総キャップ3という若いフロントローが、どこまでスクラムで抵抗できるか。ここは、代表メンバーからも「いまだに相当強い」と絶賛されるオーウェン・フランクスとニールさんが、10日間の短期だったが、ここまでの合宿で、どこまで世界トップクラスのスクラムをチームに落とし込めているか。ここが決壊すれば、50点超えの失点も覚悟する展開になる。逆に、かろうじてでも自分たちの求めるテンポでBKにボールを供給できれば、ジャパンの見せ場が作れることになる。

 

これも以前のコラムで書いたが、SO李承信がボールを持てれば、ループを多用した、ボールをグラウンドの縦軸に停滞させない超速が加速し始める。そこに、シザース、カラクロ、アングルチェンジでのエキストラマンのライン参加と、アタックバリエーションを増やしながらゲイン突破に挑んでくる。前日会見に出てきたSH齋藤直人が、しれっと語った「スペースはある」という一言に期待が膨らむ。

 

そして、そのバリエーションの先に待つのがFB矢先由高だ。持っている潜在力でいえば、福岡堅樹以来の才能。堅樹さんは爆発的なスピードでジャパンのフィニッシャーに駆け上がったが、この早稲田大2年生は、スピードはもちろんだが、ギャップを見極めるセンス、視野、判断力も光るロングキックと、トータルバランスで魅せる。勿論、パスを受けた時の加速も素晴らしい。この原石のテストデビューを輝かしいものにするためにも、やはりスクラムでどこまで抵抗できるかは重要だ。

 

 

 

 

BKメンバーで試合当日に微変更があるかも知れないが、個人的に大学2年生と並んで注目、期待するのはオープンサイドで代表デビューするティアナン。スピ―ドでは文句なし。あとは、このポジションに不可欠なコンタクトで、ティア1相手にどこまで戦えるか。先にも触れた相手のブラインドサイドは幼馴染という因縁もあり、本人もいいテンションで迎える初陣だ。

 

思いを巡らせることに長けたエディーさんのことだ。イングランドの強さを認めながらも、このゲームで金星を掴めば、2027年へ向けて世界へ最高のインパクトをかますことになることも重々認識しているはずだ。一連の自身へのバッシングを切り返すためにも最高の勝利だ。もし思惑通りのシナリオが狂ったとしても、どこかに爪痕を残す敗戦であれば、11月の〝第2章〟への布石となる。

 

まるで仕組まれたような第2次エディージャパン船出の大一番。〝勝負しすぎ〟のチケットはどうやらチケットは4万枚ほどと、やや寂しい初陣だが、2027年へのジャーニー最初の足跡として、生で目撃する価値はある。

 

 

 

ちょっと嫌になる豪雨の中で、赤薔薇のチームの親分さんに会いにいってきた。

当初は、木曜日のメンバー会見という予定だったが、さっさとメンバーを発表した火曜日に、指揮官も会見に登壇した。

 

スティーブ・ボーズウィック

 

ファンならご存知、エディーの右腕として2015年の奇跡を起こした男。

イングランドHCとしての日本凱旋であり、互いに由縁のある日本での恩師との決戦でもある。

 

そんな決戦に、先手を打ってきた。

先だしじゃんけんのメンバーは、1桁キャップが先発に5人、ベンチには2人。そこにノンキャップのトム・ローバックという編成。〝先だし〟の理由については、いともシンプルにこう説明した。

 

「ここ2、3日の練習を見て決めたところで、今日の午前中に選手に発表したんだ。そのタイミングで発表もしただけだよ」

 

なんとも余裕の面持ちだが、この布陣を見れば頷ける。

 

昨日の会見でFBジョージ・ファーバンクが登場したことで、夏のツアー〝本番〟のNZ戦前に、若手のコンディションを見る試合かと読んだが、スティーブはそれよりは若干経験値のある布陣を敷いてきた。先発15人の総キャップ522は、RWCイヤー翌年の春としては結構なものだ。ポジション各所に、若手を交える布陣は、次世代の経験値を伸ばしつつも〝予期せぬ出来事〟は起こさないステディーな構成だ。

 

中でもフロントローのHOジェイミー・ジョージ主将、タイトヘッドPRダン・コールの202キャップコンビは、誰が選ばれても若い桜の1列には相当な試練になる。おまけに、バックローの破壊力は抜群だ。昨秋のフランスでのプレーをみても、世界トップクラスのオープンサイドFLに食い込むFLサム・アンダーヒルに、これまたブレークダウンの仕事人No8ベン・アール。そして唯一の若手が、フィジカルで注目度マシマシのブラインドFLチャンドラー・カニンガムサウスと、対戦相手がかなり苦戦を強いられそうな3人が並ぶ。すでに6か国対抗でデビューしているチャンドラーだが、スタメンは初。凶暴さがさらに高まる可能性を秘める。

 

本日アップしたコラムでも触れた、そのチャンドラーについて、スティーブHCは「今季フィジカル面で大きくいい形で変化した選手だと思う。バックローについては、どれくらいの強度で働いているかを計測してきたが、チャンドラーは本当にいい変化があった選手だ。ドミナントキャリーの数値が高く、どんなチームも欲しい選手じゃなかな」と絶賛。もし日本の秘密兵器ティアナンが晴れてジャパンデビューとなると、旧友とのバックローとしての一騎討ちが国立で実現するのだが…。

 

そんな布陣を組んできたスティーブに日本遠征のコンセプトをこう説明する。

 

「次のステップへ重要な位置づけがある。シーズン始めにも話したことだが、若い選手の育成というものも意図している」

 

エディーと夏に近い気候の中で日本代表と戦うことに、万難を排した経験豊富なメンバーを散りばめながらも、若手の経験値を上げていく。ここで結果を見せれば、次は黒衣の最強軍団との対戦が待つ。

 

一方、教え子もいる桜のジャージーには、こんな見方だ。

 

「非常に才能あふれたスキルフルな選手が集まっていると思います。経験豊富なリーチが、どれだけ貢献しているかもあるし、ポテンシャルの高いワーナー・ディアンズ、松田力也やシオサイア・フィフィタも能力の高い選手」

 

この日の会見、実は日本メディアはかなり少数だったが、これもスティーブが木曜のメンバー会見に出席するのを見越してだ。当然会見ではエディーについても質問が飛んできた。

 

「質の高いコーチで、ずっと素晴らしい仕事をしてきた。土曜日も才能あふれた、オーガナイズされたチームを用意してくるだろう」

 

こちらも、さらりとかわしたが、メンバーは十分すぎる経験値を持つ布陣。

ここに太刀打ち出来れば、第2次エディージャパンは好スタートとなるのだが。

 

 

★ご参考までに

1. Bevan Rodd

2. Jamie George - captain

3. Dan Cole

4. Maro Itoje - vice-captain

5. George Martin

6. Chandler Cunningham-South

7. Sam Underhill

8. Ben Earl - vice-captain

9. Alex Mitchell

10. Marcus Smith

11. Tommy Freeman

12. Ollie Lawrence

13. Henry Slade - vice-captain

14. Immanuel Feyi-Waboso

15. George Furbank

Replacements

16. Theo Dan

17. Joe Marler - vice-captain

18. Will Stuart

19, Charlie Ewels

20. Tom Curry

21. Harry Randall

22. Fin Smith

23. Tom Roebuck