Dear Lover

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相棒たちと彼女のはなし

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「さっちゃんと俺とはそんなんじゃないの。ほんとの友達。俺はいつでもここで働いているんだし、さっちゃんだって駅はそこの駅を使ってんだから、来たきゃ来るよ。きっとさっちゃんもそういうよ。」

納得できてない顔。あの笑顔はどこ?

俺はちょっとしたいらいらと、ストレートに気持ちをぶつけてくるダイレクトさに好感を始めてもった。まあ毎週顔見合せてれば、少しはそんな気も起きるのかな。

「電話するときには、俺が村ちゃんに聞いて電話するから。今は、これはいらないよ。」

といって、紙片を手のひらに返した。わからず屋なのかな。自問自答。

「わかりました。そうですよね。自分たちのきっかけですもんね。」

「ん?違うよ。さっちゃんにはそういう感情じゃないんだ。うまく言えないけど。妹って感じかな。」

「そうなんですか~。でもまあ必要になったら言ってくださいね。」

「わかった。そうする。」

ようやく紙片をエプロンのポケットに突っ込んだ。

ちょっとだけツンとくる香水のにおいと長い髪の香りを残してお店に入って行った。

次の日曜日、いつものように店を開け、相棒たちも元気に飛び回っているかたわらで、由紀子ちゃんが大きく手まねき。

「村ちゃんさんから手に入れました。」といって俺の手に小さな紙片を手渡す。

広げてみると、電話番号。しかも市内の番号。

「なにこれ?由紀子ちゃんの電話番号?」

「違いますよ。さっちゃんさんのです。」

「なんで?俺に電話しろってこと?さっちゃんが?」

「とにかく電話して下さい。最近の話とか、さっちゃんさんの仕事のこととか、色々聞くことあるじゃないですか。」

「気をまわしすぎだよ。」

いくら鈍感な俺でもわかる。

「幸子さんやめてもうふた月経つんですね。」

「さっちゃん最近見ないな。仕事決まったかな?」

「気になります?」

「何が?」

「幸子さんが来ないし、近況です。」

「付き合いが長いからな。妹思いの兄の心境ってやつ。」

「そうですか。連絡とかとってないんですか?」

「電話番号は知らないな。家はなんとなく知ってるけど。何回か送って行ったことがあるから。」

「行けばいいじゃないですか?」

「なんで?」

「幸子さん、会いたいと思ってますよきっと。」

「さっちゃんと会ったの?」

「いいえ。てっちゃんさんて意外と鈍いんですね。」

「なんだよ。いやにつっかかるなぁ。」

「なんでもないです。ごめんなさい。」

ぺこりと頭を下げて、お隣に行ってしまった。なんか気にかかるなぁ。

変な気分のまま仕事を始めて、また忙しさにそんな一コマは忘れてしまった。

手を大きく振って、帰って行った。店から出ていく彼女が、キラキラしてすごく眩しかった。錯角?だよね。

 さすがにしばらくは不安だったろうけど、何回か一人で店を開けたり、閉めたりしてるうち、日曜日の午前中は、彼女一人で賄えるようになったみたい。すっかり村ちゃんも任せっきりで悠々と午後出勤してくるようになった。

「おはようございます。」

「おはよう。村ちゃんは午後から?」

「はい。最近は任せてくれるようになりました。」

「そうだな。でも、たまには午前中から来てっていっとかないとな。」

「でも、午前中は比較的暇だし。いいんじゃないですか?」

「さっちゃんがやめてからずっと村ちゃん一人で頑張ってたからな。しょうがないか。」

 頼まれちゃしょうがない。言われたとおり一時間に一回のペースでお隣さんを見学。せっせと働いていて、俺がいるのを見つけると笑顔で迎えてくれる。悪くない笑顔。こんな笑顔で迎えられる店は、結構繁盛してるんだろうな。

「てっちゃんさん。何回も来てくれましたね。心強かったです。」

「コーヒーを取りに来ただけだよ。忙しそうだから、やめて帰ったんだよ。村ちゃんいないから、いつもよりもらおうと思って。」

「用意しておきましたよ。どうぞ。」

いつもよりほんとに多くのコーヒーを飲み、結構お腹がだぶだぶいってる。でもサービスで出してもらったら飲まないわけにはいかないよ。付け合わせに余ったアメリカンドックを一つくれて、それもお腹へ押し込む。もう大丈夫そうだし、店はほとんど片づいてるし、シャッターを閉めて自分の店に帰ろっと。

半日だけ一人で仕事をこなせたから自信がついたんだろうな。またまたいい笑顔で帰って行った

「今日は、いろいろ助かりました。」

「おれは、何もしてないよ。」

「そうやって優しいとこ見せないんですね。何もしてないってっていうことは、気にかけてくれていた証拠ですよ。」

「深読みしすぎだよ。もう終わったの?」

「うん。これで帰ります。また来週。」

「おつかれさん。」


夏の痛い経験を引きずっている俺はてんでそんなことを知らないで、あくせく働いてる。相棒たちは相変わらず元気で、毎日飛び跳ねてご飯を待ってる。今日は、午後から由紀子ちゃん一人だって村ちゃんが言ってたな。なんでもどうしても外せない用事が出来たって。

「てっちゃんさんコーヒー持ってきました。」

「今日は、午後から一人なんだろ。」

「そうなんですよ。レジとか閉めれるか今から心配で心配で。」

「教わったんだろ。村ちゃんに。」

「ノートに作業の順番書いときました。村ちゃんがいる間にもう一度コーヒー持ってきますね。」

「うん。ありがとう。」

また、昼間の忙しさに忙殺されている間、あっという間に時間が過ぎ、昼少し前に村ちゃんが来た。

「てっちゃーん。」

「何その甘い声。頼み事?」

「そう。ゆっこちゃん大丈夫かしら?」

「作業の順番ノートに書くくらいだから大丈夫じゃないの。」

「レジのことなんか心配してないわよ。そうじゃなくてあの娘、おとなしいからお客さんに怒鳴られたらびっくりして泣いちゃうかもしれないと思ってるのよ。だから変な客がいないか、時々見てあげてくれる。」

「いいよ。たまに顔出しとくよ。」

「じゃ。頼むわね。」

中途半端な天気。曇りだけど温度はまだ暑い部類に入るくらい。水着に着替えないで、短パンとTシャツでビーチバレー。風が強くてボールが流されっ放しで、うまくいかなくなった。曇り空だけど、雲の合間から照る太陽は、まだ暑い日差し。

免許を取って半年のえっちゃんは、ここへ来る間にも停留所で止まったバスを追い越そうとして、反対車線に入って危うく正面衝突間際で、自分の車線に戻るような、一言で言うなら無謀。長い間付き合ってた彼と別れて、初めての夏を超えた。あやちゃんは、彼氏を半月で乗り換えの飽きっぽい性格。こんな三人が、お互いに彼氏がいない秋を迎えている。三人ともやなことは嫌、好きなことは好き。こんな性格がお互いに引き寄せてるのかな。

 帰りの車の中。話題はやっぱり男の子のこと。

「私もゆっこのバイト先に行ってみようかな。」

「なんで?」

「だって、佐藤さんだっけ。なんか影がありそうで、でも明るくていいんじゃない。」

「バイトの先輩で新山さんって言う人が、てっちゃんさん狙ってるから無理じゃないの。」

「なんだー。残念。売約済みかー。顔はそうでもないけど、よさそうな人だったのに。」

「やめてよー。私のバイト先まで来てひっかけないでくれる。」

「ゆっこの彼じゃないんだからいいじゃない。」

「さっちゃんさんに怒られるよ。」

「なんで?」

「まだ、てっちゃんさんに気持ち伝えてないみたいだから。そんなときに私があやちゃん連れてったら怒るよ。」

「まだ売れてるわけじゃないんだ。ふーん。」

また、何か企んでる。

「ゆっこー。佐藤さんとは、どうなってるの?」

「私も聞きたい。」

「別に。バイト先のお隣さんだよ。バイトだってまだ二回しか行ってないのになんかあるわけないじゃん。」

「まだ、健ちゃんのこと気にしてるの?」

「うん。今何やってるのかとか、色々考えちゃう。彼女じゃないから関係ないのにね。」

「まだ駄目なんだ?」

「中途半端な空中分解だったからね。まさか二度も浮気されると思ってなかったから、心の準備できてなかったんだよね。」

「まあまあその話は、無しにして。今日は独り身の三人が集まったんだから楽しくいきましょ。」

「うん。そうだね。早く忘れようっと。」

すごく仲良しだった高校時代の同級生六人組で、男三人、女三人。どちらから話が出たのかわからないが、カッコ良さ一番の渡来健と付き合うようになり、半年が過ぎたころと、一年がたとうとしている頃に浮気現場にはち合わせてしまった。由紀子は傷つき、彼からの電話にも出ようとしないまま月日が流れて行き、中途半端な状態がしばらく続いている。

「なんで?ちょっと気味悪いよ。」

「だって駐車場代の代わりにおみやげ買って来たんでしょ。私が気を悪くしないような理由をわざわざくっつけて。わかってんだから。」

もうばればれ。付き合いが長いからしょうがないか。

「気ぃ悪くした?」

「私が甘いものもらって悪くすると思うの?」

「いや。全然。だってにこにこしてるもん。」

「ありがたくもらっておく。みんなに優しいと、女は嫉妬するわよ。」

「忠告は有り難いけど、生き方は変えられないよ。」

「まーそういう所がいいんだけどね。」

「じゃあね。村ちゃん。あしたね。」

「送ってくれてありがとう。あしたね。」

みんなに優しいと嫉妬するのかー。でも、そうやって生きてきたからしょうがないよ。ほんと忠告だけ聞いておきます。

三十分で買い物を済ませて、村ちゃんの家に着いた。村ちゃんが買い物中に和菓子を購入しておいたので、

「村ちゃんこれ食べる?一個買えばよかったんだけど、一個だけは買いづらくて二個買っちゃったから。」

「てっちゃん。ほんとに優しいね。」