前回までの粗筋

60年以上前の青年時代に南氷洋での捕鯨業に従事していた友人とコーヒー店の「スターバックス」で雑談していた時、店名の「スターバックス」の謂れは、米国人小説家のハーマン・メルヴィル(1819年生~1891年没)の長編小説「邦題:白鯨」(英題:Moby-Dick; or, The Whale)に登場する捕鯨船「ピークォド号」のコーヒー好きの「スターバック一等航海士」(first name)の名前に由来すると教えられました。

 

しかし僕が中学生時代に読んだハーマン・メルヴィルの小説「白鯨」(1851年刊と映画館で鑑賞したジョンヒューストン監督の映画「白鯨」( 1956年制作)の圧倒的主役は、捕鯨船のエイハブ船長(Captain Ahab)であって、スターバック一等航海士ではありませんでした

 

すると捕鯨母船の乗員だった友人から、「小説・白鯨」や「映画・白鯨」と同じ実話を題材としながら、船長を主役としないで、一等航海士を主役とした米国映画「白鯨との闘い」(2015年制作)を鑑賞するように勧められました。直ちに通販会社からDVDを購入して我が家の大型テレビ画面で鑑賞しました。(以上前回の粗筋)

 

友人の推奨する映画「白鯨との闘いは、B級映画だろうと思って期待していなかったのですが・・・配送されたDVDの箱書きに、映画「ダ・ヴィンチ・コード」の名匠ロン ハワード監督の大作「英題:In the Heart of the Sea, The True Story of the Whaleship Essex」と記されているのに気付いて吃驚! 期待感が大いに増しました。(下写真)

 

映画:「白鯨との闘い」ロンハワード監督 (2015年制作)

英名:In the Heart of the Sea, The True Story of the Whaleship Essex


DVDの説明文を読むと、ロン ハワード監督の映画「白鯨との闘い」の原作者は、長編小説白鯨Moby-Dick; or, The Whaleハーマン  メルヴィルではなく、歴史研究家のナサニエル フィルブリック氏(下右写真)が約180年前に実際に起こった捕鯨船の海難事故の手記を原案として2000年に発表したノンフィクション作品「復讐する海ー捕鯨船エセックス号の悲劇・英題:Revenge of the Whale: The True Story of the Whalesip Essex(下左写真)である事を知って吃驚!

 

 

 

ナサニエル フィルブリック氏のノンフィクション作品は、2000年度全米ノンフィクション部門の図書賞を受賞。その受賞作品をロン ハワード監督が2015年に映画化したのが「白鯨との闘い」(英題:In the Heart of the Sea, The True Story of the Whaleship Essex)だったのです。

 

  

原作者: ナサニエル・フィルブリック氏(1956年米国生まれ)

英題:Revenge of the Whale: The True Story of the Whalesip Essex

邦題:白鯨との闘い

 

ナサニエル フィルブリック氏がノンフィクション作品の題材としたのは、1820年11月20日に南太平洋のガラパゴス諸島とハワイ諸島を結ぶ海域で巨大な抹香鯨に体当たりされて沈没した乗員23名の捕鯨船エセックス号(下写真)の想像を絶する93日間の漂流事故でした。

 

1820年11月20日 抹香鯨に体当たりされる捕鯨船エセックス号

 

抹香鯨の体当たりされて大海原に投げ出された捕鯨船エセックス号の乗員23名は、6人乗りの捕鯨用の木造端艇3隻に分乗し、南太平洋上を93日間に亘って苛酷な漂流をすることになります。(下写真)

 

木造の端艇3隻に分乗して想像を絶する93日間の漂流

 

極限的状況下での飢餓を生き抜いた乗員8人の苛酷な記録(ガニバリスム含む)を、血涙を流す思いで捕鯨船エセックス号の驚くべき悲惨な難破の物語(英題:Narrative of the most Extraordinary and Distressing Shipwreck of the Whale-ship Essex)として128頁の手記に書き留めたのは、捕鯨船エセックス号オウエン チェイス一等航海士(下写真)でした。

 

手記を残したエセックス号のオウエン チェイス一等航海士

 

そしてオウエン チェイス一等航海士の手記を原案としてノンフィクション作品としての復讐する海ー捕鯨船エセックス号の悲劇Revenge of the Whale: The True Story of the Whalesip Essex)として2000年に発表したのが、先述した歴史研究家のナサニエル フィルブリック氏であり、彼の作品を2015年に映画化したのがロン ハワード監督だったというわけです。

 

 

ロン ハワード監督と映画「in the Heart of the Sea」

 

僕が中学生の時に読んだハーマン メルヴィルの長編小説白鯨」(1851年刊)とジョン ヒューストン監督の映画白鯨(Moby-Dick; or, The Whale)の元ネタもオウエン チェイス一等航海士の手であることは明白なのですが・・・

 

小説白鯨」(下左写真)と映画白鯨」(下右写真)の筋立ては、オウエン チェイス一等航海士の手記に書かれている人間の凄まじい生き様の部分を意図的に描かないで、乗組員の危険を顧みることなく、自分の左足を食いちぎった抹香鯨への復讐心に燃える架空のエイハブ船長を主役として登場させ、全く別個の壮大な海洋スペクタクル作品として書かれていました。

 

 

左:原作 ハーマン メルビル著の長編創作小説(1851年発表)

右:映画化 ジョンヒューストン監督の「白鯨」(1956年制作) 
 

オウエン チェイス一等航海士」の手記にそって書かれたサニエル・フィルブリック氏のノンフィクション作品復讐する海ー捕鯨船エセックス号の悲劇」、そしてそれを原作としたロン ハワード監督の映画「白鯨との闘いに登場するのは、実在の捕鯨船「エセックス号」、実在の「ジョージ ポラード船長」、実在の「オーウエン チェイス一等航海士」なのですが・・・

 

長編創作小説の「白鯨」と映画の「白鯨」においては、捕鯨船「エセックス号」は架空の「ピークォド号に変えられ、捕鯨船の出資者の息子ということだけで船長になった経験不足の28歳のジョージ ポラード船長」は、白鯨に片足を食いちぎられて復讐の鬼と化した架空の「エイハブ船長」に置き換えられ、経験豊富な「オーウエン チェイス一等航海士」は、架空の「スターバック一等航海士」の名前に変えられていました。

 

拙ブログの1/2の項で触れた「スターバックス」第一号店の命名者は、1971年3月30日に港町シアトルで欧州式コーヒーの深煎り豆の焙煎専門店を創業したサンフランシスコ大学の同窓生3人の共同経営者(下写真)の一人であったジェリー ボールドウィン(元英語教師)でした。

 

中央が命名者のジェリー・ボールドウィン(元英語教師)

 

海洋文学の愛好者だったジェリー ボールドウィンは、愛読書のハーマン メルヴィルの小説「白鯨」に登場するコーヒー好きで沈着冷静な副船長格のスターバック一等航海士の名前に閃きを得て、港町シアトルで開業したコーヒー豆の焙煎専門店の一号店を「スターバックス」と命名。共同経営者の元歴史教師と作家も同意します。

 

今も営業中の港町シアトルのスターバックス一号店

 

コーヒー豆の焙煎専門店「スターバックス」がシアトル市内で6店舗に拡大した1987年3月、元スターバックスの営業責任者だったハワード・シュルツ氏(下写真)に買収されて、コーヒー豆焙煎店ではなく、米国には存在していなかった欧州スタイルのコーヒーショップのチェーン店スターバックスとして再出発する事となります。

 

その後のスターバックスは、米国のワシントン州、イリノイ州、オレゴン州、カリフォルニア州、カナダのバンクーバーを含む165店舗まで急拡大。紆余曲折はあったものの、全米各地と世界各地への出店を続け、今や世界80カ国以上、3万店舗以上を展開する世界的規模のコーヒーショップチェーン・スターバックス社として躍進を遂げています。
 

スターバックスの実質的創業者ハワード シュルツ氏

 

コーヒー豆の深煎り焙煎専門店創業者のジェリー ボールドウィンは、ハーマン メルヴィルの長編創作小説白鯨」の脇役として登場するコーヒー好きのスターバック一等航海士の統率力に共感を覚えて創業店名を「スターバックス」と命名したと語っていることから思いを巡らすと・・・

 

彼自身は長編創作小説白鯨」の元ネタとなった手記の捕鯨船エセックス号の驚くべき悲惨な難破の物語を書いたオウエン チェイス一等航海士(長編小説ではスターバック一等航海士)の存在に気付いていなかったかもしれませんね。

 

想像を絶する93日間の苛酷な漂流から生還したオウエン チェイス一等航海士は、漂流中の飢餓の悪夢に終生悩まされ続け、晩年には自宅の食べ物を隠したり、一人で啜り泣いたりすることが多くなり、やがて失意のうちに亡くなってしまいます。

 

その後、オウエン チェイス一等航海士の息子も捕鯨船の乗組員となり、同乗していた小説家志望の青年に亡き父親の手記「捕鯨船エセックス号の驚くべき悲惨な難破の物語(英題:Revenge of the Whale: The True Story of the Whalesip Essex)を読んでもらうことになるのですが・・・

 

その小説家志望の青年船員こそ、後年になって長編創作海洋スペクタクル小説「白鯨」(英題:Moby-Dick; or, The Whale)を書くことになるハーマン メルビルだったと言うのですから驚きです。しかし彼は、先述したようにオウエン チェイス一等航海士の書いた人間の凄まじい生き様の部分を創作小説の中で書くことをしませんでした。

 

その苛酷な実録部分が明らかになるのは、西暦2000年にナサニエル・フィルブリック氏が発表したノンフィクション作品邦題:復讐する海ー捕鯨船エセックス号の悲劇」(英題:Revenge of the Whale: The True Story of the Whalesip Essex)となるわけですが・・・実際に発生した難破漂流事件から150年後のことでした。