僕が「ノウゼンカズラ」を初めて見知ったのは、1989年に赴任したタイ国のバンコクでした。
タイ人富裕者の屋敷を囲繞する白壁の内側から道路側に垂れ出た蔓に濃橙色の花が連なって咲いていたのを見て、タイ人ドライバーに花名を訊くと、「มธุลดา だったかな?」(発音:Mathuldaa)と心許ない返答でした。彼に「Mathuldaa」の英語名を訊ねるも、頭を左右に振って笑うだけでした。
「มธุลดา?」(発音:Mathuldaa) 撮影地:タイ国
帰宅して「泰英辞書」を捲ると、「มธุลดา」(発音:Mathuldaa)は、北米大陸東部を原産地とするBignoniaceae科・Campsis属の「American trumpet vine」との記述がありました。
「มธุลดา」=American trumpet vine(米国系凌霄花) 撮影地:タイ国
英和辞書と日泰辞書で植物分類名の日本語訳を調べると、ノウゼンカズラ科ノウゼンカズラ属の米国系ノウゼンカズラ(米国系の凌霄花)らしいと分かったのですが、字面だけの情報なので不安感が残ります。
米国系ノウゼンカズラ(米国系凌霄花) 撮影地:タイ国
手元の赤色系の植物だけを編集した安物のタイ語版の写真図鑑で念押しをすると、バンコク郊外で観たと同じ濃橙色の「มธุลดา」(発音:Mathuldaa)の花写真が掲載されていました。これで間違いないとの確信を持ちました。
American trumpet vine=米国系ノーゼンカズラ 撮影地:タイ国
タイ国に赴任して間もない1989年当時の僕は、米国系ノウゼンカズラしか知らなかったのですが、2018年に日本に本帰国してから、中国系ノウゼンカズラ(凌霄花)の存在を初めて知りました。
植物史料によれば、中国系ノウゼンカズラ(凌霄花)が日本に渡来したのは平安時代初期頃となっていますが、米国系ノウゼンカズラの日本渡来は、遥か後年の大正時代だった事を知って自分の認識不足を反省しました。
下掲写真の花が東京都多摩東部で咲いていた中国系ノウゼンカズラ(凌霄花)ですが、よくよく観察すると、タイ国で見ていた米国系ノウゼンカズラと比較すると、何処となく違った趣があるように見えます。
中国系 ノウゼンカズラ(凌霄花) 撮影地:東京都多摩東部
さて冒頭のタイトルに書いた「米国系ノウゼンカズラ」(学名:Campsis radicans)と「中国系ノウゼンカズラ」(学名:Campsis grandiflora)を識別するポイントです。
植物に詳しい御方からは「何を今さら」と蔑視されること必定ですが、両者の見極め方を知らなかった僕にとって、自分の眼で見て容易に識別できる方法は、まさに目から鱗でした。
先ずは「米国系ノウゼンカズラ」と「中国系ノウゼンカズラ」の違いの最大特徴である「咢の色」を写真で御覧頂きたいと思います。(下写真2枚)
上掲写真の「米国系ノウゼンカズラ」は、花筒の根元の「咢の色が薄桃色」になっています。
下掲写真の「中国系ノウゼンカズラ」は、花筒の根元の「咢の色が緑色」になっています。
専門家の資料には「咢の色違い」以外にも、①中国系の花弁は「橙色」だが米国系は「赤橙色」。②中国系の花弁直径は米国系よりも大きい。③中国系は離散花序だが米国系は集散花序。④中国系の葉数は米国系より少ない。⑤中国系の葉は両面とも無毛だが米国系は裏面だけ有毛。➅中国系の萼片の長さは米国系よりも長く先が鋭い・・・等々の記述もありましたが、門外漢の僕には「咢の色の違い」が最も容易な識別方法となりました。
「ノウゼンカズラ」には、北米系(学名:Campsis radicans)と中国系(学名:Campsis grandiflora)の他にも、新種の「Pink trumpet vine」(学名:Podranea ricasoliana)がある事を知ったのもタイ国でした。北米系と中国系の人為的交配なのでしょうか?(下写真)
Pink trumpet vine(桃色ノウゼンカズラ) 撮影地:タイ国
但し「Pink trumpet vine」(意味:桃色の凌霄花)のタイ語名は、「ชมพู มธุลดา」(意味:桃色の凌霄花)ではなく、「チョンプー・ハワイ ชมพูฮาวาย」(直訳:ハワイのピンク色)の園芸名で販売されていました。
タイ国の園芸家は、「米国系ノウゼンカズラ」よりも「ハワイのピンク色」と名付けた方が売れると思ったのでしょうね。