涅槃仏には9種類の形態がありますが、1形態~7形態は、右脇を下にして臥する涅槃仏です。それぞれ右手の位置が違っていて、それぞれに込められた意味合いも違います。8形態9形態は、釈迦牟尼の亡き骸が仰向けになっている御姿となります。

 

7月4日のブログでは、タイ国西部の洞窟寺院(タムカオルアン ถ้ําเขาหลวง)で右脇腹を下にして横たわる涅槃仏を御覧頂きましたが、本日の話題は、バンコク都とスパンブリ県の寺院で、念願かなってお逢いできた第8形態第9形態の仰臥する涅槃仏です。

 

下掲写真は、スパンブリー県プラ・ノーン 寺(วัดพระนอน)でお逢い出来た仰臥する涅槃仏の第8形態です。最大の特徴は、両手をお腹の上に置いた状態で、弟子や信者の弔問を受けられている御姿です。

 

 

第8形態:弟子の弔問を受ける涅槃仏 於:プラ・ノーン 寺(วัดพระนอน)

 

下掲写真は、弟子や信者によって荼毘に付される直前の第9形態の仰臥する涅槃仏です。残念ながら、身体全体に黄衣が被せられているために、両手のスタイルを確認することが出来ません。

 

第9形態の涅槃仏 於:ラーチャクエウオラウイハーン寺院(วัดราชคฤห์วรวิหาร)

 

話を第8形態の涅槃仏に戻しましょう。

タイ国に在住していた折に、偶々読んだタイ語の仏典資料の中に、「スパンブリー県のプラ・ノーン 寺にパーンサデットダップカン パリニパーン-パーンティー(ปางเสด็จดับขันธปรินิพพาน-ปางที่ )」と呼ばれる第8形態の珍しい涅槃仏が安置されているとの記述を発見。

 

珍しい涅槃仏」の表現に触発されて、スパンブリー県のプラ・ノーン 寺(วัดพระนอน)に車を駆って向いました。プラノーン寺院で第8形態の涅槃仏(下掲写真)を目前にした時は、「葬式の時だけ仏教徒」の僕であっても、無意識に掌を合わせていた事を10数年後の今になっても明瞭に思いだすことが出来ます。

 

第8形態の涅槃仏 於:プラ・ノーン 寺(วัดพระนอน)


それから数年間、未だ知らぬ第9形態の涅槃仏にお目に掛りたいと夢を追い続けつつも果たせずに、高野山金剛峯寺の涅槃絵図に描かれた第9形態の涅槃仏の複写絵を眺めるだけの日々が続いていたのですが・・・ある日のこと・・・

 

タイ人の友から、バンコク・トンブリー区の「ラーチャクエウオラウイハーン寺」(วัดราชคฤห์วรวิหาร)に、第9形態の彫塑された涅槃仏(※)が安置されているとの情報を入手したのです。※「パーンサデットダップカンパリニパーン-パーンティー9」(ปางเสด็จดับขันธปรินิพพาน-ปางที่ ๙)

 

早速教えられたトンブリー区の寺院に向かうと、冒頭から2番目に掲載した黄衣を被せられた仰臥する涅槃仏にお目に掛かることが出来たというわけです!バンコク・トンブリー区の寺院に安置されていたとは!「灯台下暮らし」とは此の事です。(下掲写真2枚)

 

於:トンブリー区 ラーチャクエウオラウイハーン寺(วัดราชคฤห์วรวิหาร)


トンブリ地区の寺院で出逢った第9形態の涅槃仏の横顔

 

冒頭にも書いたように、信者から寄進された黄衣を被せられているために第9形態の釈迦牟尼の姿態を観ることが出来ずにガッカリしたのですが・・・

 

ふと傍らを見ると、持参した涅槃仏の写真集を眺めているタイ人老女がおられました。彼女の後ろ越しに写真を覗き込むと、なんと!黄衣を被されていない第9形態の涅槃仏の御姿が掲載されているではありませんか!!!(下掲写真)

 

荼毘に付される直前の釈迦牟尼(第8形態の涅槃仏) 

 

まさに、両腕を伸ばして左右の胴体に添わせて仰臥する荼毘に付される直前の釈迦牟尼の亡き骸を表現した第9形態の彫塑だったのです。図々しく第9形態の涅槃仏の特徴を示す写真集の該当頁の撮影を請うと、気持ちよく対応して頂けました。感謝です。

 

老女のお陰で、第1形態から第9形態の全ての涅槃仏を、自分の目で直視することが出来た幸せ一杯の一日となりました。

 

追伸:彼女の事を「老女」と書きましたが、お話をしている内に分かったのですが、彼女と僕は全くの同年齢でした。